今後の生活
「ど……どうするのよ……ショウのこと……まさか本当に魔法使いにするつもりじゃないでしょうね。」
ショウを連れてC+級ダンジョンに挑戦し、無事制覇した翌日。朝食のために食堂へ入ろうとしたらナーミが入口へ駆け寄ってきて、深刻な表情をしながら問いかけてくる。
まあ最初はともかく、昨日の様子なら魔法使いとして十分使えそうだから、ショウを冒険者にしたくないナーミとしては、面白くないだろうな。当初は俺も同じ考えであったが、一昨日ショウに一本取られてから少し変わってきた。やるだけやらせてみようと、今は思っている。
「ああ……昨日のダンジョンでの様子を見ていただろ?
ギルドでは適正人数4人での対応ではあるが、それまで俺たちは3人でB級どころか超難関のA級である義賊クエストまでこなしていた実績があるから、1人加わったショウのレベルをC+級にあげることはできないって言われ、C級のまま据え置きにはなっちまったが、十分働いたと俺は思っている。
取り敢えず、このままやらせてみよう。冒険者は確かに危険な商売だが、常に一緒にいたほうが守ってやれると思えるから、このままいきたい。」
本来なら適正人数以下で上位ダンジョンを攻略すれば、下位レベルの冒険者はそのレベルまで評価レベルが上がるはずなのだが、俺たちの場合は3人だけで上級クエストをこなしていたので、追加されたショウに対する評価は厳しかった。だが、別にショウのレベルがC級だろうがC+級だろうがB級だろうが関係ない。
俺たちと一緒にクエスト申請すればいいわけだからな。報酬は均等割りだし、何の問題もない。ショウの身の安全を思えば、このほうがいいんじゃないかとすら思ってきた。
「あたしは……エーミには普通の女の子としての生活を、送ってほしいと思っているのよ。それなのに、どうして冒険者なわけ?」
ナーミはその大きな目を細め背伸びをして、なるべく俺の目線により近い高さから威圧しようとしてくる。
「仕方がないだろう?本人がどうしても冒険者になりたいっているんだから。これも、血筋なんじゃないか?
超一流の冒険者だったカルネの血を引いているわけだからな。
そういうナーミだって、カルネがもし生きていたら、冒険者になることを許してくれなかったかもしれないぞ。自由気ままな生活だが、先の生活の保障もない浮き草生活で、自分の子供には継がせられないってよく言っていたからな。
そのくせ、俺には冒険者になったらどうだ?だの、楽しいぞ……とか勧めていたけどな。あれは病床に伏して、自分が冒険者に戻ることが、もうできないことを知っていたからじゃないかと思うし、王宮勤めを解雇されて居城にこもっていたと……俺を慰めていたのだとは、思っているけどね。」
「あたしは……パパの無念を晴らすのと、あたしのような不幸な子供を救うために冒険者になったのよ。でも……ママからよくパパのことを聞かされていて、あたしも大きくなったらきっと冒険者になるんだって、小さなころからもう決めていたけどね。
多分ママが生きて元気でいれば猛反対したと思うけど、反対を押し切って冒険者になったんだろうな……。」
ナーミが、ふと懐かしい昔を思い起こすかのように中空を見上げる。
「ほら……そうだろ?エーミ……今はショウだが……が、やりたいようにやらせてみるのがいいと、俺は今では思っている。そのほうが、後で後悔しないだろうからな。」
別に冒険者にならなくても、一緒には居られるわけだから、合わないと感じたらショウのことだ、正直に打ち明けるだろう。そのときは、また別な道を一緒に考えていけばいい。
「あたしとエーミじゃ……住んでいた環境が違い過ぎるじゃない。お城のような大きな家で、毎日使用人たちに囲まれて、お姫様のようにして暮らしていたんでしょ?
