第三話 自称、魔女のグロア
「あたし貴方の事が好きなの!」
チープな魔女の着ぐるみのグロアがウットリとした表情で俺の側に立った。
ケバケバしいメイクに、度が過ぎる香水の残り香が鼻についた。
「あたしと一緒にここから逃げようよ! あたしをむちゃくちゃにしていいから! お願い!」
上目遣いで俺を見つめた。
「貴方にはセドックさんがいるじゃないですか」
「あんなバカで冴えない粗暴な男のセドックなんて、ホントはゴメンなの。貴方と一緒に居たいの!」
両手を俺の腰にまわし、抱きつこうとして来たので俺は演奏を止めて拒絶した。
すると突然キレだした。
「フン! アンタ、社会のゴミの底辺の分際で、女と付き合った事ないでしょ! そんなんで生きてる価値あるのかしら?」
カマトトぶった表情から、般若の顔に一変すると、平手打ちを俺に喰らわし、その場を去った。
しばらくするとグロアはセドック達を引き連れて歩いて来た。グロアはセドックにしなだれかかり不敵な笑みを浮かべていた。
セドックが口を開く。
「おい! こいつを運べ!」
戦利品のワイルドボアを俺に投げつける。ズシリと重い。セドック達は俺を馬鹿にしたように嘲笑した。
「無能のオマエの仕事は荷物運びだ!」
「ゲヘッ、俺の荷物も頼んますぜぇ、デクノボウ!」
「オラのぶんも頼むでゲス!」
「ワタシのぶんも頼むわ」
そうして奴等の荷物も俺に丸投げされた。これだけの荷物を運ばされると、さすがに精神的につらい。
歩くと眼の前がかすみ、気が遠くなる。それでも息を切らしながら前へ進んだ。
夕暮れ時、ようやく辺境伯領の城門が見える所までたどり着いた。
俺はホッとしてその場に崩れ落ちた。息が切れそうなのを整えていたその時だった。
「お前はここまでだ。ご苦労さん、! 俺達は先に行く。一人でゆっくりそこで休んでろ!」
セドック達は俺を置いて、城門へ向かおうとした。
「どういう事だ!」
「分からないのか? 俺が今まで見て来た中で、お前が最悪のクソ野郎だって事をな!」
セドックは俺の前に来るといきなり俺の顔面に蹴りを喰らわし、胸ぐらをつかむと怒鳴り出した。
「オイ、デクノボウ、お前ろくに支援魔法も使えないクセに、俺の女に色目使っただろう!」
「はあ?」
俺はセドックが何を言いたいのか分からなかった。
「アンタがワタシに色目使ってたって、みんな知ってるのよ!」
グロアはセドックの隣で俺を蔑むように嗤った。
「色目を使った? 俺はそんな事はしていない! 全くのデタラメだ!」
「このウソツキが! お前のせいで俺達のパーティの雰囲気は最悪だ!」
セドックは怒り狂い、掴んだ胸ぐらを離すと殴る蹴るの暴行をエスカレートさせた。
「ギヤハハハッ! 最高のエンターテイメントだな! クズがタコ殴りにされる光景は! ストレスが一気に解消するぜ!」
セドックの腹心のバルサムがご機嫌な気分でのたまった。
怒りが頂点に達したセドックは怒鳴り散らかし、さらにタコ殴りにした。
「惨めね! アンタ自分の立場わかってる?」
セドックの側にいたグロアは勝ち誇ほこったように嗤った。
「ゲヘッ! 生意気なガキにはお仕置きが必要ですぜ! カシラ」
腹心のバルサムが進言した。
「どういったお仕置きだ?」
「グヘヘッ、簡単な事ですぜ! ヤツのエモノを破壊するんでさぁ!」
「そいつは面白いな」
セドックが俺の胸ぐらを掴みニヤリと笑う。
早速、バルサムがギターを奪うと突き出た岩に叩きつけた。
「ヤメロー!」
俺はありったけの力を振り絞ってギターを取り戻そうとした。
「行かせねーよ! テメェのエモノの行く末を見届けるが良い!」
セドックはニヤけながら俺の行く手を阻んだ。
ガゴーン! ギターは大きな音を立てると本体と長い板のネックの二つの部分に割れ、弦は全て切れた。
俺はショックで取り乱した。
「ギャハハッ、ソレだよ! その顔が見たかったんだよ! これでお前は一生底辺のクズで、俺達は底辺から卒業だぁ!!」
バルサムは満足気に笑った。
「フハハハッ! クズに相応しいエモノになったな! あれが無ければ、オマエはタダの役立たずだ!」
セドックは尊大な態度で俺を見下した。
「オマエの居場所はここには無い」
セドックは冷たく言い放ち、その場を後にした。
俺はその場に呆然と立ち尽くした。




