帰城
「了解いたしました、では、ミニドラゴンを下ろします。」
王子とともにオーチョコ城へ戻るため、一言お断りしてから空を見上げると、ミニドラゴンは他の2艦の艦上を旋回していた。突然の事態の急変に、戸惑っていることだろうな。それでも飛竜はカンヌールの守護竜ということはショウは知っているはずだし、味方の援軍ということは理解していたはずだ。
「おーい……降りてきてくれ!」
大声で手を振って呼び寄せる。
『バッサバサバサ』ショウが気づいたのか、ミニドラゴンが周回をやめ、旗艦の甲板に降りたった……王子の飛竜に比べると、やはり小さめだな……無理もない、ほんのちょっと前までは子供だったのを、無理やり成獣にしたようなものだからな。
こんどは、ショウがミニドラゴンに回復水を与えてやっているようだ……奴も随分と活躍してくれた。本当に、第5の冒険者仲間といってもいいくらいだ。
「じゃあ申し訳ないが、一緒に突入した教官たちを集めてくれないか。一緒に帰ったほうがいいだろう?大人数相手に戦ったから、かなり疲れているはずだ。来た時同様、あの箱の中に入ってくれるようお願いする。」
「はっ、承知いたしました。」
すぐにカーヌンが甲板を駆けて行った。教官たちは未だに警戒しているのか、甲板上をあちらこちらに散っているようで、見た感じでは一定の間隔を置いて立ち、甲板上全てに注意が行き届くような隊列を組んでいるようだ。さすが……教官連中だ……戦い慣れている。
カンヌールが一人一人に声をかけ、装甲車の荷台へ案内している。
『うおーっ』『わーわー』『ぎゃーっ』隣を航行している2隻の巨大戦艦の甲板に目をやると、戦いは未だに続いているようで、後から後から敵兵が休むことなく甲板上へ、艦橋建物から雪崩出てきているようだ。
それを百数十名の精鋭部隊で迎え撃っているわけだが、『バッサバッサ』『ドッゴォーンッ』『うっぎゃー』『あーれー』『ドッボーンッ』飛竜が敵兵の群れに突っ込んでいっては、十数名を羽ばたきの風圧で吹き飛ばしたり、数名を足でつかんで海上までもっていっては落としたりしている。
乗り込まれてしまっては、大砲などの強力な火器は使えないから、いいようにやられてしまう。いかな精鋭の剣士や騎兵であっても、成獣の飛竜相手では歯が立たないだろうな。間もなく制圧されることだろう。
考えてみると、この船は乗組員は多かったが、剣士や騎兵、鉄砲隊などの兵士は少なかったように思える。
恐らく旗艦なので、上陸部隊は乗船していなかったのではないかな。砲兵などは多く詰めていたのだろうが、直接戦う兵士は、極力絞られていたのだろうと考える。
何せ旗艦だから、戦線から遠く離れて指揮するだけの役割だからな。そういった点でも運がよかったと言える。2番艦、3番艦に突っ込んだとしたら、結果は全く違ったものになっていたかもしれない。いくら優秀でも十数名の兵だけで制圧できるような、人数ではなかったように感じる。
「じゃあ、いいかな?乗り込み次第出発するよ!」
教官たちが装甲車の荷台に集まり終えたようなので、カーヌンに声をかける。
「はっ、砲兵たちは引継ぎのためにこの艦に残して、私だけは侯爵様にご報告しなければなりませんので、一緒に戻ることといたします。」
『バタンッガチャッ』そういってカーヌンは最後に乗り込み扉を閉め、内側からロックした。
「ようし……じゃあ、俺たちもミニドラゴンに乗り込もう。」
「はいっ。」
トオルとともにミニドラゴンへ駆け寄る。見ると、左右を航行していた2艦もエンジンを停止させられ、甲板での争いも収まったようだ。制圧できたようだな、よかったよかった、これで一応危機は乗り越えたと言える。残るはオーチョコ湾内に入った駆逐艦の乗組員たちと水竜の始末だな。
「やったわね……。」
「パパすごい……。」
「ああ……だが……運がよかっただけだな……反省しきりだ……。」
結局は無謀な賭けともいえる、作戦とはいえないような特攻だったわけだが、何とか成功した。皆が協力して一丸となって戦ったことが要因であったし、さらに剣の教官たちが多数いたことも勝因の一つに挙げられる。
だが、巨大戦艦の割に戦える兵士が少なかったことなど、運的要素が大きすぎた。運だけに頼ってはいけない、俺には守るべき大切な仲間たちがいるのだ。彼らのためにも、引くべき時は引くという潔さを持たなければならないな。
