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過激派脱出大作戦! 2

 次の日、昼食を終えた莉緒はパソコンに向かいながら二人を待っていた。

「ん?」

 キーボードを素早く叩いていた指がぴたりと止まり、玄関の方へ顔を向ける。

「今なんか……」

 そう首をかしげた時、インターホンが二回続けて鳴らされた。

 莉緒は「はなか」と呟いて玄関に向かい、チェーンを外して扉を開けてやった。

「あ、莉緒先輩、こんにちは!」

「ノックしてからインターホン押す癖、相変わらずだよね。すぐわかったよ」

 小さく笑って莉緒が言うと、はなは顔を赤くして言い返してきた。

「ち、小さい頃からの癖で……つい。ほ、ほら、三つ子の魂百までって言うじゃないですかー」

「はならしいと言えばらしいか。ま、とりあえず入って。まだ一人来るから待たないと」

「すぐ出かけるのかと思ってたんですけど」

「ちょっとね。もう一人と相談してからじゃないと行けないんだよ」

 少し不思議そうにしながらも、はなは莉緒の後に続いて部屋の中へ入っていく。

 ソファにちまりと座っているはなに飲み物を渡して、莉緒はパソコンの前に再び座った。

「あの、先輩」

「ん?」

「何やってるんですか? あと、もう一人って……」

 暖かいココアを飲みながらはなが尋ねると、莉緒はパソコンに向かったまま「すぐにわかるよ」と短く返す。

 不思議そうな顔をしたままココアを飲むはなと、キーボードを無言で叩く莉緒の間に沈黙が降り積もる。

 そんな光景が十五分ほど続いた後、玄関の方から鍵を開ける音がしてはなが慌てて立ち上がった。

「せ、先輩!」

「何?」

 台所に自分の飲み物を取りに行っていた莉緒が、はなの慌てように首をかしげる。

「な、何じゃないですよ! 誰かが勝手に!」

「勝手に?」

 今度は莉緒が不思議そうな顔をするが、すぐにああと頷いた。

「そのもう一人が来たんだよ。合鍵渡してあるからそれで入ってきたんでしょ。……合鍵は不本意ながら、だけど」

 最後に付け足した呟きは、入ってきた人物がリビングのドアを開けた音と、はなの驚いた声でかき消されて誰にも届かなかった。

「え、えっ、誰ですか!? 男の人……!?」

 混乱して身構えるはなをソファに押し戻して、莉緒は「遅かったね」と声をかける。

「いつでもいいって言ってなかったか?」

「や、わりと早く来るかと思ってただけだから気にしないで。……さて、顔合わせと行きましょうか」

 めんどくさいな、と内心莉緒は思ったが、それになんとなく気づいたのはちらりと視線を向けてきた海理だけのようだった。

「せ、あの、せ、先輩」

「とりあえずはな、落ち着いて」

 混乱から戻ってこないはなと、新しく来た海理のためにココアと緑茶を入れて持ってきた莉緒はパソコンの前に椅子に座る。

「さてどう説明したものかな……とりあえず、はな」

「え、あ、はい」

「この子は私の後輩で、小織さおりはな。言ったかもしれないけどちょっとしたテレパシーで役に立つと思う」

 莉緒と海理の間をはなの視線が行ったりきたりする中、莉緒はぴしりと海理を指差して今度はなに向かって口を開いた。

「で、そいつが、えーと、結城海理だっけ。うん、そう。物質生成の異能持ってる」

「よろしく」

 淡々と挨拶をする海理に思わず「よ、よろしくお願いします」と返したはなは、慌てて莉緒に疑問をぶつけた。

「じゃ、じゃなくて、なんでっていうかその、どういうことなんですか! 全然話が見えないんです、けどー」

「えー……パス」

 海理に視線をやった莉緒が押し付けようとするが、海理は鼻で笑って「説明するからとか言ってたのはどこの誰だよ」と取り合わない。

「……ええと、はながこないだ見せてきたメモ、覚えてる?」

「え、あ、はい」

「あれに多少関わる話なんだよね。……簡単に言えば堂上先輩は、そこに座ってるやつの所属してるところで安全に過ごしてる。無事。信じられなければ連絡を取ってもいいし、とりあえず今はそれで納得してくれると助かる」

