合否発表とクラス分け
いよいよ今日は国立学校の合格発表の日。
私達は、合格が試験当日から確定してしまっているので、所属クラスの確認と、制服の採寸・注文、書類の受け取りに行く。
合否発表は9時からだが、発表直後から14時くらいまではすごく混み合うそうなので、15時頃、アンヌとアルがうちに来て一緒に行くことになっている。
フレッドは午前に卒業式典があり、終わってから一度実家へ戻ってから国立学校へ行くそうで、フレッドとは現地集合になっている。
父はフレッドの後見人なので、フレッドの父ガルニエ伯爵と一緒に式典に出席しているらしい。
出掛けるのが15時なので、私はいつも通り、治療院のお手伝いへ行く。
今日はずいぶん患者さんが少ない。
「フローラ、いよいよ合格発表だね。合否なんて追試を受けた君には関係ないだろうけどね。」
いつも通りニコニコの笑顔の院長先生。
私の入学試験後、毎日患者さんが多くてほとんどお話しする機会がなかったので、こうやって話すのは久しぶりだ。
「院長先生が実技の試験官だったのですね。だからあの日、私にあんなことをおっしゃったんですか?」
「ああ、そうだよ。私のところにリラがやって来るとは思わなかったから私も驚いたよ。実は国立学校の教師になって欲しいとの話を何年も断っていてね。それなのに君に指導しているというのが見つかると非常にまずいんだ。
あの日、たまたまペアになったアリスは昔からの馴染みでね、フローレンスもマルグリットも知り合いだったよ。」
「あの、アリス様ですが、実母の葬儀でご挨拶をしたのを覚えています。」
「そう言えば、あの時君を見て驚いたって言ってたなぁ。母娘3代そっくりだって。それからこの間も、実技の面接のとき、きみが精霊を解放しただろう、結の精霊の多さに驚いていたよ。さすがフローレンスの孫だ、血は争えないとも言っていたね。」
あの時の血筋かしら…という呟きは空耳ではなかったらしい。
「そう言えば、先日、君とアンヌがつないだ扉を見せてもらったよ。いやぁ、なかなか強力につないだものだ。」
「アンヌが、とても上手なんです。精霊魔法陣を書くのが。私はどうにかやっと書き上げました。」
本当にアンヌは早く美しい魔法陣を書くのだ。
「君の報告書に添付されているのもなかなかだったよ。ところで、だが。」
さっきまでニコニコしていた院長先生の顔が急に引き締まる。
私は緊張でごくりと唾をのんだ。
まるで別人のようだ。
「学校では精霊を解放してはいけないよ。それから、結の精霊の契約の際に与えられた石は極力見えないようにするんだ。良いね?フレデリックと君が結の精霊に祝福され契約していることも人には言わない方が良い。決して自分からは言ってはいけないよ。」
私とフレッドのことをなぜ隠さなければいけないのだろうか。
この間のフレッドの反応と何か関係あるのだろうか?
「詳しくは近々フローレンスから話があるだろう。詳しくはその時聞きなさい。」
そこまで話すと、院長先生はいつものニコニコの先生に戻っていた。
再び私はモヤモヤしていた。追加試験を受けた日のように。
午後、アンヌとアルがうちにやってきて、私達はと母と兄に付き添われて馬車で国立学校へ向かう。
合否発表およびクラス分けが掲示されている広間は人がまばらで、そのため、父とフレッドにはすぐ合流することが出来た。
「みんな同じクラスだよ。」
私達よりも一足先に到着していたフレッドは、私たちの番号を指さし教えてくれた。
私達は4人全員が特待クラスだった。
特待クラスは私たちを含め8名、うち2名が3年生だと書いてあった。
特別クラスは8名、うち4名が3年生、2名が2年生、新入生は2名だと書いてあった。
特待クラスと特別クラスは、学年関係なく学力次第だそうだ。
それにしても、今年の新入生が2クラスの半数を占めているとか今年の新入生はレベルが高いのだろうか?
そのクラスに所属する私がそんな事を言うのはおこがましいのだが、私達は幼い頃からみっちりしごかれていたので、環境と努力の賜物だろう…。
同じクラスにはどんな人がいるのだろうか、そう思って名簿を良く見ると『ルイ・ブランシャール』と言う名前が特待クラスにあった。
フレッドの友人もクラスメイトのようだ。
特待クラスと特別クラスは合同で授業を受けることも多いらしい。
特別クラスには知っている名前はなさそうだ。
「案の定、私たちはパシリのクラスなのね。」
アンヌがボソリと漏らした。
そこへ、追い打ちをかけるように母が言った。
「通常、特別クラス以上は学費が免除されるんですけど…辞退しました。自分で稼いで学費を納めてくださいね。」
ものすごくいい笑顔だけれど、言っている意味がめちゃくちゃだ。
学費を納めるって、いったいどれだけかかるのだろう?しかもそのお金をどうやって稼ぐのだろうか?
あっけにとられている私たちに、祖母は続けた。
「心配しなくても大丈夫です。仕事ならいくらでも学校が斡旋してくれますからね。あなた達には仕事を選ぶ権利もないので悩む必要もありません。依頼されたものをすべてこなせば、学費だけでなく多少のおこずかいにもなるはず。ですからつべこべ言わず働きましょうね。仕事というよりも、授業の一環と思うべきかしら?」
いま、さらりと恐ろしい事を言った気がするが気のせいでしょうか?
