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晩さん会

「では、こちらの部屋の中で着替えてください。サイズが合えば、どのスーツでも構いませんが、出来ましたらタキシードでお願いいたします。」


 カーヌンに案内されたのは、衣裳部屋だった。ずらりと並んだスーツにタキシード。色も黒に白に赤や青などカラフルなものまである。サイズごとに並べられているようだ。


 中には和服の紋付き袴まであるようだから、この世界はどのような文化的発展を遂げたのか、歴史を学びたくなってくる。(トーマの記憶は、ことあるたびに断片的に思い起こされるので、細かなことはうまくつながらない。そのためはっきりしないが、和装の時代があっても不思議ではないはずだ。下着はふんどしだしな。)


 仕方がないので3人してサイズを見繕い、タキシードと蝶ネクタイに着替える。蝶ネクタイは結び方など全く知らないので、トオルに結んでもらった。シャツのカラーの立て方なども全てトオルに調整してもらう。


 冒険者の袋は、邪魔にはならないから携帯することにした。王子に見せてあげてもいいが、うらやましがるかもしれない。冒険者の袋は冒険者にしか持てないので、一国の王であっても所有できない決まりなのだ。


 どこの国にも所属しないギルドが管理していて、ギルドが認めた者でないと、つまり冒険者でないと所有できない。だから冒険者を辞めたカルネも、冒険者の袋はギルドに返却して持っていなかったが、冒険者の袋の話はしてくれた。


 確かにこんな便利なもの、売れば結構な金になるだろうとは思うのだが、中に入れられるのは、あくまでもギルド関係の店で購入するアイテムと、ダンジョン内で獲得されたアイテムのみだ。


 だから、町の雑貨屋などで購入した小物などは入れられないし、肉だってダンジョン内や平原で倒した魔物の肉はアイテムとして入れられるが、肉屋で売っている家畜肉を保存用に入れたくても入らない。あくまでも冒険を行うための便利ツールであり、保存用や輸送用のツールではないのだ。


 だから王子が持ったところで使えはしないのだが、興味は持つだろうし、やっぱりうらやましがるだろう。

 王子は俺と違ってすべてを捨てて冒険者になど、なれるはずもないからな。


 冒険者と言えども一人で複数個持つことは許されないようで、スートとタームから奪い取ることになった俺たちは、正規の冒険者の袋を配布されるレベルであるB級になっても、新たに配布されることはなかった。


「では……間もなく晩さん会が始まりますので、少々こちらでお待ち願います。お連れ様が到着次第、お席へご案内いたします。」

 着替えが終わってからカーヌンに案内されて、城の奥の方の大きな扉の前でしばし待たされる。


「お待たせいたしました……。」

 城の召使たちに連れられてきたのは……ピンクのロングスカートドレスに身を包んだ、抜群のプロポーションの、見たこともないような絶世の美女だった……いや?その顔にはどことなく見覚えが……


「な……ナーミか……?」

 思わず絶句する……。普段ほとんど化粧っ気のないナーミだが……ちょっと濃いめの化粧をしているようだ。


「きれい……。」

 ショウがため息を漏らす。


「おきれいでございますよ……お人形様かと……。」

 トオルもべた褒めだ……。


「えー……なんだかおなか回りを締め付けられて……これじゃあ肉食べられないじゃない、肉……。」


 外観はすさまじい美女に変わっても、中身はナーミのままだったが、馬子にも衣裳なんてもんじゃない。正真正銘の美女だ。いつもはすさまじくかわいいと思っていたが、今は美しいと思う。


「いえいえ……こんな均整の取れたプロポーションの方に、初めて出会いました……コルセットだって、形ばかり締めただけで……お顔がおきれいなだけでなく、スタイルまで……。」


 案内していた召使たちも、ため息を漏らすような美女中の美女といえるようだ……。ナーミはまじめで、俺たちと同じチームになる前からも、日々の訓練を欠かしたことはなかったようだからな。しかも前からほぼ毎日ダンジョンに潜って、魔物たちと戦っていたし、ぜい肉など全くない体形で当たり前だ。


 トーマだって、蟄居中でも剣の訓練は欠かしたことはなかったようだが、それでも過酷ともいえる冒険者になってからの日々の生活は、この体から脂肪を完全に落とし、代わりに筋肉の鎧をつけた。


