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お客様は神様です?  作者: 黒一もえ
1・これは波乱の幕開けですか?
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四章・お客様は何処ですか?

 来店早々奇妙な振る舞いをした新しいお客様、黒ずくめさん。

「ご注文は、いかがいたしますか?」

 物珍しそうにメニューを眺めていた彼は、ふむ、と悩んでから、

「ブレンドの紅茶…と、レモンケーキ?」

 What疑問系。いや、使い方違いますね。なぜ、疑問系、ですね。はい。

「このレモンケーキというのは、美味しいのだろうか…?」

 いや……美味しいか聞かれて美味しいと家って良いのでしょうか? そりゃぁ、音王さんが作った物だからまずいわけないんだけど…う〜ん。

 私がもんもんと悩んでいるうちに黒ずくめさんは決心を固めたようです。

「では、紅茶とレモンケーキ」

「少々お待ちください」

 私が厨房に入るとブレントさんが来ました。

「手伝わせてよ」

「お客様にやっていただくのは」

 ていうか一人でできることですし…。とか思っていると、ブレントさんはクスクスと小さく笑いました。本当に、惜しみなく笑顔になる人です。びっくりしますが、そうやって笑えることには憧れます。

「僕は、客である前に君の友人だよ? もっとも、僕はその先に進みたいんだけどね」

 おおぅ。さりげなく口説き文句(?)を交ぜるあたり、ルドさんの友人ですね…恐ろしい人…!

「では、お願いします」

 好意に甘えましょう。効率も良いですし。

「ブレントさんは、ショーケースのレモンケーキをカットしてください。一切れで」

 そのうちに私は特製ブレンドティーを淹れます。流石、我が家の配合した物。良い香りです。


 ブレントさんに給仕をさせるわけにはいかないので、丁重にお断りしてケーキと紅茶を運びます。

「ご注文の品は、以上でよろしいでしょうか?」

「…ああ」

「追加の場合はお呼びください」

 私はつとめて優雅にお辞儀をすると、その場を去ります。ノレンのことをお義父さんに報告しようと思ったのです。あ、でも、今は営業時間なので持ち場を離れられないし…午後になるのを待たなければ鳴りませんね。ふぅ。あと一時間で十一時か…。

「シャル」

 ブレントさんに呼ばれました。おや、ルドさんと相席ですか。まあ、二人が仕切りを挟んで言い合いしているのはとめるこっちが大変なので助かりますが。

「なんでしょう?」

「僕、何も頼んでいなかったから。とりあえず…ミルクティーを」

「はい」




 黒ずくめさんは自分の食べ物に夢中で、来店の時のような可笑しい行動はしませんでした。なんていうか、見る物聞く物全てが新鮮みたいな様子で、ルドさんとブレントさんの喧嘩(?)も、物珍しそうに眺めていました。

 そんなこんなでとっくに正午。そろそろお義父さんが起きてくるので昼食を作ることにしました。

 メニューはポトフ、それからハムとレタスのサンドウィッチ。私の朝食のついでですので時間はかかりません。鍋のスープを温め、皿によそうだけ。

「シャルロットっ!」

 うおっ。この後ろから来る感じは…

「お義父さん!」

「おっはろー」(注:おはよう+ハロー)

 にこにこと太陽のような明るさが特徴的な、オリヴィエお義父さん。後ろからハグしてくるのはルドさん並に「うわ…えぇ…」って感じですが、変態じゃないので許容します。まあ、三十路が何やってるんだ、という思いは強いですけど。

「シャルロット〜、昼飯は?」

「もうできたよ」

 私は、お義父さんには敬語を使いません。初めてあったとき、つまり、養子に入るときに言われたのです。敬語なんて使わなくていい。親子だから、と。

「そこで待ってて」

 近くにあった作業台と椅子を指さします。

「ん。りょーか…あ、でも、ブレントくんと話がしたいから店で食べる」

 私から皿とサンドウィッチを受け取ると、喫茶スペースに言ってしまいます。って、常連さんじゃないお客様もいるんですけど!

 私はお義父さんを止めようと喫茶に駆け込みます。

「…あれ?」

 見回すと、どこにも黒ずくめさんはいませんでした。

「お義父さん、黒ずくめのお客様を見なかった?」

「うん。俺が来たのと同じくらいに出て行った」

 さらりとしすぎて信憑性がありません。確認のためにルドさんとブレントさんを見ます。が、知らないというように肩をすくめられました。

「俺達は丁度口論してたから。オリヴィエが見たならそうじゃない?」

 口論の内容については聞かないでおきましょう。というか十歳以上年が離れているのにルドさん親しげですね。父親の名前を呼び捨てにされると複雑な気分だ…!

「それより、さあ」

 お義父さんが、心なしかどっしりした声で切り出します。

「暖簾《のれん》、どうしたの?」

 あ、やば。

「お義父さん……あの…怒らないで、聞いてね?」

「うん?」

 うわぁ! お義父さん、にっこにこのキラキラ笑顔。怖〜い。いや、本当に。

「その…斬られて、しまって…」

 次の瞬間でした。

「うがぁぁぁぁー」

 雄叫びを上げたのはお義父さん。

「僕の…僕の…最愛の日本コレクションがぁぁ。折角現地まで行ってわざわざ特注したのにぃぃぃぃ」

 そのまま頭をぶんぶんと上下に振りながら絶叫を続けます。このまま喉がかれるまでやるのでしょうか。

「ああ、金魚草の刺繍まで頼んだのになぁ」

 お義父さんは大人げなく泣き続けた後、ブレントさんに視線を移します。見られたブレントさんはとばっちりが来るのかと思ったようで、ビクついています。まあ、娘であってもその気持ちは分かりますよ。ルドさんみたいに鬱陶しくて暑苦しくて騒がしくて。でも憎めないんですよね。

「ブレントくん。君の店で暖簾を扱っていないかい? 金魚草の刺繍のやつ!」

「いや…ニホンの道具は斬新で人気だから在庫は少ないかな…? それに、暖簾は珍しくてないです」

 ブレントさん真面目だから素直に言っちゃっいました。お義父さん、目に見えてがっくり。

「もう、いいや。暖簾はまだまだあるから」

 あるなら騒いで迷惑かけるなよ、です。

「そんなことより、お代はいただきましたか?」

 私がお父さんに尋ねると、彼はショックを受けたような瞳で私を見ました。「そんなこと」発言に思うところがあったようです。

「おはねははらっへもはっへはいや」

 スプーンをくわえながら喋らないでください。

「お金は…払ってもらってないや」

 んなっ! お客様は神様ですが、代金を払わないのは泥棒さんです。おまけに、うちみたいに得体の知れなくてどこにあるかも分からないような店にわざわざお金を払いに来るお客さんなんているとは思えませんよ。

「大丈夫、大丈夫」

 お義父さんはにこ、っと笑います。

「残念だけど、「あれ」は、また来るから」

 お義父さんの笑顔は、自信と根拠に満ちあふれたものでした。

「そのときに、お代をもらおう。あと、暖簾代も、ね!」¥

 ……。


溺愛しているのは、オリヴィエかもです…。

予定と違う…

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