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入学試験と追加試験

空の精霊との契約を無事に済ませ、入学試験の提出用の報告書とそれに添付する魔法陣も無事に書き上げた私とアンヌは、ティータイムを楽しんでいた。

こんなにゆっくり飲むお茶は久しぶりだった。

とはいえ、入学試験は2週間後。

休憩が終わると再び試験勉強をしなくてはいけない。


私達に用意された試験対策の問題の難易度はびっくりするくらいランダムだった。

眉間にしわを寄せてしまうほど難しい問題があったかと思えば、初歩の初歩の問題があったりする。

はっきり言って、初歩の初歩の問題は必要なのかとずっと疑問に思っていたが、どうやら無駄でもないらしい。

なぜかと言えば、入学試験は、全クラスが共通の問題で、あまりに難しすぎる問題ばかりでは、不都合が生じるらしい。

かといって、クラスごとに問題を分けてしまうのにも問題がある。

もしそうなってしまうと、志望を複数出すと、その数だけ試験を受けなくてはいけない。

両者、主に学校側の負担が増えてしまうらしい。


学校側の事情は詳しくわからないが、受験する私たちにとって、初歩の初歩の問題が明暗を分ける、そんなことも珍しくないからきっちり復習しとけ、そういう意図があってこその問題なのだろう。

確かに、ど忘れして出てこない、って事、何度かあったもんなぁ…そんなことを思う。

マナーやダンスのレッスンはお休みして、主にペーパー対策と小論文に力を入れる。

実技の練習は、空の精霊との契約の報告書を仕上げた時点で終わった気になっていた。


試験直前にもかかわらず、私は毎日治療院のお手伝いに行っていた。

試験勉強に集中したいので休みたいと母に伝えたところ、怒られてしまった。

「治療院でのお手伝いが魔術の実技の練習になっているのに気付かないのですか?それ位気付きなさい。」

だそうだ。

すっかり魔術の実技試験を受ける必要が有ることを忘れてしまっていた。

実技は主に、入学願書を出した際、どの程度の術が使えるのか、何に適性が有るのか記入する。

その申告に基づき、担当試験官の判断で指示を出すらしい。

私は、その際、治癒・回復系統の魔術の適性が高いと申告したので、つまり、実技では主に治癒・回復系統の魔術を実演するということなのだ。


それがわかれば、行かないという選択肢はない。

いつも通り、お手伝いをするのはもちろん、それに加えて、院長先生の指導も受けていた。

「フローラ、いいかい?ここで手伝っていることと、私のことは決して口外してはいけないよ?」

何故かは詳しく教えてもらえなかった。でもわざわざ言う位だ。

私が喋ると困ることでも有るのだろう。






そして迎えた試験の日。

試験会場は国立学校。

受け付け順に部屋分けをされていたせいか、受験番号順だったのかはわからないが、私たちは4人同じ部屋での受験となった。

私達が入室するとその部屋はざわつく。

王子や王女であるアルやアンヌが試験会場に現れたのだから皆驚いたのだろう。

あちらこちらでひそひそ話をする声が聞こえる。

「王子と王女が入学されるって本当だったんだ。」

「まさか試験も受けるなんてね。」

「どうせ受けても受けなくても入学出来るんだろう?」

「つうか一緒にいる奴誰だよ?」

「あ、あいつ士官学校にいたぞ?」

「どうして王子と普通に話してるんだ?」

「知るか。」

そんな会話が聞こえてきて、アンヌはあからさまに不快な顔をしていた。



ペーパーの試験は、以外にもあっさり終わってしまった。

拍子抜け、まさにそんな感じだ。

いつもおばあ様に出されている課題の方がはるかに難しい――アンヌ、フレッド、アルの感想もほぼ同じだった。

そして、午後からはグループ分けされて、小論文を先にするグループと、実技を先にするグループの分かけられ、私達は、小論文を先に書くグループだった。

『魔術と精霊術』『武官と文官』『貴族と一般市民』『エルフと人間』『国交問題』これらのテーマの中から一つを選んで書くという課題だったので、私は『魔術と精霊術』を選び、治癒・回復系統の術について両者のメリットデメリットを並べたうえでの使い分けについて私の考えをまとめた。

