第九話 初めての野営
クランから帰省の許可を貰った俺は帰省に必要な荷物と兄の形見のギターを手に取って、クラン斡旋の寄宿舎を後にした。
乗り合い馬車もあるにはあるのだが、王都と辺境伯領を結ぶ便と、近くの主要都市を結ぶ便くらいしかない。
俺の実家はその対象外だ。その為、長旅になりそうなので、食料品や生活必需品を市場で調達して、辺境伯領を後にした。
「何も束縛されずに外の景色を眺めて歩くと何とも言えない開放感があるな」
思わず口からこぼれた。
目に見えるもの、鳥の鳴き声、木々の匂い全てが色鮮やかに映る。
「それにしても実家に帰るとは言ったものの気が重いな、学校辞めたし」
俺はつぶやいた。
「王都を理由あって追われ、逃げ出すように乗り合い馬車に乗り、辿り着いた先が辺境伯領で、そこから無我夢中の毎日だったからなぁ」
俺は空を見上げた。
「いざ帰るとなるといろいろと説明が必要だよなぁ」
面倒くさくなったので考えるのをやめて、街道沿いを進んだ。
「何処か寝る所を探さなきゃな。金もないし野宿だな」
日が暮れる前に街道沿いを離れて野営する場所を探した。
しばらくすると野営に適した場所を見つけた。木漏れ日のさす森の中で近くに小川も流れている。
「結構いい場所を見つけたな」
自画自賛した。
「今日はここで一泊だな」
その辺に転がっている木の枝で骨組みをつくり、枯れ草で全体を覆う。
「ふうっ、外観は完成だ! 初めてにしては良く出来たな! 次は寝床だ」
針葉樹の葉を地面に敷き詰め、その上に枯れ草を敷く。
「完成だぁ!!」
すごい充実感だった。まだまだ明るいので小川に魚を捕まえに行った。魚の警戒心が薄いのか簡単に捕まえることが出来た。
「今日はご馳走だ!」
近くには東方の商人が持ち込んだという外来の竹が、放置されたのか、勝手に繁殖していた。それを使って竹の串を作り魚に刺した。
枯れ草を下に敷き小枝を組み、その上に大きめな枝を組み上げて、たき火の準備をした。後は火をつけるだけだ。
「ギルドで魔力測定した時、雷の属性が、何故かあったんだよな。試してみるか」
そう呟いて右手を出す。
「確かサンダーボルトとか叫ぶんだったよな」
俺は勢いよく叫んだ。
「サンダーボルト!」
指先からショボい消え入りそうな火花状の何かが光った。
「着火成功だな」
冷静に言葉にするも、正直、期待ハズレだった。
「なんだか虚しいな」
そう呟き、勇ましく燃えるたき火の炎を見つめた。
気を取り直して魚を刺した竹串をたき火のまわりに立てていく。焼き上がりまで時間が掛かりそうだった。
その間に細めの竹を加工して笛をつくった。音は鳴るものの穴の位置が悪かったのか音程が外れていた。
「まぁ、はじめはこんなもんだろう」
自分の心に言い訳をして次の試作品を作ろうと誓った。
焼き上がった魚に手持ちの塩を振りかけて口にする。
「なんじゃコリャー!!」
あまりの美味さに衝撃をうけた。
森の澄んだ空気が魚の焼けた匂いを強調し、その匂いが食欲を刺激する。
ふっくらとしてジューシーな魚の身が舌の上を通過するとコクのある旨味が口いっぱいに広がり全身を駆け抜けた。
「あまりの美味さに全部、食べてしまった。明日の分も残して置くべきだったな」
そんな事をつぶやきながら、寝る為の準備を始める。ギルドで購入した安物の守り石を四方に置いてゆく。
「本当に、こんな物で魔物が来なくなる効果があるんだろうか?」
疑問を口にした。
「とりあえず、たき火も獣よけの為にそのままにしておこう」
たき火に木の枝を放り込み、就寝するために横になると兄から手紙が送られてきた時の夢を見た。
ある日 手紙が届いた。
『戦争が終結しそうだ。 すぐ帰る。 レックス またあの時みたいに 一緒にギターを弾こうな』
と書いてあり 、今にも生きて戻ってくるかのようだった。
手紙を読む手が震えた。
震える 手をそのままに空を仰ぎ見ると目に映る空は涙で歪んだ。
どこにもぶつけられない やるせない気持ちを 形見のギターにぶつけた。
一心不乱にギターをかき鳴らし、我を忘れて無心の感覚になるとレオーネ兄さんと一緒にギターを弾いている 、そんな気がした。
そこで目が覚めた。
起きてまわりを見渡すと霧が立ち込めていた。
足を一歩踏み出すと何か軟らかいものを踏んだ感触がした。
「ケモノの糞か? 守り石の効果なかったのか」
そう思い、恐る恐る下を見ると何やら若い女だった。
「何でこんな所に若い女がいるんだ?」
俺は努めて冷静に振舞った。しかし身体の奥底から沸き上がる下劣な欲情が次第に全身を支配していくのを感じた。
「ゴクリッ!!」
俺は思わず生唾を飲み込んだ。
そして、誰か来ないかシッカリあたりを見回した後、あろう事か、俺は女に覆いかぶさろうとした。
「ク、クソッ!! どうしちまったんだ!! 俺の身体は?」
俺は、必死にもがいた。それでなんとか、その場は冷静さを保つことに成功した。
それでも欲望の魔の手は緩まなかった。




