300年ダンジョン
「久しぶり……あたしたちは、コーボーのギルドを拠点にしていたのよ。連絡が来て急いで駆け付けたところだけど……ペークトさんたちとは、まだ連絡が取れていなのね……。」
ナーミが嬉しそうに笑顔でスースーに話しかけた。スースー達1チームしか来ていないことで、ちょっとショックを受ける。百年ダンジョン攻略の時ですら3チームで挑戦しようとしていて、その時は俺たちもついでに誘われたわけだ……優秀なチームであれば、1チームでも多いほうがいいようなことを言われた。
今回はさらに上の300年ダンジョン攻略するわけだからな……仲間の2チーム到着までもう少し待つことになりそうだな。
「ああ……どうやら僕たち2チームだけで、救出に向かうしかなさそうだね。」
ところがスースーは、ショッキングなことを言い出す。
「えっ……?だけど、ジュート王子様たちが向かったダンジョンというのは、この王宮建設前に攻略されたダンジョンということだったから、そうなるとさん……」
「そうだ……300年ダンジョンということになる。僕も前回攻略年を聞いて驚いたよ、まさか300年間も放置していたダンジョンがあったとは……稀にギルド未管理のダンジョンが見つかる場合がある。
多くはできて間もないダンジョンばかりで、ボスもまともに成長しておらず、精霊球さえも取得できないような状態のようだが、出来てから百年以上も未発見のダンジョンに偶然遭遇した場合、単独チームでは脱出できなくなる場合があるので不用意に入らないようにと、以前は初級冒険者講習で必ず注意喚起されたらしい。
ところが20年程前に冒険者活動が活発になった時期があって、S級冒険者なるものが出現。彼らにより、この大陸に存在する未管理ダンジョンは全て発見されつくしたといわれていた。現在では未管理ダンジョンが発生していたとしても、20年未満のごくごく若いダンジョンしか存在しないようだね。
そんなわけで、昔は年数が経過したダンジョンがどれほど危険であるか説明していたわけなんだけど、さらにもっと困ったことがある。ふうっ……。」
スースーがそう言いながら、ため息をつく。
「困ったこととは何だい?」
「ああ……ここにダンジョンの構造図がある。とあるところから入手したらしいのだが、王宮の地下ダンジョンを300年程前に攻略したときの構造図だ。」
そういって、スースーは1枚のA4用紙を見せてくれた。手書きの構造図のようだが、恐らくは写しであろう。原本をジュート王子一行が持っていかれたのではないのか?まさか持ち忘れたということなのか?そういえばこの構造図の書き方は、トーマが写した構造図と同じ書式だ。
カルネの持っていたダンジョン構造図は、仲間が持っていたのを写させてもらったものが多いと言っていたはずだが、構造図の書き方の様式というのはある程度統一されていたのかもしれないな。
「まさかとは思うが……持っていき忘れたのかい?」
「まさか……念のために急いで写しを作成し、原本の方をジュート王子様が携帯されたようだ。そうではなくて、この構造図自体に問題がある。この構造図は1層しか記載されていないのだよ。前回の攻略時点では、若いダンジョンだったわけだね。
ダンジョン内でボスが成長していき40年以上経過すると、ボスは十年かけて1段下の階層に進むと言われている。そのためほとんどのA級ダンジョンは2層構造となり、攻略するのに最低でも2日以上かかると言われているわけだ。階層構造完成後から40年経過するともう一層追加される。
百年ダンジョンとなると3層構造となるため、僕たちの時も3日間攻略にかかったわけだね。最も一度階層構造ができてしまうと、攻略後に新ボスが誕生して40年経過しても階層が追加されることはない。3層の百年ダンジョンは百年ダンジョンである限り3層構造だ。
新ボス誕生後140年以降になると4層目が追加されるけどね。
つまり王宮地下のダンジョンは、攻略してから300年経過しているから7層構造であるはずなんだ。
構造図もなしで、冒険者でもないメンバーだけでダンジョンをさまよっていたとしたなら、しかも7層構造のダンジョンであるとするなら、時がたてばたつほど見つけるのは容易ではなくなってしまう。
不慣れであれば、恐らく構造図を持っていたとしても1層目を通過するのに2、3日かかる。構造図のない2層目を通過するのにはその倍以上……そう予想すると、ジュート王子様たちは現在2層目の終盤か3層目の最初の段階と言えるはずだ。