あたしは子供のころからずっと家で一人で過ごしていたから……あたしが7つくらいの時には、パパから養育費が届かなくなってしまったから、ママはあたしを一人で育てるために昼も夜も働いていたのよ。
学校が終わったらずっと外で男の子たちと遊んでいて、おひるごはんや晩御飯も、ママが用意してくれた時はよかったけど、余裕がない時は、心配かけないために自分で山へ行って山菜取ったり、ザリガニ捕まえたりして食べていたのよ。もうそのころから半分冒険者のような生活をしていたといえるわ。
ママは、ナーミも学校へ行くようになって手がかからなくなっただろうから、養育費はもういいと思っているんでしょうねって、自分で納得していたけど、ママ一人だけ働かせるパパのことを恨んだこともあったわ。
それから……人買いに売られて……ここだけはエーミも一緒だろうけど、だからといって冒険者になることはないと思うのよ……。」
ナーミの目に涙が溜まってきてウルウルとしている。辛かった時を思い起こしているのだろうな。しかもナーミの場合は辛かった時が幼い時から、ほんのつい最近までと長いからな……といっても、俺たちと一緒にいる今が、幸せと思っていてくれているのかどうか、その点にもちょっぴり不安があることはある。
「まあ、そうでもないぞ……サートラは、エーミをかなり厳しく躾けていたからな。食事もカロリー計算して、必要最低限しか与えていなかったようだし、食事時もそうだが、日ごろのあいさつの仕方など、行儀作法や歩き方や所作に関して、時折鞭をふるっていたと、使用人たちに聞いていた。
恐らくエーミを、どこかの貴族のご子息に嫁がせるつもりでいたのだろうが、それにしても自由も何もない、閉塞した生活だったようだぞ。いうなれば篭の鳥だな。学校だって使用人に送り迎えさせて、友達と遊ぶことなどもってのほか、こんな事じゃ良家に嫁がせられないわよって……怒鳴り声がたまに聞こえていた。
とー……じゃなかった俺にエーミが得になついているのは、その裏返しだと思っている。血がつながっているとはいえ、娘を道具のようにしか扱わない母親に対し、義理とはいえ無償の愛を注いでくれる父親。そりゃあ父親びいきになるのは当たり前だわな。
それでもエーミはと……俺の前で母親の悪口は絶対に言わなかった。自分を生んで育ててくれている、大切な肉親という気持ちは持っていたのだと思う。あの子は優しくて芯が強い子だ。」
まあ、こんなこと言わなくたって、実の母親に人買いに売られたことは、ナーミだって知っているのだけどな。どっちの過去が辛いかって勝負じゃないけど、母親の愛情というものを全く知らないエーミだって、悲惨な人生を送っているのだと、俺は考えている。
「それに……昨日のダンジョンでだって休憩時もそうだが、結構仲良く一緒に行動していたじゃないか。」
「そ……そりゃあ……冒険初心者だから、心配だから色々とアドバイスしてあげたわよ。こういった地面の色が変わっているところは危ないとか、洞窟の曲がり角などは特に魔物たちが待ち伏せしているから気を付けないといけないとか……冒険者としての心掛けをね……。」
ナーミが少し照れ臭そうにほほを染める。なんだかんだ言っても、ショウのことが心配でたまらなくて、前衛である俺のすぐ後ろにショウを配置させていたのだが、本来後衛であるナーミまでショウの隣に来て、あれこれ指示を出していたのだ。
途中から攻撃のタイミングなどもナーミが指示をすることにより、効果的に魔物を打倒すことができるようになっていった。ショウは勘がよく、一度教わったことはすぐに実践で、さらに応用して使えるようで、途中からナーミはいうことがなくなったくらいだ。
「ともかく、もう少しだけ様子を見てみよう。判断するのはもっと後でいいと思う。」
「わかったわ……じゃあ、今日はB−ダンジョンのクエストを攻略するの?」
「ああ……いや……その件に関しては、ちょっと相談がある。後でトオルと……ショウも交えて話すつもりだけどな。それよりも、クエスト申請に関しては、リーダーであるナーミの役割だろ?ナーミが必要と考えるクエストを決めてもいいんだぞ。」
昨日もそうだったのだが、最近のギルドというか、この村の状況に関して、対応が必要ではないかと感じている。どうしても早急にというわけではないと考えるが、数日中には行いたいと思い、朝食後にでも相談してみようと考えていた。ショウを含めるかどうか悩んだが、やはり話しておいたほうがいいと考えている。
「ふうん……じゃあ、あたしは食べ終わっちゃったから部屋へ戻るわ……後でワタルの部屋に行けばいいのね?それと、あたしはリーダーを辞めたから。」
「へっ?」
「義賊クエストの時にも言ったでしょ?これがあたしがリーダーとしての最後のクエストだって。もともとあたしがレベルが上だからリーダーだってえばっていたけど、結局ワタルが指揮したほうがうまくいっているものね。だから、レベルが一緒に上がった今が、交代の時期だと思っていたのよ。まっ、これからよろしくね。」
ナーミは軽くそう言って階段を上がっていった。ありゃりゃ……別にリーダーはナーミでよかったのにな。俺はどちらかというと、リーダーとしてチーム全体を預かるような器量の持ち主とは思っていないからな。だがまあ……その役割を17歳のナーミに押し付けるわけにもいかないか……仕方がないな。
「おはようございます。」
「パパ、おはよう……ナーミお姉さんと何話していたの?」
「おはよう……ああ……ちょっと……世間話を……。」