「では、参りましょう!」
巨大飛竜の背に乗り込んでいるジュート王子に右手を挙げて合図をする。
『バサッ……バサッ』ミニドラゴンはゆっくりとはばたき、上昇を開始した。
「じゃあ、来た時同様、あの荷台をつまんで持って帰ってくれ。」
ミニドラゴンに装甲車の荷台を指さして、持ち帰るよう指示すると、『ゴツンッ』『バサバサバサッ』ミニドラゴンは、一旦下降し指示通り荷台を足でつかむと、もう一度上昇を開始した。
「よしっ……オーチョコ城へ戻るぞ!」
ミニドラゴンは南東へ進路を取り、飛び始めた。
『バサッバサバサッ』『ゴツンッ』オーチョコ城へ到着すると、ミニドラゴンが荷台をオーチョコ城の中庭に置き、『バサバサッバサッ』そうしてそのすぐわきに、ゆっくりと降りる。
「よーしよし……いいこだ……あとでたっぷりと肉をやるからな……。」
背の御者席から降り、ミニドラゴンの頭を撫でてやりながら労をねぎらう。
「くぉーきゅるるる……。」
ミニドラゴンが甲冑の胸に頭をこすりつけて甘えてきた。ガタイは巨大だが、本当に甘えん坊だ。
『ガチャッ……ドタドタドタッ』荷台の扉を開け、カーヌンを先頭に教官たちもおりてきた。さすが一人も欠けていない……歴戦の兵どもだな……。
「これはこれは陛下……こたびは、わが城の窮地をお救いくださいまして、誠にありがとうございました。」
すぐにソーペラが駆けてきて、王子の前に跪く。
「いえいえ……この城の窮地をお救いなさったのは、トーマ先生たちです。先生との共同作戦であったと聞いております。侯爵殿も優秀な配下をお持ちのようですね、うらやましい限りです。
私は制圧の補助と、その後始末を請け負っただけと言っていいくらい、先生たちには本当に助けられました。この国の存亡がかかった戦いと言っても、過言ではなかったのですからね。」
ジュート王子が、ソーペラに笑顔で答える。
「ははー……有難きお言葉……。」
ソーペラはなおも低く、頭を下げた。
「先生……後でお時間がございましたら……その……冒険者になってからのお話など……お聞かせ願えましたら幸いです……。」
ジュート王子が寄ってきて、少しはにかみながら話を聞かせてほしいと、うつむき気味に声をかけてきた。どうやら、トーマに対してはどうあっても生徒として接する。まあ、一応子供の時だけとはいえ、剣術の指南役だったわけだから、先生といえば先生なのだが……。
なんだかくすぐったい……というか、居心地が悪い。特に、その尊敬の先が、俺ではなくトーマであればなおさらだな……トーマに申し訳ない……。
「それはもう……王子様も本日はこの城にお泊りと考えます。ご都合のよろしい時に、お呼びしていただけましたら、いつでもお伺いいたします。」
城内はすでに静まり返っていて、オーチョコ港も平静を取り戻しているようだ。港には転覆した駆逐艦などが浮いたままになっているが、乗員たちは全て捕えられたのだろう、堤防上には網を担いだ漁師など漁業関係者しかいないようだ。
当面、漁船の出入りに不自由するだろうが、いずれ撤去されることだろう。
飛竜が3頭崖上に陣取っていたためか、水竜の姿はどこにも見えなくなっている。恐らく国へ引き返したのだろう。兵が全てつかまってしまえば、水竜だけでは戦えないからな。
平穏が訪れたのであれば、少しの時間くらい王子に付き合っても構わないだろう。
もうすでに日が沈みかけているから、移動は困難だ。王子たちが羅針盤を持っているとはいっても、夜通し飛行してきたのであれば、さすがにこのまま王都へ取って返すと言ったことはしないだろう。飛竜の体力は持つかもしれないが、人がまず持たない。今晩はこの城に全員泊まることになるはずだ。
俺たちは中庭にでもテントを張って……ナーミたちのために装甲車の荷台の中に布団など戻さなければならないが、ちょっと中を水洗いでもして床を拭けば元通りにできるだろう。宿泊施設は不要だから迷惑はかけないで済む。
「王子様、こちらへ……。」
ソーペラがジュート王子を居城へと案内していく。後で客間を訪ねて、冒険者になってからのことをお話しして差し上げよう。トーマがカルネの冒険話を聞いた時のように、血沸き肉躍るような冒険話が俺にもできるといいのだが……。
