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ギルド到着

「あれは、エーミさんが一流の冒険者であることを、ワタルが認めたからだと思いますね。鋭い殺気をまき散らしていたエーミさんを説得するには、非武装にして落ち着いた場所で話し合うしかなかったでしょうが、武器を装備の中に隠している可能性が高いので、まずは装備を外させたのでしょう。


 そのすぐ後に、予備の安全を確認してある装備を渡したではないですか。ワタルの目的はナーミさんの裸を見ることでは、決してありませんでしたよ。」

 すると、トオルが助け船を出してくれた。ありがとうトオル。


「そそそ……そうだ……まずは武器など隠していないか、確認する必要性があったからだ。そうしたら帽子やらブーツやら……暗器の山だったじゃないか。不用意に近づいたらぶすりと刺すつもりだっただろ?」

 すぐに勢いに乗って否定する。どうだ……俺は変態脱がせ野郎などではない。


「でも、火の精霊球を取りに行ったときに、小川のわきに温泉が沸いているのを見つけて、汗だくで穴を掘って手作りの天然温泉を作ってくれたじゃない。わざわざ、脱衣所も何もない場所で……あれはあたしの裸を合法的に見たかったからじゃないの?魔物が来ないよう警固するふりをして、ちらちらと見てたでしょ?


 その時お湯につかりながら、かわいいって思ったのよ……あたしの裸を見たいがためにこんなに一生懸命やっているんだなって思ったの。だから……見たいんだったら、いつでも見せてあげちゃおうかなって……それからはずっと待っているのよ。」


 ナーミは笑顔で堂々と、とんでもないことを告白する。こいつに恥じらいという気持ちはないのか?


「あ……あれはだな……かなり遠くのダンジョンだったから、移動日数が長すぎて、みんな風呂にも入れずに大変だろうなって思っていた時に、たまたま小川の水が地熱で温まっていることを発見したからだな……。」

 全くの誤解であることを強く主張する。


「ほらほら……あたしたちにお風呂に入ってもらいたかったからでしょ?つまりあたしの裸が見たかったからでしょ?間違いないわよ……いいのよ、無理しなくても……我慢しないで言ってくれれば……。」


 ナーミは、妙なしなを作って流し目で俺を見つめる。ばかな……どうしてそんな結論に?大体、本気で俺がナーミに裸を見たいなんて打ち明けようもんなら、大声で触れ回って笑いものにするつもりなんだろ?笑いのネタとしか考えていないのだろ?見せてくれるのなら見たい気は勿論あるが、怖くて絶対言えるわけがない。


「うーん、そうですね……あの場合は確かにナーミさんの裸目当てということも考えられなくは……。」

 トオルが腕を組んで考え込む。頼りのトオルがこれでは、撃沈寸前だ……。


「ナーミ……ちょっと……。」

 ナーミを立ち上がらせ、ちょっと離れた木立へ誘う。エーミの目の前でこれ以上弁解していても、らちが明かない、この小悪魔は、俺の困った表情を見るのがうれしくてたまらないのだ。


「えっ……なあに、なあに?ついに告白してくれるの?」

 ナーミは嬉しそうに、ぴょんぴょんと跳ねながらついてくる。


「頼むよナーミ……エーミが俺にばかりなついているからって、そんなに俺を攻撃しないでくれ。仕方がないだろ?あの子が生まれた時から俺はすぐそばにいて、しかも小さなころから父親であるカルネは病床に伏して、さらにカルネ亡き後は、表向きは俺の娘として一緒に生活していたんだ。


 俺のお嫁さんになるだなんて言ったことだって、小さな女の子が大好きなパパのお嫁さんになるんだって、よく言う愛情表現だろ?どうしてそんなことにいちいち反応して、誤解を招くようなことを吹き込もうとするんだ?エーミの場合は特に父親であるカルネの印象が薄いから、どうしても俺が対象となってしまうだけだろ?」


 もうこうなったら、ナーミに直接交渉するしかない。謝ってでもナーミの気持ちを和らげ、勘弁してもらう以外方法はない。


「小さな子っていうけど……エーミはもう15歳……結婚できる年ごろの娘なのよ。ファザコンもいいけど、ちょっと異常なのよ。だから……あたしが……。」

 ナーミはちょっとイラつくように、爪を噛む。


「そりゃ法律上は15歳で結婚できるが、俺にとってはエーミはいつまでも可愛い可愛い娘でしかない。たとえ血がつながっていないと言っても、エーミは確実に俺の娘であり、今後もずっと娘として愛し続ける。」


 真顔でナーミに告げる。エーミが大好きなのはもちろんトーマであるのだが、その体を借りている俺は、トーマになり替わって、エーミを本当の娘として幸せになるよう、どんなことでもするつもりだ。

 

