移動開始
「じゃあ今日のところは、ショウにダンジョンに慣れてもらうためにもB−級に行ってみて、その様子を見てから何日後に出発するか検討するとしよう。」
タールーにはB+級以上のダンジョンしか存在しないと聞いているから、レベルを少しずつ上げていってショウにB級までは経験させてからでないと、いきなりだと辛すぎるだろうからな。状況次第で、来週出発とかになるかな……いや、再来週かな……。
「いいんじゃないの?このまま出発してしまえば……だって……多分あたしたちはB+級ダンジョンだって、こなせるでしょ?しかも3人いれば……だから、ショウが加わったってなんとかフォローできるわよ。
それよりも、ショウの安全が第一よ。人買い組織が、どうやって迫ってくるのかわからない今、警戒するにも警戒のしようがないし、かといって1日中宿にこもっているわけにはいかないのよ。クエストはこなさなくちゃいけないし、買い物や食事だって必要だわ。
そんな不自由な生活を続けるより、安全な土地に移ってゆったり過ごしたほうがいいに決まっているわ。」
ナーミがすぐに出発することを提案する。言っていることはごもっともだが、本心は一気にダンジョンのレベルを上げて、ショウが追従できないようにしたうえで、留守番をさせるつもりじゃないかな。
なにせ下位レベルダンジョンがないところだから、初級も初級、冒険者になりたてのショウには上位レベルのダンジョンは地獄だろう。俺やトオルのように、年だからとか実戦経験が少ないからとかの理由で、本来の評価レベルより下位レベルに設定されたのとはわけが違う。純粋な初心者だからな。
「私はどちらでも構いませんよ……ショウ君次第といえますね。」
「ショウはどうなんだ?もう少し下位レベルのダンジョンに慣れて、戦い方を覚えてからのほうがいいだろ?
どんなことでも、やはり積み重ねた経験が重要になってくるからな。いきなり上位レベルっていうのはちょっと不安があるだろ?」
仕方がないので、ショウの意見を聞いてみる。
「うーん……僕は……すぐに行ってもいいと思うよ。だって……僕がここにいると人買いの人たちがやってくるかもしれないんでしょ?パパやナーミお姉さんと戦いになってしまうかもしれないんでしょ?そんなの困るもの。遠くへ行けば人買いの人たちがやってこられないなら、そのほうがいい。」
ショウが悲しそうな顔をしながらポツリと答える。ショウの場合は、自分が人買いに連れていかれるということよりも、人買いと戦いになって俺やナーミが傷つくことを恐れているのだろうな。
「じゃあ、決まりね?すぐにここを引き払って、出発しましょう。」
ナーミが上機嫌で立ち上がる。
「そうですね……ワタルとナーミさんのほかにトオルもおりますから、お忘れなきようにお願いします。」
トオルも深刻な顔をしながら立ち上がった。ショウの言葉の中に、名前がなかったことを気にしているのだろう。
まあ、昨日のダンジョンで手に入れたナマズ肉などは、道中の食事用に確保したものだし、すぐに移動するに越したことはない。道中ショウの魔法練習を少し多めにするよう心がければ、何とかなるか……。
「わかった……じゃあ急な話だが、宿を引き払って出発するとしよう。さっきも言ったが、ギルド関係以外の店はない集落だからな。買い物しておくなら今のうちだぞ。必要なものを考えて、すぐに買っておくようにね。
特に、服とかかな?後は、本とかお菓子や雑貨などか……宿はあるそうだから、宿泊と食事には困らない。
期限は……本日の午前中までとしようか。昼には引き払わないと本日分の宿泊代がかかってしまうからね、12時に宿のエントランスに集合だ。清算してから昼食をとって、それから出発しよう。」
冒険しに向かうのだから、ギルド関連の店さえあればいいのではないかと考えがちだが、そうはいかない。