 かなりぼやかした説明に、はなは完全には飲み込めていない様子ながらも小さく頷く。

 それに安心して息をついた莉緒は、今日の本題をさっさと話してしまえと口を開いた。

「で、今日遊びに行こうって言ったのは……ちょっと人助けをしに行くことになったから、力を貸して欲しかったんだよね」

「力……ですか」

「そう。こいつの知り合いが、じゃなくて知り合いの娘?」

 首をかしげた莉緒に海理はため息をついて訂正を入れる。

「それでもいいような気がするが違う。ルカの……俺の知り合いの友人の娘」

「ああ、そうそう。それ。その子を助けてくれってのを手伝うことになったの」

 そう説明した莉緒に、はなは少し眉を寄せて質問した。

「でも、それってその人がやればいいこと、じゃないですか? なんで先輩……というか先輩と私が手伝わなきゃいけないんですか? 関係ないんじゃ……」

「それが微妙に関係なくないんだよね……あれがなければ私だって関係ないって突っぱねるとこなんだけど」

「あれ、って?」

 莉緒は小さくため息をついた。

「プラタナカルバ」

「え」

 一言、莉緒が言った単語にはなは息を呑んだ。すぐに疑問を含んだ視線が向けられるが、莉緒はわかってると言いたげに頷いた。

「そいつらが関わってるらしい。アジトの場所もわかることになってる。そこに異能者たちが捕まってるのは知ってると思うけど……それが問題」

「問題?」

「そう。問題も問題。先輩が失踪する羽目になった理由が絡んでくるんだけど、捕まってる異能者を全部丸ごと警察に連れて行かせるわけには行かなくなっちゃったんだよ。だから、先に助けて別件で警察をそこに呼ぶことになったわけ。そこで、先輩に関して知っちゃった私は協力せざるを得なくなって、私は知りたがってたあんたを引っ張り込んだ、と」

「……異能の紹介までしたのはそういうことですか……私に連絡役をしろって意味、ですよね?」

「正解。事情があって先輩には頼めなくてね。何か質問は?」

「警察に保護してもらうわけには行かない、っていうのはあの噂のせいですか? 指揮か……主任のことも?」

「そう。堂上先輩……主任の方からもある程度情報貰ったし、火のないところに煙は立たぬじゃないけど結構事実混じりらしい。だからかな。ただプラタナカルバをどうにもしないってのは不可能だから、私たちは非番の時に偶然騒ぎか何かに気づいて乗り込んで、応援を要請した、とかそういうことにしようってわけ」