「では、皆様方もこちらへ……お部屋をご用意いたしております。」
汚れた荷台の床をナーミたちと拭き始めていたら、カーヌンがやってきた。
「いや……俺たちは自前の宿泊施設があるからな……これでいい。中庭にテントを張らせてもらうことになるが、構わないだろ?」
岩がごつごつと突き出た断崖の上とは言え、中庭には土が盛られているのでテントは張れそうだ。
「いえ……どうか……城内の客間にご宿泊くださいませ。」
「いやあ……俺たちは自由な冒険者だ、お城の中のような堅苦しいところは性に合わないから、ここで泊まらせてくれ。晩飯もここで済ませるつもりだ。祝杯用の安酒も持参している。」
別に遠慮しているわけでもなんでもない。ソーペラには悪いが、客間になど泊まるつもりは全くない。かしこまった晩餐など、ナーミたちだっていやなはずだ。昨晩グイノーミの町に行ったときに、酒屋で酒とジュースだけは購入しておいた。
「いけません、この城を……いえ、この国をお救い頂いた勇者様を、中庭に泊まらせるなど、そんなことをしたと知れたなら、この城の城主ソーペラ・オーチョコ5世が世間の笑いものになってしまいます。
ましてやジュート王子様も御滞在なされますのに、晩餐にお顔合わせがなければ、王子様にも叱られてしまうでしょう。どうか……ソーペラ様を……そうして私を困らせないよう……ご配慮をお願いいたします。」
屈強な2刀使いの剣士と思っていたカーヌンが、泣きそうな顔をしながら両手を合わせて拝んできた。
「どうする……?」
「仕方がありませんね……宿泊しないことが、侯爵様やカーヌン様のご迷惑になるのでしたら、お断りするわけには参らぬでしょう。ご同行するしかないと考えますが……。」
トオルは仕方ないとばかりに、ため息をついた。
「わかったわかった……じゃあ、荷台をきれいにして荷物を戻したら、城へ行くよ。そんなに時間はかからないと思う。ナーミとショウも、悪いが今晩だけ付き合ってくれ。」
「えー……堅苦しいの苦手なんだけど……マナーなんて全く知らないし……。」
ナーミはふくれ顔だ……。
「僕は大丈夫だけど……女性式のマナーしか知らないや……。」
ショウがぽつりとつぶやく。女性式でも知っていればましだ……俺なんか……と言いそうになるのをぐっとこらえる。
「まあまあ……祝勝会ですからね。王子さまはいらっしゃいますが、おめでたい席ですから、ある程度無礼講的な……まったく問題ありませんよ。では、城のエントランスでお待ちしております。」
カーヌンは願いが通じたので、気が変わらぬうちにと早々に引き上げていった。
「ショウは……そうだな、エーミに戻ってもいいのだが……ここはカンヌールだし、どこで噂になるかわからないからな。やはり安全のためには、人前ではショウで通すのがいいのだろうな……。」
「うん……大丈夫だよ……このままで……最近は慣れてきたから、夜遅くまでこの姿でいても、そんなにつらくはないから……。パパと一緒にいるためだからね、全然苦じゃないよ……。」
ショウがそう言って笑顔を見せる。ううむ……申し訳ない……もっといい方法があれば……というか、何とかして人買い商人たちを撲滅できてしまえばいいのだが……簡単にはいかないだろうから、ほとぼりが冷めるまでは、ショウの姿でい続ける以外ないな……。
「悪いな……パパにもう少し力があれば……。」
たまらなくいとおしくなって、ショウを抱き寄せる。
「じゃあ、先に荷物を運び入れちゃいましょ。大砲の倉庫だって言っていたから、大砲を戻されちゃったら、奥から荷物を運び出すのは大変よ。」
ナーミの掛け声で、急いで倉庫から布団など荷物を荷台に運びこむ。倉庫番をしている兵士たちに聞くと、今晩中に砲台をしまい込むと言っていたから、危ないところだった。ミニドラゴンにはお祝いだからといって、炎牛のロース肉の塊をトオルが与えてくれ、ミニドラゴンは、ゆっくりと味わうように食べ始めた。
「では、男性はこちらへ……お嬢様はこちらへどうぞ……。」
城のエントランスへ向かうと、カーヌンのほかに数名の女性召使たちが立っていて、ナーミだけを別な方向へ連れて行った。