もっと深い階層まで行かれてしまうと、捜索範囲が広くなりすぎて見つからないだろう。すぐに行って、少しでも早く追いつかなければいけない。」
スースーが構造図の写しを手に、渋い顔を見せる。
確かにそうだな……あの広いダンジョン内を当てもなく王子たちを探して回らなければならないのだ。俺たちはカルネの残してくれた構造図を頼りに、最短ルートしか普段通らないが、ふかひれ入手するために寄り道したときは、昼には終わるところを夕方近くまで時間がかかってしまった。
あれだって構造図を持っていたからであり、何もなければ同じところをぐるぐると回ったりして、もっともっと時間がかかっていたはずだ。なにせ、襲い掛かってくる魔物たちを倒しながら進まねばならないわけだからな。ハイキング気分で、きょろきょろと周りの景色を見ながら、歩くのとはわけが違うのだ。
「わかった……急がなければならないのなら、2チームだけで向かおう。」
他チームを待っている余裕がないということは理解した。心細いが仕方がないだろう。出発前に道具屋で回復水に解毒薬と弁当を補充しておいたからな。さすがに日持ちしない弁当はあきらめたが、賞味期限が2週間の回復水は40本で、解毒薬は10本クーラーボックスに入れて持ってきているから、何とかなるだろう。
弁当は冒険者の袋に2週間分入れてあるし、米など持ち込めば肉は中でも調達可能だろうから心配はいらないはずだ。
「それがだね……問題があるんだ……構造図のないダンジョンへ向かうには……要するに2階層目以降を進むためには、必要な職業があるわけだ。
ダンジョンは迷路のようになっているからね、分岐を見つけた場合はどちらに進むべきか、斥候を出して先の様子をうかがう必要性があるのだけど、それには機動力の高いメンバーが必要となる。つまり盗賊か忍びなどがうってつけなわけだけど、せめて拳法家が欲しい。
だけど僕たちのチームは回復系の僧侶はいるけど、他は弓使いと剣士と僕が騎士だからね。回復系を入れているから、破壊力を重視しているのだけど、機動力は落ちる。
君たちのチームは以前伺った時は君が剣士でナーミが弓で、あと一人は魔法使いだったね。そうなると機動力のあるメンバーが一人もいないということになる。ペークトのチームにもラーミニのチームにも機動力の高いメンバーがいるので、A級ダンジョン攻略時は助かったのだけど、彼らがいないとかなりきついね。」
スースーががっくりと肩を落とす。
「ああ……だったら問題ない。トオルは忍びだからうってつけだ。それに俺は剣士だが、機動力には自信がある。2人で手分けして、分岐の先を探ることができると思うよ。」
そういえば、俺たちはチームメンバーの紹介もしてはいなかったな……かなり助けてもらったというのに、申し訳ない……。
「ああそうか……そういやメンバーが一人増えているものね。新しいメンバーが忍びなわけだ……。」
「いや……そうじゃない。前からいたメンバーのトオルが忍びだ。新たに加わったメンバーのショウが魔法使いだね。と言っても俺達は以前から精霊球をもって魔法を使っていた。補助魔法としてだがね。ナーミも火の精霊球を持っている。専任で魔法のみを使うメンバーが一人増えたわけだ。
まあ、一緒にダンジョンに入って行動していけば、俺たちの戦い方を見るだろうから、すぐにわかるよ。」
スースーが勘違いしている様子なので訂正しておく。まあ百聞は一見に如かずだ、戦いぶりをお見せすれば納得いただけるだろう。
「ふうん……前から感じていたけど……君たちチームは本当にミステリアスだよね……特に君……。」
そういってスースーが目を合わせてくる……まずい……何か感づかれたかな?深い琥珀色の瞳に見つめられると、ドキドキしてきた。
「僧侶がメンバーにいるということは、回復系に関してはお任せしてもよろしいのでしょうか?」
するとトオルがスースーに質問を投げかける。
「ああ……もちろんだよ。戦闘が過熱した場合、間に合わない可能性もあるから回復水はある程度持っていたほうがいいけど、基本的に僕たちのチームの僧侶が手当てをするから、任せてくれ。回復水を使うよりも復帰までの時間は短縮されるはずだ。さらに、若干だけど魔法耐性も向上させることができる。
ジュート王子の部隊にも、回復系の僧侶は1名いるようだし、軍隊だから斥候の隊員もいるはずだけど、やはり不慣れなダンジョンだから心配は心配だね。
合流して先導できればダンジョンから脱出可能だろうから、急いで向かうとしよう。」