「な、なるほど……」

 少し考え込んだはなは、少し不安そうに尋ねた。

「連絡役はいいんですけど、全然知らない人とはちょっと無理ですよー……?」

「えーと、それはどうにかするって言ってたと思うけど……だよね?」

 莉緒がそう聞くと、海理は腕時計をちらりと見て呟いた。

「ああ。……そろそろ来ると思うんだけど、遅いな」

「え?」

 はなが声を上げた瞬間、海理の頭上の空間がぶれた。

 そこに出現したのは赤い服を着た少年で、天井にぶつかってそのまま落下してくる。そんな少年の襟元を掴んで止めた海理は、呆れたような表情で声をかけた。

「凪、お前さ。座標の固定が甘いって何度言ったらいいんだ、俺は。専門じゃないのに」

「あー……悪い!」

 悪びれずさらりと謝る少年にでこぴんをかました海理は、はなに視線をやって口を開いた。

「ったく。……こいつは見たとおり空間移動の異能を持ってるんだが、こいつが依頼されたミラって娘とあんたを顔合わせさせる。そうしたらテレパシーが使えるだろう?」

 床に少年を置いた海理がそう言うと、目を丸くしたはながかくりと頷いた。

「その子はミラって娘のとこまで跳べるのか?」

 莉緒が一応、といった風に確認すると、海理はあっさりと頷いた。

「跳べる。ルカに写真見せられたよな?」

「ん、見た見た。らくしょー!」

 にかっと笑った少年が立ち上がると、海理を見て首をかしげる。

「で、イーズ、どいつ運べばいいの?」

「そこで目を丸くしてるやつ」

「ふーん。もう? まだ?」

「説明が終わったらだってよ。だからまだだ」

「あっそ」

 再び床に座り込んだ少年の頭上に、はなの呆然とした声が落ちてくる。

「いーず……? え、イーズって」

「あ、忘れてた」

 莉緒が手を打って、はなに声をかけた。

「こいつ、海竜のイーズね。一時的に共闘するからそのつもりで」

「ついでに忘れてたけど、こいつは九条凪。通称ロクス」

「先輩……いえ、その……もういいです」

 ぐったりとソファにもたれかかったはなが、諦めたように呟く。

「それと凪、お前外では、というかこの格好では俺のこと本名で呼べって言ってるだろう。いい加減覚えろ」

「えー。まぁ、うん。気をつける」

「どうだか。次ここ以外で言ったら閉じ込めるからな」

 うへぇ、と嫌そうな顔をした凪が突然立ち上がり、そこに座る面々を順に見る。

「で、どうすんの? 行かねーの?」

「そうだな」

 海理はちらりとはなを見やって「準備はいいか?」と聞いた。

 ぽけっとしていたはなは驚いて飛び上がり、慌てて頷く。

 それを確認した海理は凪に視線を戻して、短く言った。

「じゃあ、頼む」

「りょーかい」

 頼まれました! と笑って、凪はすたすたとはなの傍に近寄る。

「どっかに一部落っことしてかないように、くっついてなきゃいけねーんだけど……抱きついていい?」

「い、一部って……」

「移動する時に、なんての? 力のうまくくるめてない部分があるとそこだけ落としちまう、んだと思う。昔人形で練習してた時に試したんだけど、あれ人間でやったら相当グロいと思うんだよなぁ。でも抱きしめてるとうまくいくから」

 いい? と首をかしげた凪に、はなは若干腰が引けながらも頷きを返した。

「よっし。じゃ、行ってくるわー。イ、じゃない海理」

「ああ」

 まだ若干怪しい呼び方に苦笑しながら、海理はゆらりと消えた凪たちを見送った。

「……閉じ込める、ってどういうことなんだ?」

 微妙な表情で二人を見送っていた莉緒がぽつりと問いかけた。

「何が……ってああ、さっきのか。あれは、昔あいつが能力暴走させまくってた時があってな。それで被害が出ないようにもう一段補強をしといた部屋に放り込まなきゃいけない時があったんだ。元々海竜自体、俺や俺と同じ力を持ってるやつが少しずつ作って、メンバー全員で組み立てたものだからそう心配することはないと思うんだが」

「空間移動できない、というか能力が効かない部屋、ってことか」

「そう。暴走しなくなってくると、あの性格だからな。悪さをして罰に閉じ込められる、とかよくやってたわけだ。海竜にもちびどもは多少いたから……なんというか悪ガキ集団まとめて、とか色々あったんだよ」

