夏の夜は針の如く、安息は訪れない
夏の夜は、いつも暑さと息苦しさに満ちている。
回り続ける扇風機が運んでくるのは、生ぬるい風だけだった。
小山は目を開けた。
じっとりとした汗が、シャツを肌に張りつかせている。
彼はのろのろと体を起こした。
脇からは、妻の規則正しく重い寝息が聞こえてくる。
見慣れているはずなのに、どこか知らない人のようにも思える寝顔を見つめ、小山はしばらく黙っていた。
自分は、彼女を愛していたのだと思う。
だが、それはいったいいつから変わってしまったのだろう。
毎日、あの経本を抱え込むようになった頃からだろうか。
それとも、あの投資で半生をかけて築いた蓄えを失ってしまってからだろうか。
二人は四十年以上連れ添ってきた。
四十年以上続いた結婚生活の果てに残ったのは、終わりのない言い争いだけだった。
時には、相手がいなくなってしまえばいいとさえ思ったこともある。
まるで腐りきって感覚を失った傷口のように、痛みだけがまだ生きていることを教えてくれる。
それでも二人は離婚せず、今も同じベッドで眠っている。
小山は何気なく、ずり落ちた妻の布団を肩まで掛け直した。
重たい身体を引きずるようにして立ち上がる。
体の奥に刺さった針のような鈍い痛みは、今日も終わる気配がなかった。
リビングへ行き、一人で木製のソファに腰を下ろす。
段ボールや工具、ビニール袋が幾重にも積み重なり、まるで廃墟の城壁のようになっていた。
灯りはつけないまま、小山は薄暗いリビングを静かに見つめる。
木製の椅子の肘掛けを指先で軽く叩き、目を閉じた。
冷たい木の感触が、あの頃、二人でベンチに並んで座っていた時間を思い出させる。
若かった彼女が自分の手を握り、眩しいほどの笑顔を見せた。
あの頃は、愛は永遠に続くものだと信じていた。
明日もまた、太陽はいつも通り昇る。
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