「では、参りましょう。」

『ギィー……』カーヌンがゆっくりと大扉を開けて、会場の中へといざなう。


「さあ、我が国の窮地を救った英雄たちに向け、盛大な拍手をお願いいたします!」

 会場右奥のひな壇に上がっている男性が、マイクに向かって叫ぶ。


『パチパチパチパチパチパチッ』すると会場中から割れんばかりの拍手が浴びせられる。ずいぶん大きな会場のようだ。そりゃそうだろうな……この城を占拠されそうなところが一転、攻めてきた船団を一掃して、巨大戦艦3隻とも曳航してきたんだからな。大勝利だ。


 見ると、一緒に戦った教官たちも列席しているようだ。彼らの功績だって大きかったのでほっとする。


「えー……本日この城で戦い抜かれた皆さんは、だれもが英雄であると考えております。中でもトーマ先生含め、劣勢をはねのけるご活躍を見せた……特に冒険者でありながら、故郷の窮地を知りはせ参じていただいたトーマ先生始め……。」


 ひな壇のすぐ近くの最前列の席に着くと、ジュート王子から祝勝会の祝辞を賜る。なんだか尻のあたりがむずむずするくらい、べた褒めされて困っている。トオルもショウも、嬉しそうに笑顔でその言葉に耳を傾けているようだが、ナーミはお預けを食らった犬のように、じっと皿に盛られた前菜を見つめている。


「ありがとうございました、ジュート王子様。そうして、今日戦ってくれた戦士の方々には、本当に感謝いたします。苦しい戦いではありましたが、この素晴らしい勝利を皆で分かち合いましょう。そうして、窮地に駆けつけてくれた、わが旧友とその仲間たちに、乾杯!」


 ソーペラの音頭で乾杯をして、晩餐が始まった。次々と運び込まれる料理はどれも絶品で、見た目も美しく盛り付けられ、手の込んだものばかりだ。さすが侯爵家、多くの腕のいい料理人を抱えて、さらに食材も豪華なものばかりを取り揃えているようだ。


 防人というよりも、新兵の養成所と化していると言っていたものな……多くの新兵たちを迎える学校の校長のようなものだ。それなりの待遇が与えられているのだろうな。


 だがまあ俺としては、ダンジョンでとらえた魔物肉をトオルが調理してくれたのが、一番うまいと思うがね。

 トーマの記憶を必死で探り、テーブルマナーを何とか思い出し思い出し、ゆっくりと頂く。


「おかわりっ……このお肉、柔らかくておいしいじゃない。まあ、あたしたちが普段野営するときに食べるご飯ほどではないけど、そこそこいけるわよ。でも……こんな大きなお皿の真ん中だけに、ちまちまと盛らずに、山盛りにしてくんない?


 あと、このコーラっていうの?おいしいわね……こっちもビンごと持ってきて頂戴。」


 最初のうちはトオルにテーブルマナーを聞きながら、ぎこちなく食べていたナーミだったが、じれったいと思ったのか、普通に食べ始めたようだ。給仕に皿を向け、お代わりをねだる。まあ、ナーミの場合、とりわけ下品な所作はしないからいいと思うが……ただ食欲だけはすごいから周りの人は驚くだろうな。


 もしかしたら、キレイキレイと周りから囁かれる自分が、照れ臭いのかもしれない……。

 コーラはこの世界では最近流行りだした飲み物のようだ。薬臭い炭酸の真っ黒い飲み物は、当初は敬遠されていたが、くせになる味として上流階級中心に流行りだしている様子だ。


「では、わが親友にして稀代の英雄トーマ・アックランス3世にご挨拶お願いいたしましょう。」


「ぶほっ!」

 なんだあ?突然、給仕がマイクをもってやってきたかと思ったら、挨拶だって?聞いてないぞ!


「えー……その……ご紹介にあずかりました、トーマと申します。えーと……その……」

 参ったな……いきなりスピーチなんて……もっと前から言っておいてくれれば……。


「皆さまご存じでしょうから、細かな自己紹介は不要かと……この地へ来たいきさつなど、簡単にご報告なさればよろしいかと……敵艦隊を見かけた話などですね……」


 立ってマイクを握ったのはいいが、何を話していいのかさっぱりわからず、頭が真っ白になっていると、トオルが小声でアドバイスしてくれる。


「えーそうですね……訳あって冒険者稼業を最近始めたのですが、山奥のギルドを拠点に活動しておりまして……ほ……北方山脈のあっ、いえ……クエストに向かう途中でですね……北方山脈の崖の上から大船団を見かけました。旗艦を見るとサーケヒヤー国のものでした。


 ギルドへ戻ると、サーケヒヤー国がカンヌールに対して宣戦布告したとの新聞記事を読みまして……これは変だと……あっいえ……これは大変だと思い……えーと、すぐに窮地を知らせようとしたのですが、山道を降りるのに2週間以上かかるので……えーとえーと……なんだったかな……荷台を改造して……いや、飛竜の谷へ……。」