「なるほど」

 納得したらしい莉緒が持っていたマグカップの中身を口に含み、そういえばと海理を見た。

「どのくらいで戻るかな?」

「さぁ」

 そう長くはかからないだろうと海理は言って、軽く目を閉じた。


 なめくじとうっかり出くわして俺たちまで巻き添えにされたらたまらねぇからな、と言われ、一人離れた場所にミラは閉じ込められていた。

 時々彼らの用事で連れ出されるか、食事を誰かが持ってくる時以外開かない扉をちらりと見て、ため息をつく。

「どうしてこうなった……」

 時計もなく、今がいつかもわからない。かろうじて食事の時間と壁の上部にある窓からなんとなく知ることができる程度だ。

「さっき食べたけどお腹減ったような気がするなぁぁ」

 娯楽もないのにどう暇を潰せというのか! と叫びたいくらいだ、とベッドに座ったまま一人ごちる。

 そんな時、愚痴っていたミラの前に突然、ゆらりと空間の揺らぎが生まれた。

「うひゃあっ」

「静かにしろよー」

「わ、わかってますよっ」

 小さな悲鳴と共に小柄な女性が尻餅をつき、呆れたような表情の青年が手を貸して立たせた。

 それをミラがぽかんと見ていると、紺藍の髪の青年がミラの方を見た。

「え」

「あのさぁ、ここ、誰か来る?」

 朱色の瞳に見つめられ、ミラは一瞬戸惑った。

「や、えと、たぶんまだ当分来ないと思う」

「そう。じゃあいいか」

 俺、凪って言うの、と自己紹介した青年が、手を握ったままだった女性を引っ張ってミラの前に立たせる。

「ひゃ、ちょっと」

「こいつ、はな。あ、お前どのくらい知ってれば話せんの?」

「え、と、一応顔見知りになれば……名前も知ってればなおよし、です」

「あそ。……あんたは、名前なんだっけ?」

 ミラは何が起きているのか、と混乱しながらも「ミラ、よ」と口に出した。

「園田ミラ。……っていうか、状況説明してくれないかな? 正直何がなんだか理解できてないんですけど」

「俺、頼まれてきたんだよ。えーと、ルカ? ってのにあんたを助けてくれって」

 その言葉を聞いて、ミラはぱっと表情を明るくした。

「ルカおじさんが来てるの!?」

「日本にはいねーけどな」

「じゃあその、助けてもらえる、のね?」

「あー、うん。ただ、このままあんたを連れて帰るってのはちょっと待って欲しいって言ってた。海理が」

 凪が言われたことを思い出しながらそういうと、ミラは少し嫌そうに眉を寄せた。

「どうして?」

「あんたをここに閉じ込めてるやつらを放置しとくわけにはいかねーんだと。すぐにここのやつらは全滅すっから、心配とかすることはないと思うけど」

「……その人を連れてきたのもその、あいつらを一網打尽にするため?」

「らしいぜ? テレパシーで連絡取り合うらしい」

 まだよくわかっていなさそうなミラが、小さくため息をつく。

「じゃあ、仕方ないし待ってる。……ところで悪いんだけど、時計貸してくれない、かな」

「時計? なんで?」

「ここ時計がなくて。時間わからないと後何分で行くとかなんとか言われても、わからないし」

 ミラがそう訴えると、凪はそんなもん? と首をかしげながら自分の腕時計を渡してやった。

「後で返せよ」

「返すよ!?」

 ミラが思わず叫ぶと、凪はくくっと笑って身を引いた。

「じゃ、今後連絡はこいつ、はなとテレパシーでやるからそのつもりで頼むわ。あ、見張りとか時間わかるか?」

「時計がなかったから正確にはわからないけど……今なら暗くなる頃に、夕飯持って一人来る。いつもなら、だけど」

「ふーん、時間わかんないとやっぱ不便なのな。まぁいいや」

 くるりとはなに向き直った凪は、ここに跳んでくる前と同じように抱きついた。

「んじゃ、また後で。夜くらいにな」

 その言葉が終わると同時に、ミラの前から二人の姿は消えていた。空間移動の余波で一瞬、空間が揺らいだような現象が残ったが、それには気づかずミラはベッドに倒れこんだ。

「……本当にいったい何事……」

 誘拐されたり、こき使われたり、監禁されていたり、ミラがため息をついた数はもう数え切れない。だが、先程の凪という青年と、はなというらしい女性が来てからのため息はそれまでと少し異なるような気がした。青年――凪は説明が下手なのか、いまいち理解できない部分も多かったが、自分がこの状況から脱出できるらしいことだけは理解できたからだ。

 騒がしい夜になりそうだ、とミラは横たわったまま目を閉じた。どうかナメクジが出現しませんように、と内心思いながら。

いよいよタイトルにもある『ハリネズミ』ことミラちゃんが登場しました。こう見えても年長組。アラサートリオのその3です。そして新キャラはもう一人。凪は言動から幼く見えますが成人はしてます。事情はそのうち上げる番外編にて。


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