毎日毎日、同じことばかりだと飽きてくるだろうから、気晴らしなども必要だ。普通の村であれば一般人も生活しているから、雑貨屋や本屋などもあるからいいが、これから行く集落は冒険者専用なので、娯楽要素ゼロだろう。こちらで準備していくしかない。なにせ、簡単に行き来できるような場所ではないのだ。
この世界にはポテチなどスナック菓子は存在しないが、チョコレートやキャラメルにガムは売っている。更に料理としてのフレンチフライやポテトチップスは存在するので、食堂で食べることは可能だ。漫画はないが小説や絵本は本屋に売っているし、推理小説や冒険書など人気のようだ。恋愛小説もあるらしいしな。
「いいけど、馬はどうするの?いつものように山道を手綱を引いて連れ歩く?」
「いや、馬は連れていけない。何せ急こう配や道なき道を進んでいくから、馬を引いていくことも難しそうだ。馬は売り払っていく。ミニドラゴンはどんなところでも移動可能だから大丈夫だろう。そのため、平原はあの装甲車で移動することになるからね。」
タールーへの移動を計画してから宿の主人に装甲車を預けられるか聞いたところ、邪魔だから処分してくれとあっさり断られた。もう少しクエストをこなしてからなら、新しい馬車を購入して装甲車を引き取ってもらうこともできただろうが、急な展開だから仕方がない。乗り心地は悪いだろうが、勘弁してもらおう。
側板が鉄格子だと当たると痛いので、建材屋から石膏ボードを買ってきて、装甲車の荷台の内壁と天井に針金を使って格子に括り付け床板も交換。これにより寒い場所での断熱保温性も上がるはずだ。何せ標高の高い山の上に行くのだからな、冬など積雪も十分考えられる。
雑貨屋へ寄ってクッションをと思ったが、どうせだからと綿製敷布団を2組購入して、真新しい床板の上に布団を敷く。1枚半くらいの大きさで少し左右に余った分が折り上がるがいいだろう。これで乗り心地は少しはましになるはずだ。
装甲車を作った時は時間的制約があったので、内装も外観も何も気にもせずに作ってしまいちょっと後悔していたので、この際だ、少し手を入れることにした。こういった工作は、引きこもりを始めた当初、ジオラマとかフィギュア制作に没頭したことがあったため、意外と得意なつもりではいる。
「馬を売ってきました。そのお金で米を多めにと缶詰も相当分買ってきましたけど、当然残金はまだあるので、目的地のギルドについたらカードに分割していただきましょう。」
トオルが10キロの米袋を2つ担いで、さらに缶詰を入れた袋を手に持って戻ってきた。4人いるしほとんど歩きで半月近くかかるのだから、これくらいは必要か。律儀なトオルは馬を売った時の明細書と米の領収書を手渡してくれた。後でナーミも加えて、3分割だな。荷台の布団をずらして荷物を置く。
「ちょっと罰当たりな気もしますが、布団をかけておけば、椅子代わりに座れますね。」
確かに積み重ねた米袋と、缶詰を詰めた袋の上に敷布団を乗せれば、簡易ソファーの出来上がりだ。食べ物を尻の下に敷くというのはよくはないが、少しは乗りやすくなるかもしれないな。シートの下に荷物を置くような仕様の車もあることだし、そう考えることにしよう。
「あと、内壁はボードがむき出しでは色気がありません、ケンタ牛を解体したときの牛革が余っておりますから、それを貼り付けましょう。何かに使えるかと思って取得しておきましたが、いい使い道が見つかりました。」
何かちょっと気にはなっていたところに、トオルから名案が出され、急いで雑貨屋に行き小さく短いくぎを大量に購入してきて、石膏ボードに牛革を貼りつけていく。それとなく高級車の内装のように仕上がった。トオルはブラックゴリラの毛皮も持っていたので、ソファーの上に敷いておいた。完璧だ。
「替えの洋服とお化粧道具に歯磨きとお菓子に加えて、乗り心地悪いだろうからクッションを買って来たわ。」