フレッドは私と同じテーマ、アンヌは『国交問題』、アルは『エルフと人間』について書き上げたそうだ。


そして、実技試験。

実技試験があるのは魔術師クラスと精霊術師クラスのみだ。

昔は武官・文官のクラスでも行われていたそうだが、今は士官学校から提出される書類で済まされるのだという。

実技試験の受付を済ませると、それぞれ指定された部屋の前で待つように言われた。

そして、私が部屋に入ると、試験官席に意外な人物が座っていた。


院長先生だった。

『フローラ、いいかい?ここで手伝っていることと、私のことは決して口外してはいけないよ?』

院長先生は試験官だったので、そう言ったのだった。

先生は私を見て少し驚いたようだった。

そして、もう1人も、私の実のお母様の葬儀の際、私を見て声をかけてくれた方だった。


「受験番号と名前を言いなさい。」

「251番、リラ・フローレンス・フーシェです。」

「第一希望が精霊術師、第二希望が魔術師だな。」

「精霊術の実技については、空の精霊との契約についての報告書を提出していますね。これについては、後日、実際に調査に伺います。火の精霊以外の加護を受けているようですね。…結の精霊との契約…も…しているのですか?」

私をまじまじと見つめ、目を見開いて驚いたようなそぶりを見せた後、血筋かしらね、そう呟いた気がした。

「はい。」

「精霊の様子を見ても、精霊術については問題はなさそうね、ファビアン。」

「ああ、問題ないだろう。魔術についても問題ない、それでいいかね?アリス。」

院長先生はファビアンという名前なのだろうか。

この、アリス様もきっと母の知り合いなのだろう。

私、この部屋に入ってから精霊術はおろか、魔術も全く使っていない。

「あの、実技試験ではないのですか?」

「君の場合、実績があるからね。まぁ、実技というより面接のようなものかな。」

「そうですよ。マルグリットの治療もあなたがしていたのでしょう?」

「はい…。」

「あはは、それじゃ不満かい?ではせっかくだから、私たちに血液浄化術とと回復術でもかけてもらおうかね。毒素はここへ入れてくれ。」

そして、院長先生は2つの容器を取り出した。

私はいつも通りに施術した。

「これで実技試験は終わりだ。本当は転移魔法も実際見たっかたんだがね。此処では無理だから、帰宅する際、転移魔法を使った記録を残しなさい。別に1人じゃなくて、誰かと一緒に移動してもいいからね。」