「ふーん……だったらいいけど……わかったわ……もうこの話は一切しないと約束するわ。


 あたしも、素直に自分の気持ちを口に出して言える、純粋なエーミのことをちょっぴり妬いていたのかもしれないわね。でも、あの子は幼く見えるけど、もう結婚できる言わば女なんだってことを忘れずに、それなりの対応をしてあげてね。あの子を泣かすようなことをしたら、絶対に承知しないからね!」


「わかったわかった……エーミを幸せにしたい気持ちは、絶対ナーミに負けないつもりだからな。」

 何とか説得を終えて、食卓の席に戻る。


「いいですか?ワタルのことをお守りするのは、この私の使命なのです。いつでも一緒にいて、どんな時でも身を挺してお守りする所存です。ですから、私とワタルは常に一心同体、エーミちゃんが、その間に割り込もうとしても、絶対に無理なのです。そんな隙間はございません、あきらめてください。」

 席へ戻ると、ナーミよりもっと厄介なことを言っている奴が……。


「トオル……ちょっとこっちへ来てくれ。」

 やれやれ……一体どうしてこんな羽目に……。



「じゃあ、出発するぞ。装甲車部分は車輪を外してミニドラゴンに背負わせるから、みんなで持ち上げるのを手伝ってくれ。」


 トオルには何とか言い含め、ミニドラゴンの背中にいつも括り付けてある、カルネに写させてもらったダンジョンの構造図を入れた防水性の大きなカバンを外し、装甲車の中の米など荷物は一旦出してから、4人がかりで持ち上げ横向きにミニドラゴンの背に何とか乗せると、頑丈なロープで何重にも括りつけ固定する。


 ミニドラゴンはその長い尻尾を丸めて、荷台部分を支えてくれるので結構簡単に固定できた。


 その後荷台部分に荷物を再び全て押し込み、大きな鉄の車輪は装甲車の屋根に括り付ける。車輪を外そうとしてみたところ、豚を運ぶときに興奮させないためか車軸には板バネがついていて、さらに車軸が独立しているということが分かった。そのため意外に乗り心地が良かったのだろうと、あらためて認識した。

  


「ほーほー」「ぎゃーぎゃー」「えっほえっほ」

 うっそうと生い茂る樹木の間の道なき道を進んで半日も歩くと、獣か鳥かはたまた魔物かわからないが、色々な種類の動物の鳴き声が響き渡ってくる。静寂な森の中に入り込んだ異物を警戒しているのだろうか。


 いくら人が乗り込んでいないとは言っても、直接背負っている装甲車の荷台はかなり重いだろうと考えるのだが、ミニドラゴンは全く気にもかけない様子でずんずん進んでいく。先頭を歩かせておけば、膝くらいまで生い茂った下草も、ある程度踏みしめられるので、かなり楽だ。


 時折曲がる時だけ背中を叩いて方角を示したやればいいので、大変ありがたい。


「ぐるるるるるっ……」

 突然ミニドラゴンが立ち止まり、上方を見回す。


『ズザザザザッ』『シュシュシュグザグザグザッ……ドンッ』すぐに小さな黒い影が、上方から降ってきた。

 地に落ちた姿を見ると、折り取った木の枝の折り口をさらに尖らせ、銛のように構えて急降下してきたであろう、サル系の魔物だった。トオルのクナイを3発食らって息絶えていた。


「チンパニーランスじゃないか。中級の魔物だけあって、ミニドラゴンが一緒にいても平気でスキをついて襲い掛かってくるということか。ミニドラゴンが気づいてくれて、警戒出来たからよかったようなものの……。」


 ダンジョンではない、ただの森の中だというのに、こんな高度な知恵を持った魔物がいきなり襲い掛かってくるのか。これから行く場所は、本当に人外未踏の地なんだということを改めて認識する。


「それと、一頭だけというのも幸いしましたね、群れを成して生活する魔物なのでしょうが、狭いダンジョン内と違い、餌場の確保のために分散して行動しているのかもしれませんね。ここは、既にギルドの管轄外に入っているのかもしれません。何にしても、警戒しながら進みましょう。」


 トオルが、チンパニーランスの死骸からクナイを回収しながら警戒を呼び掛ける。そうだな、昨日馬車でかなり山奥まで進んだから、すでにコージーギルドの管轄外区域に入っているだろうな。


「ぐるるるるっ」

 しばらく進むと、またもやミニドラゴンが立ち止まり、上方を見上げる。またチンパニーランスか?だが、この場所は高い木はなく上方が開けているぞ。


「きゅいーい……」

『シュッ……ドザッ』何かの鳴き声がしたかと思ったら、少し先に何かが降ってきた。急いで寄っていくと、首の長い大きなハゲワシ……ツッコンドルだ。ナーミの放った矢が見事にその脳天を貫いていた。