しまった……いつも一緒にいるナーミと世間話も何もないんだった……しかも2人だけで……変に勘繰られるかもしれないな……。
「そっ……それよりもだな……ちょっと聞いてくれ、提案がある。悪いが朝食後に部屋に来てくれ。」
そういって、朝食後のミーティングに誘っておく。
「悪いな……わざわざ集まってもらって。
その……義賊クエストでエーミを救出することができた。ほかに5人もの子供を救い出すことができた。これは、人買い組織にかなり大きな打撃を与えることができたと考えている。
キャラバンの商人たちの多くが手傷を負い幌馬車が壊れ、護衛の冒険者たちは、スースー達に諭されて冒険者に戻ったのが大半だと聞いているからな。さらにこれだけでは済まない。
なにせ、子供を発注していた位の高い人たちに対して、子供を届けられないわけだからな。前金を返却するのはもとより、違約金を支払わなければならず、多大な損害を出しているはずだ。
しかもキャラバンの移動ルートを通達し、妨害できるものならやってみろといわんばかりの奴らに対し、多少のからめ手ではあったが、それでも堂々と戦って子供たちを連れ去られたわけだ。しかもたった15人だけで成し遂げたわけだから、人買い組織のメンツは丸つぶれだ。
そのメンツを回復するためにも、救出された子供たちをしつこく探し回っていると、昨日もギルドで聞いただろ?未だにコージ村では厳戒態勢が解けていない。
気になって昨日の晩、居酒屋の帰りにショウと一緒に診療所に寄ってみたら、当直の医師がちょうどエーミを見てくれた医者で、話を聞いたら今日にもほかの5人の子供たちを分散して孤児院へ移送すると言っていた。
その移送時の警護のためにギルドの保安部隊の大半を使うと言っていたから、この村の警護は手薄になるだろう。まあ、それだって俺たちが気を付けてショウを守っていればいいわけなんだが、いつまでもこの緊張を続けるというわけにもいかないだろ?ショウがトイレに行くにもついていくなんて事やってられないわけだ。
だから人買いの手が及ばない土地へ、俺たちが移動しようと思っている。この土地はダンジョンも豊富だし、初級者向けから上級者向けまでそろっているので、これから経験を積んでいくには最適の場所なんだが仕方がない。」
朝食後に一旦俺の部屋に全員集合してもらい、俺の考えを説明しておく。こんな話を誰かに聞かれたら、折角ショウを擬態化させている意味もなくなってしまうから、極秘に話す必要がある。
擬態石を使ってショウに化けさせていると言っても、顔はエーミのままだから、ぱっと見はかわいらしい美少年で通じるのだろうが、エーミの顔を知っている人買いが回ってくる可能性は十分にある。俺たちで守り切れればいいのだが、大人数で攻め込まれると不覚もあり得るのだ。
擬態石は2石あるから、顔も変えてしまえばいいのだが、やはり女の子、顔を変形させるのには抵抗がある様子だ。ナーミもその気持ちは認めているから、仕方がないと考えるしかない。
「僕のために……ごめんなさい……。」
ショウがうなだれて、小さくつぶやく。
「いえいえ、ショウ君のせいでは決してありませんから、お気になさらぬように……。
それに、どうせ我々は冒険者ですし、ダンジョンを求めてあちこちを旅して歩くのが性ですから、よろしいのではないのでしょうか?」
トオルがショウを慰めながら快諾してくれる。
「あたしも、別にこの村にとどまる理由はないから、移動することには反対しないわよ。でも、人買いの手の及ばないところって……そんなところこの世界にあるの?」
ナーミも賛成の方向だ、よかった……。
「それがあるんだ……しかもそう遠くないところにな……地図にも載っていない小さな集落なんだが、ここから北方山脈を北へ北へと進み、海岸線に到達する少し前にギルドが管轄する集落がある。
集落といっても、その近辺にダンジョンが多数発見されているから、それを管理するためのギルドが設置され、当然ながらダンジョンから精霊球を回収するための冒険者のための施設もある。いわば冒険者のためだけの集落といえる。ここなら、さすがの人買い連中もやってこられないと考えているのさ。
冒険者でなければ知らないし、来ることもないような場所だ。無理にやってくるにしても、幌馬車なんか絶対に入ってこられない。なにせ、高い尾根伝いに何日も歩いていかなければならないような場所だからね。
カルネからもらった地図があればいいが、冒険者だってかなり上級者でないと知らないような場所のようだ。なにせ、B+級以上のダンジョンしかないし、攻略後のC級開放もしていない、タールーという集落だ。」
カルネから教えてもらった、冒険者の穴場中の穴場を皆に紹介する。他の町のように、一般人は生活していないし、ギルド管轄以外の施設は存在しない。居酒屋だってないと言っていた。本当に、冒険をするためだけに行くような場所で、昨今の冒険者では知らないやつのほうが多いのではないかというようなところだ。
「そ……そんなところが……あるんだ……へえ……面白そうじゃない……行ってみましょう。」
ナーミは興味を示したようで、ずいぶんと乗り気の様子だ。まあ、ストイックにダンジョン攻略しますって、なんかそんな性格をしているようだからな。
「いいですね……我々はいわば修業中の身ですからね。そのような浮世の雑音がないような場所に行って、冒険者として大きく飛躍するのはいいかもしれませんね。」
トオルも乗り気のようだ。
「僕は……どんなところだって、パパと一緒にいられるなら構わない。」
ショウが笑顔で答える……ううむ……このパートの役割はトオルの担当だったはずだが……。