「制服および必要なものは入学のお祝いにプレゼントしますから、学費だけは自分たちでどうにかするんですよ?では制服の採寸に行きましょう。」
どうやら、聞き間違いではなかったようです…。
アンヌの顔が青い。
アルとフレッドは苦笑していた。
「リアルにパシリなのね。私たちは馬車馬のように働かされるんだわ…。」
「アンヌ、その言い方はやめなさい。実技の授業がほかのクラスよりも多いだけですよ。しかも、報酬の出る実技の授業です。決してパシリではありません。」
いつも以上に母の笑顔には迫力があります…。
私とアンヌは母に連れられて制服の採寸へ向かう。
フレッドとアルは兄に連れられて制服の採寸へ行き、父は書類を受け取りに行っていた。
国立学校の制服はクラスによって色やデザインが違う。
一般クラスと文官クラスは、基本デザインが丈の長めで細身のジャケットにパンツとほぼ同じだが、一般クラスがライトグレー、文官クラスがチャコールグレーだ。
また文官クラスの方がシャツとタイのデザインがおしゃれで素材も良い。
武官クラスは軍服のようなデザインの臙脂のセットアップ。
魔術師クラスと精霊術師クラスはシャツ、ベスト、パンツ共に黒と同じだが、ローブの色が違う。
ぱっと見どちらのクラスも黒いローブのようだが、光の加減で魔術師クラスはダークブラウン、精霊術師クラスはダークグリーンだ。
そして、タイの色は魔術が使えるものは臙脂、精霊術が使える者はモスグリーン、両方使えるものはネイビーと色が変わる。
特別クラスと特待クラスは、第一志望で出していたクラスのデザインの制服が深い緑色の生地で仕立てられる。
以上が男子生徒の制服である。
女子は一律のデザインでミモレ丈のごくシンプルなAラインのワンピースである。
所属クラスの男子の制服と同じ生地で仕立てられる。
そこにジャケットかローブが加わり、クラスまたは使える術によってスカーフの色が変わる。
ただし、特別クラスと特待クラスのみ、ワンピースの色が深い緑色で襟付きになり、同色のローブがセットになる。
特別クラス以上になった場合は、オーダーメードとなる。
そもそも、特別クラスに必ず新入生が入るとは限らないので、既製品はないのだ。
他のクラスは、既製のものが用意され、それで良ければその場で持ち帰ることが可能だ。
ちなみに、貴族クラスには制服など存在しない。
混雑する時間を外したおかげで、採寸、オーダーもすんなり終わった。
数週間後、出来上がったら自宅まで配達してくれるそうだ。
それぞれの用事も済み、再び馬車で私の家へ皆で帰った。
帰宅後、久しぶりに皆でダンスのレッスンを受ける。
もうすぐアンヌとアルは成人のお祝いの夜会を控えており、私もその時ついでに社交界デビューをするため、母と兄の指導もいつも以上に厳しい。
2時間ほどのレッスンの後、皆で夕食を取ることになった。
案の定、マナーレッスン付きの晩餐だった。
とはいえ、皆もずいぶん慣れたもので、気負うことなく夕食を楽しんでいる。
「レッスンを始めたころの味の分からない食事が懐かしいわね。」
そんなアンヌの言葉に皆で笑った。
その後の話題は、アンヌとアルのお祝い、マティユ陛下の祝賀会、それから国立学校の入学祝賀会など、この夏私達が出席しなければいけない夜会についてへ変わる。
国立学校の入学祝賀会は、入学式の前夜、新入生を歓迎する目的で行われる夜会で、2年生、3年生の貴族クラスが主催し、在校生は全員参加、新入生はクラスを問わず貴族である場合、それから特待クラスと特別クラスは身分にかかわらず強制参加だそうだ。
平民出身の新入生は、自由参加だが、毎年そのほとんどが欠席するらしい。
何も知らずに来ると浮いてしまうかららしいが、入学後は授業のカリキュラムの中に、夜会についてのマナーやダンスを学ぶものがあるので、それを受けて、冬に行われる夜会で実践するというのが、暗黙の了解というか、セオリーというか、常識だそうだ。
国立学校なので、将来的には平民の出身でも出世するものも多い。
そうすると、夜会への出席をしなくてはいけないことも多い。
その時になって何もわからない…では困ってしまうので、そのようなカリキュラムが組まれ、年間に3度夜会が開かれ、卒業までにはそれなりになるように仕込まれるのだ。
出来ることなら、私もその授業を受けてから冬に行われる夜会でデビューしたいし、この夏の夜会も全てパスしたい気分だ。
どれもこれも強制参加であるためそういうわけにはいかないのが辛い。
「ローラン様、私の成人のお祝いのとき、エスコートしてくださるってお約束、お忘れではないですよね?」
アンヌと出会った頃、当時私の伯父(現在は兄だけど)に彼女がしつこくお願いしていたことを思い出す。
あれが現実になったなんて、結構私達って長い付き合いなんだなぁとしんみりしてしまう。
「も…もちろん覚えていたよ…忘れるわけないだろう?」
ローランお兄様、その反応は黒ですね?思いっきり忘れてましたよね?
「で…でも僕はリラのエスコートを…」
いやいや、お兄様、そろそろ妹離れするべきだと思います。
全員の視線がそれを物語ってますよ…。
私としては、可愛がってもらえるのは嬉しいけれど、親友の恋の応援もしたいのでもちろんお断りだ。
それに兄妹でというのもちょっとさみしいし。
私はフレッドにエスコートしてもらうからお兄様はアンヌのエスコートをして下さい、そう言いかけた時、私より先に母が兄に進言した。
「ローラン、アンヌのエスコートをなさい。リラのパートナーはアルベールだって言ったでしょう?」