「そのあたりの詳しい事情はいいですから、飛竜に乗って急ぎ飛んできたことを伝えればいいですよ。」

 すぐにトオルが耳元で囁いてくる。


「あっ……えーと、何とかこの国の窮地を救いたいと考え、無謀にもミニドラゴンの背に乗ってですね、急ぎ飛んでまいりました。途中、グイノーミの町に立ち寄り……えーと……カンヌールでは戦艦の襲撃に気づいていないことを知り、王宮へ電信を送って……夜明けとともにオーチョコへ向けて飛び立ちました。


 オーチョコの町へやってきてみると、多くの戦艦が湾内に入り込み、オーチョコ城へ向けて砲撃を開始していました。それで……ナーミが弓矢で、トオルとショウが魔法攻撃で戦艦の群れを撃退し……俺……じゃない私も……何だったかな。」


「その後、一旦オーチョコ城に降り立ち、城の兵たちを連れて敵巨大戦艦のしかも旗艦に突入して、見事制圧したのでしたね。わが親友は、どうも恥ずかしがり屋で、こういった場面のスピーチには向かないようだ。


 でも、その剣技はこの国で一番と評されるものですよ。どうか皆様方、この内気な勇者を称え、盛大な拍手をお願いいたします。」


『パチパチパチパチ』最後はソーペラがアシストしてくれ、何とか切り抜けることができた。はあー……顔が火照って、何を話したかもよく覚えていない。


 引きこもりだった俺は人と接することが苦手で、こっちの世界にやってきてからも、トーマが心を許せる相手として自然に接することができる、トオルやエーミのような身内以外との会話に関しては、翌日の予定から会話の内容をシミュレーションして、話す言葉を箇条書きにしていた。


 会った当初から普通に話せていたのは、ナーミ位だ……ナーミの場合は出会ったいきさつが衝撃的で、ある意味命がかかっていたため、饒舌に話して説得する必要性に駆られたせいなのかもしれない。また、彼女の容姿がアニメ顔の美少女というのも、俺が当初から親しみを感じていた理由とも思える。


 ようやく少しずつ慣れてきたのか、予想される会話内容を都度頭の中に描いて自問自答することにより、状況変化に応じることもかろうじてできるようになってきて、少しは成長したことを喜んでいたところだったのに、さすがにこんな大勢の人々を前にスピーチなんて滅相もないことだ。


 心臓がバクバク言って喉から出てきそうになったほどだ。


「まあ、お気持ちは伝わったかと……。」

「パパ……よかったよ……。」

 トオルとショウが慰めてくれる。情けないが、まだ息が上がっているな……。


「うーん……このケーキ?最高ね……。」

 ナーミ一人上機嫌で、デザートのケーキにぱくついていた。

 その後、活躍した教官たちの剣術の談義に花が咲き、場が大いに盛り上がった。



「では、トーマ先生、明日は王都に向けご一緒願います。王様が、ぜひともお会いしたいと申しております。」

 宴席が終わると、もったいなくもジュート王子が席までやってきて、声をかけてくれた。


「はっ……いえ……私は無頼漢な冒険者になり果てました。一国の王様に謁見を賜るような身分ではございません。どうかご容赦くださいませ。」

 急いで席を立ち、王子の前に跪く。


「ですから先生……先生は私にとってはいつまでも先生なのですから、そういった態度はおやめ願います。


 そうして……王様もトーマ先生にお会いすることを楽しみにしておりますゆえ、どうか願いをかなえていただけないでしょうか。国の窮地をしり、わざわざ遠方から駆け付け、命を懸けて戦っていただいた愛国の士を、ただそのまま帰したとあっては、わが王家の名折れでございます。


 王様自ら爵位を賜りたいと申しておりますゆえ、どうかご同道くださいませ。」

 王子に促されて立ち上がると、大変なことを告げられた。


「そんな……爵位など……私にはもったいない……ご辞退申し上げます……。」


 大きく首を振って拒む……せっかくすべてを捨てて冒険者になったというのに、またしがらみを抱えてしまう。これが、トーマであれば構わないのだ……それなりの人物だし元々伯爵だし……ただの引きこもりの異世界から転生してきた俺が、この世界で爵位を頂くことなどもってのほかだ。


「ちょちょちょ……ちょっと……。」

 すぐに後ろから腕をつかまれ、引き寄せられた先にいたのは、ソーペラだった。


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