よかった……話がそれてくれたな……トオル、ありがとう。
「じゃあ、ダンジョン内は夜も昼もないし、このまま向かうとしよう。輝照石が3つあるけど、1石は光量が乏しいから2石だけ使って、俺とトオルが前衛を担当する。斥候も任せてくれ。」
予備の輝照石は、装甲車の荷台用照明としてナーミが持っているので、必要となれば使うだろう。
「了解した。僕たちも輝照石は2つ持っているから、後衛を担当するよ。百年ダンジョン以上は、後ろも気を付ける必要性があるからね。背後に回られて、不意打ちされたらすぐに全滅だ。」
スースーが、何とも恐ろしいことを告げる。ううむ……後ろから襲われるのは嫌だな……。
「では、こちらへどうぞ……。」
軍服姿の恰幅のいい中年オヤジが、案内してくれる。確か、前回王様に魔法効果を説明したときにいた、陸軍中将だったかな……軍の精鋭を派遣したということだから、これでジュート王子の身に何かあったらと、彼も気が気ではないだろうな……。
王宮本殿を出て、向かったのは北門……ではなく、そこを左に曲がってまっすぐ行った先にある、北西の離れだ……ここは……ジュート王子が賊に襲撃された場所ではないか……。
『ガチャッ』陸軍中将は、何も言わずに離れのドアのかぎを開けて、中へ入っていく。入り口を入って中央の廊下を進んでいくと、離れの中はすでに修復されているようで、賊が侵入して荒らされた形跡はどこにも見あたらないようだ。
「こちらになります。」
そういって陸軍中将が示した先は、廊下の突き当りの床……木質の床板がめくられて、基礎が丸見えになっているではないか……無理やり引っぺがしたといった感じだ。
つまり、ここにダンジョンの入り口があったということは、恐らく知られていなかったのではないのかな?
違うか……知っていて入り口を隠す目的で離れを作った……一つだけだとレイアウト的に変だから、4隅にひとつづつ作ったと考えたほうがより自然かもしれないな。
どうしてダンジョンを隠す必要性があったのか……王宮をどうしてこの場所に作る必要性があったのか、といったことにもつながってきそうだな。
「梯子をかけておりますが、そこを降りると人が通れるくらいの穴があり、スロープになっているようです。その先がダンジョンであろうと想定されております。」
陸軍中将が、床板をめくったさきの穴にかけられた金属製の梯子を指さしながら説明してくれる。ギルド未管理ダンジョンだから、このような入り方は仕方がないわな……カルネに紹介された未管理ダンジョンも似たような感じだったからな。
「じゃあ、行きます。」
梯子を伝って降りていくと、2mほどで下は土となる。かなり高くコンクリート基礎を作っているのは、やはりダンジョン入り口というのを意識してのことだろう。その先に人が通れるくらいの穴が開いているので、クーラーボックスを腹側において、スロープを滑っていく。
『ザザザザーダッ』シューターから放り出されるようにして飛び出した先は、高さが2mほどの洞窟内だった。幅が3mほどしかないので、あまり大きくはないダンジョンと言える。
炎牛などが突進してきたら、端へ寄っても避けられない可能性が高いので、ちょっと不安だ……ここは何のダンジョンなのか、構造図には記載がなかったからな。発生してからの期間が短すぎて、精霊球の回収ができなかったのかもしれない。出現する魔物で、予想するしかない。
『ズザザザザッタッ』頭の上から大きな音がしたので、慌てて飛びのくとトオルが天井から降ってきた。うまいこと着地で来たようだが、ナーミとショウは受け止めてやった方がいいだろう。
『ザザザザー』「きゃっ」『ボスンッ』上から音がしてきたので、慌てて下に行って両手を差し伸べ、何とかナーミを受け止め、『ザザザザーッ』「わあっ」『ドスンッ』更にショウも受け止めてやる。ショウは男の姿に擬態しているので、かなり重かったが仕方がない。運動能力は少女のままなのだから、サポートは必須だ。
「ありがとう……。」
ショウとナーミに感謝され、さらに上を見上げる。
『ズザザザザザーッ』銀色の甲冑が降ってきたので慌てて飛びのく。『シュタッ』スースーは華麗に着地した。
『ザザザータッ』『ザザザータッ』『ザザザータッ』後続の他メンバーも全員着地を決めたようだ……まあ男に関してはサポートする気などない。
「じゃあ、出発しよう。」
スースーの掛け声で、俺とトオルが先頭で歩き出す。1層目は構造図があるので、悩まないで済むから進むのは楽だ。




