驚愕の電信内容
「なになに……王家所有の、王宮建設前に攻略した記録のある王宮地下ダンジョンに、ジュート王子が挑戦して失敗の模様、10日経過して帰還せず。王子含め、カンヌール陸軍精鋭20人編成部隊行方不明。持参した食料は1週間分のみ。至急救出を乞う。百年クエスト攻略いただいたスースー殿にも依頼済み……とある。
なんとまあ……ジュート王子様自らダンジョン攻略しようとして、戻らないということのようだ。精霊球を補助魔法として使用する戦術説明した折に、自ら取得した精霊球でなければ最大効果は得られないとお教えしたから、もしかすると自軍の魔法部隊の隊員を連れて行った可能性が高いな。
デモンストレーションを、かなり興味を持ってご覧いただいていた様子だったからな、ご自分でも取得して効果確認してみたかったのかもしれない。失敗したな……カンヌール軍強化の役に立てばと思ってお教えしたのだが、かえって仇になってしまったようだ。」
「王宮建築前といいますと……シュッポン大陸の前統一王朝滅亡がおおよそ350年前。そこから戦国時代が始まり、地方豪族であったカンヌール家が、ヌールーの地に王宮を建設して独立国家を宣言したのが、290年前と歴史の授業で習いましたから、そのダンジョン攻略は300年近く前ということになります。
百年ダンジョンどころか、300年ダンジョンということですね……それを冒険者経験のない兵士だけで立ち向かうというのは……無謀としか言いようがありません。」
トオルが冷静に解説する。
元々A級冒険者としての力は十分にあるはずのトーマではあるのだが、それでもより簡単にダンジョン攻略ができているのは、カルネの残してくれたダンジョンの構造図と、俺が思いついた魔法を戦闘時の補助として使用する効果があげられるのは間違いがない。
それを自慢げに披露して、さらにダンジョンのボスが精霊球を所持するにふさわしいものかどうか、攻略に来た冒険者を見極めているのだと、知った風なことを声高らかにお教えしたのが失敗だった。
俺の言葉を真に受けて、ジュート王子自らがダンジョンへ足を踏み入れてしまったというわけだ。ギルドに冒険者登録して、ギルド管理のC+級ダンジョンへ挑戦いただければそれでもよかっただろうに、よりにもよって300年ダンジョンって……いくら何でも無謀すぎる……。
「どうするのよ……?」
「どうするも何も……救出に向かうしかないだろう……少なくとも俺とトオルは行くよな?」
一人じゃ心細いので、トオルの顔色をうかがう。
「私はワタルと一心同体ですので、ワタルが行くといえばどこへでもお供いたします。」
トオルはいつものように、感情をほとんど出さずに答える。奴には恐怖心とかはないのだろうか?
「仕方がないわねー……男爵にしてくれたし、毎年ドレスを贈ってくれるって約束もしてくれたから、カンヌールには恩義もあるのよね……あたしも行くわ……。」
ナーミは了解してくれた。
「僕も行く……だって生まれた国だから……。」
ショウは……まあ当然行くわな……。
「じゃあ悪いがクエストは中止にして、このまま別荘に戻ってすぐに荷づくりだ。無事救出できれば、次はマースへ行くことになるだろうから、チートさんにはお別れを言って行かなければならないな。」
急いでギルドを後にして、乗合馬車で別荘へ戻る。
「えっ……お別れ……ですか?ここを出ていかれるということでしょうか?でも……王子様からは、まだまだ当分この地にご滞在いただいて問題ない旨、お聞きしております。何も、今出ていかれなくても……。」
荷造りを終えチートにお別れを告げると、すごく悲しそうな顔をされた。キーチ達も毎日来なくなってしまったようだし、寂しいのだろうな……だが俺たちが出ていけば、ここは地域の恵まれない人たちへの配給所として生まれ変われるはずだ。そうすれば、すぐにたくさんの人たちが集まってくるから、寂しくはないだろう。
「いや、本当はすぐに次の目的地へ行くわけではないのです。ちょっとカンヌール国のダンジョン攻略を依頼されましてですね……そこが済み次第、次の目的地へ向かうのです。
恐らく直接そちらへ向かうため、今日でお別れということになります。短い間ではありますが、本当に大変お世話になりました。チートさんご夫妻の人々に対する温かいお気持ちは、今後も忘れずに、私も同じように人と接していければと思っております。」
そういって頭を下げる。本当に、こんな優しい気持ちの人に出会えたことは、幸運だったと思っている。
「そうですか……お国へ一旦戻られるというわけですね?そこから先は……どちらへおいでですか?」
「はあ……サーケヒヤー国のマースを目指すつもりです。」
「おおそうですか……マース湖のほとりは風光明媚ないいところと聞いております。この地と同様、漁業の盛んな街のようですね……向こうは淡水湖の魚たちのようですが……。
ですが……カンヌールからサーケヒヤーへ向かうには、途中でカンアツを通過されますよね?その時に、ここへお寄りいただくわけには、いかないのでしょうか?あの、簡易宿泊施設……ずいぶんと頑丈そうですが、カンヌールでのダンジョン攻略の際に使用するわけではございませんよね?