「僕は……服と文学小説と日常雑貨にクッションを買ってきました。」
ナーミとショウが、80センチ角位の大きくて分厚いクッションを抱えて戻ってきた。まあ考えることは同じだな。2人は荷台の中を見て苦笑していたが、それでも中にクッションを置いて横になったり座ったりして、乗り心地を試しているようだ。
宿を引き払って昼食を済ませ、ミニドラゴンの引く装甲車で出発する。ヌール―を旅立つときには2m程度の体高だったミニドラゴンだが、移動の際は夜には放して自由に食事をさせ、一緒にいる時でもダンジョンで手に入れた魔物の肉などを与え続けていたら、日に日に大きくなり、今では3mを越える大きさになった。
城では人間と同程度の食事でいいと言われていたため、世話係がそのように与えていたはずだが、多めに与えればそれに呼応して成長するのだろうか。もしかするとあまり成長すると町中では一緒に生活できないからと、食事制限するよう心がけていたのかもしれない。
まんまるく人懐っこかった顔が、いかついというかシャープで精悍な顔つきに変わってきた。成獣に近くなってきたような感じだが、ミニドラゴン以外の名前で呼んだことがないので、こいつはどこまで成長してもミニドラゴンだ。
成長したミニドラゴンは、ちょっと荷物が多めの装甲車など全く苦にしないようで、軽快に飛ばしていく。広くした御者席に俺とトオルが座り、荷台にはナーミとショウがクッションに抱き着きながら転がっているはずだ。装甲車に窓はないので、中は輝照石で明かりをとっている。
北方山脈の山すそに到着したときには日も暮れかけていたが、更に急こう配の山道を進み、馬車で侵入できる限界まで行く。馬では厳しい勾配の山道も、ミニドラゴンの脚力なら何とか可能だ。いつもならとっくに徒歩で進むような場所だが、今回は長距離移動なので少しでも距離を稼ぎたい。
「じゃあ、今日はここで野宿するとしようか。これからテントを張るから、食事の支度にかかってくれ。」
俺とトオル用とナーミとショウ用の2つのテントを張らなければいけないので、結構忙しい。
「あたしたちのテントは張らなくてもいいわ……この装甲車の中はあったかいし、布団もあるしクッションもあるから、テントで寝袋で寝るよりはるかにましよ。」
するとナーミが、装甲車のドアから顔だけ出して答える。ああそうか……気に入ってくれて何よりだな。
内側からしか開けられない覗き穴部分は石膏ボードもくりぬき、木片で塞いである。長い木片を取り除き、つっかい棒をしておけば換気も出来るし外もみられるという仕組みだ。
確かにそのまま寝られるなら、それでいいか。俺とトオル用のひとつだけテントを張ることにした。
ミニドラゴンを装甲車から外してやり、大量にゲットしたボス大ナマズの肉を冒険者の袋から取り出して与えてやると、もう満足したのか、そのまま動こうともしない。そりゃそうだ、冒険者の袋の口に入りさえすれば、何キロでも1アイテムなので、時間もあったから大きく切り分けたのだ。そのため10キロの塊を与えた。
まあ、こいつがいれば魔物も寄ってこないから楽だな。
ショウとナーミも手伝って、トオルと一緒に夕餉の支度をしている。ナーミはもちろん、エーミの料理の勉強にもなるから、こういった旅もいいのかもしれないな。
夕食は大ナマズのかば焼きに沢蟹の唐揚げを堪能した。その後日課のトレーニングをして、交代で見張り番をすることにする。ミニドラゴンがいるとはいえ、何が襲ってくるかわからないので警戒は必要だ。
「じゃあ、今回からは4人いるから一人ずつの3交代ではなく、2人組の2交代にしようか。このほうが一度に寝られる時間が長くなるからいいだろう。分割で寝るやつが出ないで済むからな。
まずは、俺とトオルで番をするから、ナーミとショウは寝てくれ。5時間経ったら起こすから交代だ。」