「魔物を検知してくれるから楽ね。ミニドラゴンが立ち止まったら、辺りを警戒すればいいんだものね。今度ダンジョンにも連れていけないかしら。」


 ナーミが笑顔で矢を回収すると、トオルにその死骸を手渡す。確かにミニドラゴンと一緒にいると楽だが、ダンジョンは無理だろう。狭い洞窟のダンジョンは、大きくなったミニドラゴンではつかえてしまうからな。仮に入れたとしても、ギルドで止められるだろうしな……奴の冒険者申請は通らないだろう。



 その後もミニドラゴンが立ち止まるたびに魔物を倒しながら進んでいく。最初はトオルとナーミの独壇場だったが、途中からショウも加わった。遠距離攻撃なら魔法もかなり威力を発揮するのだ。


 トオルが嘆いていたが、初級ダンジョンでもごく稀に出現する猛進イノシシは、ミニドラゴンが一緒にいるので警戒しているのか出てこなかった。木の枝にぶら下がって隠れているホーン蝙蝠などは、見つけ次第倒して回収できた。


 その日の晩飯は、ホーン蝙蝠のスープとツッコンドルの焼き鳥だった。ミニドラゴンも、ホーン蝙蝠を数匹とツッコンドルの胸肉を与えられ、喜んでいた。いろいろと役立ってくれている大切な仲間だからな。


 夜の見張り番は昨日の予告通りに、俺とショウ、トオルとナーミの組み分けで行った。毎晩ローテ―ションしていくつもりと宣言して、文句は受け付けないとした。


 山の斜面のわずかな平地でのキャンプなので、テントなど張るスペースはない。それでも装甲車の荷台部分は、多少の斜面なら下に岩や木の枝などをかませて、ある程度水平をとれば安定して寝られそうだ。宿屋で預かってくれなかったので、仕方なく持ってきたのだが、結構便利で有難い。


 ショウは一緒に寝ると主張したのだが、俺は外がいいと言って寝袋を使い外で寝ることにした。するとエーミの姿に戻って寝袋を持ってきて、俺の隣で一緒に寝ようとする。せっかく暖かくて安全な寝床があるというのにな。もうこうなると、かわいくて仕方がない……。



 その後も山を登ったり下ったり、時には切り立った崖の細い道を進まねばならなかったが、何とか無事に乗り越え、2週間かけて歩き、ようやく高い山と山の間にある本当に小さな集落が見えてきた。


「おお……何とか辿り着いたな……こりゃあ、カルネが言っていた通り、周りに何もない、本当に冒険するしかないような場所だな。」


 遠目から見ても、建物といえるようなものは2軒しかなく、いかにも山を切り開きましたと言っているかのように、山の斜面を削って少しの平地を作り上げ、そこに近隣で調達したであろう丸太で組んだログハウスが見て取れる。そのわきにお情け程度の緑が見えるのは、恐らく田んぼではないだろうか。


 建物の下側斜面を見ると、段々に切り開かれているので、その部分は畑なのだろう。恐らく食料の多くは自給自足の生活と想像できる。それくらい、人の行き来がないのだ。


『ギイッ』三角屋根の少し小さめの方の建物のドアを開け、中に入っていく。こちらの建物のほうが見覚えがあるのだ。


「いらっしゃい、タールーギルドへようこそ。こんな山奥まで一般の冒険者が来るなんてこと、履歴を見てももう何年もないよ。」

 中へ入って声をかけてきたのは、受付嬢ではなく若い青年だった。


「おやそうなのかい?冒険者が来ないのに、ダンジョンの管理をしていても仕方がないのじゃないか?精霊球とか回収できないだろ?」


 ダンジョンに潜って精霊球を回収してくれる冒険者がいないのであれば、ダンジョンを管理していても無駄なのだ。こんな山奥までわざわざ人を派遣している理由は何なのだろうか?


「いや、僕らは冒険者なのさ。ここの管理も任されているがね。ギルドは1年交代で2組の冒険者チームを派遣してきて、交代でダンジョンを攻略して精霊球を回収している。それらを持ち帰って清算すると、それから十年は遊び放題というわけさ。


 ここでの滞在費用はギルド持ちだからね。まあ、田畑の管理はやらなければならないが、自分が食べる分と考えればそんなに苦ではないよ。毎日の農作業と週一のダンジョン攻略で1年過ごせば、当分安泰なわけだから、このクエストは結構人気が高いんだ。勿論A級の冒険者限定のクエストだけどね。


 ここのダンジョンはそれなりに数があるから、2組の冒険者だけでは攻略が間に合わなくて、どうしてもダンジョンレベルがB+以上限定になってしまうんだね。」

 管理人兼冒険者が笑顔で答える。


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