お荷物になるでしょうから、ここへ置いておかれて、そうしてマースへ向かう時に立ち寄られて回収なされるのが、よろしいかと存じますよ……ねっ、そうしてはいかがでしょうか?」
チートさんは、うまいことを思いついたと、口角を上げて含み笑いを浮かべる。
「あっ……はあ、まあ……わかりました……ホーリ王子様にもカンアツに来た際は、アーツの王宮かこの別荘かどちらかに立ち寄るよう、お誘いいただいております。どうせちょっと寄り道するだけですから、マースへ向かう途中に寄らせていただきます。
装甲車の荷台部分は……ヌールーへ向かう道中に野営する際に使用しますので、持参いたします。
それでですね……これまでの宿泊費用の清算をお願いいたします。次回立ち寄った際に忘れると、大変ご迷惑をおかけしてしまいますからね。お願いいたします。」
マースへ向かう際にカンヌールを素通りしたと知れると、後でホーリ王子から何を言われるかわからないので、チートさんに会いに別荘は立ち寄ることにしよう。王宮に直接飛来するよりも、こっちのほうがはるかに気が楽だ。
「宿泊費用は、無償とさせていただきます。」
そういってチートさんは頭を下げる。へっ?どういうことだ?
「いや、そんなはずはないのです。こちらへご厄介になる際に、宿泊費用は取り決めしていただきました。確かに市場の半額以下であり、しかもこのような素晴らしい施設であれば、断然お得な価格ではありましたが、少なくともお約束通りの金額は支払わせてください。そうでなければ、こちらとしても気が収まりません。」
ホーリ王子のご厚意で、取り壊し予定の旧別荘に無理やりお邪魔しているのだ。どうせ取り壊すのだからと、無償でいいよと言われたところで、俺たちが来るにあたってピカピカに磨き上げてくれたはずだし、本当にきれいで住み心地がいい施設だった。さすがに無償でと言われて、ありがとうではすまされない。
「いえ……ここで私たち夫婦がかってに港湾作業者たちに昼食を振るまっていると聞いてから、皆様方からは、毎日ダンジョンで取得した食材を大量に提供していただきました。それにかかるべき費用は、どう見積もっても宿泊費を大きく上回っております。
それを差し引いてというよりも、王家としても善行に少しは参加したのだということにさせていただきたいとの、ホーリ王子様からの強いご要望がございまして、こうなっております。後出しのような形にはなりますが、わがままをお認めくださいと言付かっております。」
そういって、チートはまたまた頭を下げる。なるほど……俺たちが供出した食材の一部を賄う……俺たちの旧別荘の宿泊費用に充てることにより、王家もキーチたちへの昼食提供に参加していたということにしたいというわけだな。そういうことであれば、お断りすることはかえってもめそうだな……。
「わかりました……度重なるホーリ王子様の温かいお心遣い、大変感謝申し上げます。そうして、必ず戻ってまいりますので、正式なお別れのご挨拶はその際にさせていただきます。よろしくお願いいたします。」
チートに、しばしの別れを告げ別荘を後にした。
すでに昼を過ぎていたので、日が沈む前に平らな場所を見つけてそこへ装甲車の荷台を下ろさせる。運ぶ荷物が多くなりミニドラゴンには気の毒だが、ナーミたちはこの中に寝ることが気に入っているみたいだから、やはり必需品と言えるのだ。ヌールーまではまだまだ遠く、もう一泊野営する必要があるだろう。
どうせならと海岸線沿いに飛行してきたので、野営も崖の上だが断崖絶壁の下に白波が無数に立っているのが見える。ヌールーはカンヌールの中心地であり、かなり内陸だから、トーマにも海辺で過ごした記憶がほとんどない。だからなのか、海のダンジョンも結構楽しかったし、魚介類も新鮮で食べ物には不満はなかった。
肉は肉で、近くに山があってちゃんとした精霊球のダンジョンがあったからな。
できれば長く滞在していたい気持ちもあったのだが、所詮はホーリ王子のご厚意による借りの宿であったし、いずれは出ていく必要性があることは承知していた。
ちょっとだけ早まってしまった気もするが、何もなければこのままぐずぐずと厚意に甘えることにもなりかねなかったので、こういう形で分別をつけることができたというのも、よかったのかもしれない。
後は……王家の300年ダンジョンだが……無事ジュート王子たちを救出できるのかということにかかっている……なんとしてでもお救いせねば……もとはと言えば、俺の軽はずみな言動が原因なのだ。今更悔やんでも仕方がない、俺の命に代えてでも、ジュート王子をお救いするのだ。