院長先生がそうおっしゃるということは、アンヌ達を連れて転移魔法で帰宅しろ、そういうことに違いない。

「詳しくは、事務室に行くといい。そこで手続きできるからね。もういいよ、お疲れ様。」

「ありがとうございました。」



私の試験は無事に終わった。

試験官が意外な人物だったが、お蔭で緊張せずに終えることが出来た。


フレッドも、アンヌも、アルも無事に実技を済ませたらしい。

彼らもやはり顔見知りが試験官だったそうだ。

兄、母、ジュリエッタさん、ヴィクトリーヌ様も試験官だったらしい。

4人でやっと終わった、肩の荷が下りたという話をしているとき、校内に放送が流れた。



「追加試験の対象者…?」

「追加試験ってあんまりいい響きじゃないっわよね。成績が悪かったみたいで…。」

「でもおかしくないか?追加試験があるなんて聞いたことないし、入学試験で成績悪ければ普通不合格だろう?」

放送は、追加試験の対象者の受験番号を張り出したので、帰る前に自分の番号を確認するように、その案内だった。

掲示板の前には、人だかりができていた。

そして、皆、確認を終えると自分は無かったと安心したような様子で帰っていく。


*********************************


以下の者は明日、午前10時より追加試験を行う。

試験開始の30分前までに、本校の南校舎、大講義室に集まること。

持ち物は特になし。

筆記用具なども本校で用意する。


該当者の受験番号配下の通り。

065

107

178

250

251

252

253

337

591

601


*********************************


「これって…どういうことかしら?」

「見事にに並んでるね。」

私達は全員が追加試験の対象者だった。

「やっと終わったと思ったのに…。」

アンヌの落ち込みっぷりが酷かった。


それから、フレッドは翌日、学校を欠席する手続きをしに寮へ戻り、私とアンヌとアルは私の家へ転移魔法で帰った。






「お母様、追加試験を受けることになりました。」

「そうでしょうね。あなた達はそのつもりで準備してきたので大丈夫でしょう。」

「どういうことなのですか?フローレンス様。」

「そのうち分かります。さぁ、今日はもう疲れたでしょうから帰宅して、軽く復習して早めに寝ること。良いですね?」

母はそれ以上のことは教えてくれなかった。

アンヌとアルは、先日私とアンヌの空の精霊との契約によってつながった扉を使って帰って行った。





翌日、午前9時過ぎに試験会場に到着すると、追加試験該当者はほぼ集まっていた。

該当者は10名。

私、アンヌ、アル。

フレッドは、士官学校で仲が良いというルイ――以前フレッドとアルが剣術を習っていた近衛副隊長のご子息だ――と一緒に来ていた。

それから、フレッドの情報で、やはり士官学校に通っているという筋肉隆々の強面の少年(には見えないが16歳らしい)と、神経質そうな少年。

他にはいかにも魔術師らしきローブを着た年上の女性、精霊術師らしき少年と、エルフの血が混じっていそうな――耳に少しだけ特徴のある精霊術師の少女がいた。


試験開始30分前になると、席に着くよう促される。


「今日集まっていただいたのは、あなた方に追加試験を受けてもらうためです。この追加試験は、入学試験において、成績優秀者が多数出た場合のみ行われます。

追加試験では、在校生が受ける学年末試験と同等レベルの問題を受けていただきます。その結果に応じて、クラス分けを行うのですが、一定の条件をクリアしたものが複数いた場合、特別クラスのさらに上の特待クラスが開設され、そちらに振り分けられます。特待クラスになった生徒には、授業を受けるだけでなく、課外実習や、他のクラスの授業の補助等もしてもらうことになります。中には、報酬の出るものもあります。それだけでなく、月に1度、現役の魔術師、精霊術師、官僚からの個別指導や研修生として1年次から学ぶことも可能ですし、特別クラスと同様、複数のクラスの講義を受けることも可能です。

もし、今回特待クラスが開設されたら、20年ぶりの開設となります。何か質問はありますか?」

試験官からの説明を聞いた途端、アンヌが嫌そうな顔でつぶやいた。

「つまり、特待クラスになったら思いっきり雑用をやらされるって事よね。能力のある学生を都合よく使うためのクラスってことね。そんなのごめんだわ…。」

的を射ているだけに、苦笑いするしかなかった。

特に、質問も出なかったので、そのまま待機するよう言われ、試験開始の時間となった。




「これで今度こそ終わりなのよね?」

追加の試験は2時間ほどで終了し、帰宅するように促された。

アンヌはそれを確認すると、大きく伸びをした。

合否の結果と、クラス分けの結果は1ケ月後だが、こうして追加試験を受けたということは、私たちは入学がすでに決定していると言うことなのだろう。

試験当日に追加試験該当者を発表できるのならば発表はもう少し早くてもよさそうなものだ。

「満点の回答を選別するのは簡単にできるらしいよ。それ以外が難しいんだって。」

フレッドが教えてくれた。

フレッドは、昨日の時点で、特待クラスの存在を知ったらしい。

学校に、今日の休みを届ける際、教えてもらったそうだ。

「でも、どう考えても特別待遇の意味がちょっと違うような気がするのよね。」

その点には、みんな同意していた。

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