今回から見張り番は2交代制にする事にして、まあ順当な組み合わせとしておく。
「えー……僕はパパと一緒がいい……。」
すると、ショウが不満げにつぶやく。ううむ……ナーミよ、御免……。
「だめです。ワタルと私はセットですから、組み合わせでしたら、この組み合わせ以外にありません。」
するとその言葉に呼応するようにして、大人げない言葉が……。
「いや、かなりな長時間の移動で、ショウもナーミも荷台で揺られていたから疲れているかと思ってね。先に寝るほうのシフトにした。これから何日も移動するわけだから、毎日同じ組み合わせじゃなくてもいい。ちょっとずつ変えていくつもりだから、今日はこの組み合わせで行こう。ショウもいいかな?」
だれとだれの組み合わせがいいだのと言いだしていたら、いつまでも組み合わせなんて決まらないのだ。しかも選ばれなかったほうの人は傷つく。そんな思いを、前の世界の俺はいつも味わっていた。
エーミはナーミの実の妹だから、ナーミはショックだろうが、エーミのことを嫌いになるようなことはないだろう。トーマとエーミとの生活がそれだけ長かったのだと、理解してもらうしかないし、今後距離を詰めていけばいいのだ。
「う……うん……わかった……じゃあ、明日だね?」
ショウが笑顔を見せる。やっぱりかわいいなあ……。その後、夜中にナーミたちを起こしてこっちは就寝。ミニドラゴンがいるせいか、この辺りはまだギルド管轄のせいか、魔物が現れることはなかった。
「さあ、朝食を終えたら着替えて出発するぞ。今日からはミニドラゴンの馬車は使えないから、装甲車部分はミニドラゴンに担がせて、我々は歩きだ。結構急な山道もあるだろうが、頑張ってへこたれないようにね。」
朝は炎牛の骨でだしをとったスープで煮た、おかゆが出てきた。昨晩の料理を終えた残り火に一晩かけておいたらしい。これまで取得した食材を、全ては売らずにちょこちょこと蓄えているのだな。
「ねえパパ……エーミはパパのお嫁さんになるって言ったら、ナーミお姉さんが親子で結婚なんてできないっていうんだよ。だから、パパとエーミは本当は血がつながっていない親子だから、ちゃんと結婚できるんだって教えてあげたの。
そうしたら、ナーミお姉さんはパパに何度も裸を見せているんだって。最初に出会った時なんて、剣で脅して無理やり服を脱がせたって言っていたけど、本当なの?パパはナーミお姉さんが好きなの?ナーミお姉さんと結婚するつもりなの?」
「ぶほっ」
おかゆのスープを多めにもらってすすっていたら、エーミから衝撃の言葉が……今はエーミの姿だから、この言葉遣いは注意する必要性がない。しかし、その内容が……。
「ナーミ……何てことをエーミに言っているんだ?根も葉もないことを言うな!」
いくら何でも言っていいことと悪いことがある。最愛の娘に対してなんてこと言いやがるんだ。
「あたしは、嘘なんて一つも言っていないわよ。始めて出会った時に、あたしの首筋にしかも背後から剣先を突き当てて、服を全部脱げって脅したのは、誰だったかしら?」
ナーミは平然とおかゆをすすりながら答える。
「あっあれは……ナーミが俺のことをカルネの仇と勘違いして突然襲い掛かってきたから、だから何とか誤解を解こうとして、話し合いをするためにだな……しかも裸じゃない、下着は残しただろ?」
「あーら、初めて会った人と話をするときには、ワタルは相手を剣で脅して下着姿にするのかしら?一体これまで何人の女性を脱がせてきたの?それはワタルが生活していた地方の習慣だとでもいうの?」
ナーミは俺の言い訳を鼻で笑いながら、したり顔で続ける。まずい、このままでは俺は女性を脅して裸に引ん?く変態野郎だと、エーミに思われてしまう。確かにナーミはかわいいだけじゃなくスタイル抜群で、一瞬見惚れたのは事実ではあるのだが……。