「今日の夕食は、猛進イノシシのロース肉のステーキです。魚系が続いておりましたので、肉の味わいを直接感じられる単純な調理方法がいいだろうと、塩と胡椒だけで味付けしてあります。
ソースも作ってはいますが、まずはそのまま召し上がってください。」
いつもの訓練を終えた後、今日の夕食は先日攻略した土系のA級ダンジョンで獲得した、猛進イノシシ肉のステーキだった。いつもならニンニクを効かせたソースがかかっているのだが、今日は焼いたまま出てきた。
それでも噛むごとに染み出てくる肉汁のうまみは絶品で、塩と胡椒だけの味付けなので余計に肉の味わいを感じることができた。何ともご飯が進む……。
「じゃあ、パパ……教えてください……。」
「簡単な奴をお願いね……難しいのはごめんだわ……。」
食後の片付けを終えるとエーミが少女の姿に戻り、ナーミと一緒にスウェット姿でやってきた。そうだった……今日から毎晩ダンスの練習をするのだった……言い出しっぺは俺だから、嫌とは言えない。
ミニドラゴンで飛行中も、ずっとダンスのトレーニングをしていた時の記憶をたどっていて、何とか人に教える時の手順は思い起こすことができた。
「じゃあ、まずは基本ステップの種類からだ……念のためにトオルも聞いていて、間違いがあったら指摘してくれ。」
記憶違いがあって、誤った知識を教えないようトオルに確認してもらう。このほうが全員参加でいいだろう。
王都では王子救出の任務が待っているというのに、こんな緊張感がないことをやっていてもいいのだろうかとも感じるのだが、まあ、心配心配と到着前から気をもんでいても始まらない。気持ちをリラックスさせて最大限の力を引き出せるよう、余裕を持つことは必要だろう。
途中もう一泊野営して、カンヌールの王都ヌールー郊外の居城に到着したのは、3日目の昼近くになっていた。当分戻らないと言っておきながら、意外と早く戻ってきたので、ちょっと気恥しい。
「これはこれはトーマ様……ではなくワタル様……おかえりなさいませ。いよいよ、仕官されてカンヌールのためにご活躍いただく決心がお付きになられましたかな?
出来るだけ早いほうが良いと、老婆心ながら感じておりました。ささっ……王宮へ出向かれる際の正装はこちらへに準備してございます……。」
居城へ着くと警備主任のトオルの父がやってきて、早合点したのか俺の手を引き衣裳部屋へと案内しようとする。
「残念ながら、そうではないのですよ、父さま。ですが、王様からのご用命ではせ参じたのは間違いございません。ですので、急ぎ王宮へ向かいます。」
トオルが代わりに答えてくれて、不要な装甲車の荷台とその他荷物を置くと、挨拶だけしてから再度ミニドラゴンの背に乗りこみ王宮へと向かう。その際、全員綬官の儀で頂いた高価な装備に身を包むことにした。頂いた装備を感謝して、愛用していることをアピールするためだ。(もったいなくて、普段は使えないのだが……。)
「ご苦労様でした、急な要請にもかかわらず即刻おいでいただき、誠にありがとうございます。こちらへどうぞ……チームホーシットのメンバーはすでに到着しております。」
王宮へ着くなりすぐに侍従が出てきて、王宮本殿の会議室へと案内される。
「ダンジョン構造というのは……あれ?やあ、久しぶりだね。君たちも来てくれたというわけだ……助かったよ。なにせ、ペークトのチームもラーミニのチームも、人買いの護衛をやっていた先輩冒険者たちを説得して改心させただろ?
本来なら一緒に故郷へ帰って、家族に安心するよう報告させるのだけど、あのあとすぐにA級ダンジョン攻略と綬官の儀とかで忙しかったものだから、故郷へ帰るのが今になってしまったわけだ。
先輩たちをいつまでも待たせておくわけにもいかないからって、急いで帰っていってしまって、今はどのあたりにいるものなのか、連絡がつかないから全くわからない。
僕らのチームは急いではいなかったから、一旦グイノーミに戻って地域性のあるダンジョン攻略を楽しんでいたところを、ギルドへの電信で呼び戻されたんだ……あそこのギルドは空いていたしね。
黄金の飛竜でお迎えに来た時は、何事かと驚いたよ……まさかジュート王子がダンジョンへとはね……。」
謁見室では銀色に輝く重厚そうな甲冑を身に着けた冒険者スースーが、重臣たちに何か説明しているところであった。




