底辺冒険者ワイルドボアを狩る
俺はギターを演奏するが、この世界にギターという概念は存在しない。自分が知る限りにおいてでしかないが。
そんな俺は自分の間違った選択に後悔していた。自由を求めて王都から辺境伯領へやって来たと言えば聞こえはいいが、実態は陰謀に巻き込まれ、都落ちみたいなものだった。
世間のことを何もわかっちゃいない俺は辺境で冒険者をやる事になった。
「おい、新入り!! もたもたするな!!」
パーティのリーダー、セドックが怒鳴った。
「新入りのくせに使えないっすねぇ。セドックのカシラ」
バルサムがセドックの機嫌をとる。
「おい!! ここで休憩だ!」
「またカシラの病気が始まったでゲスな」
同行するメンバーの寡黙な男サミーが言った。
セドックは自称魔法使いのグロアを連れ、森のしげみに消えた。
しばらくするとスッキリとした顔のセドックがあらわれた。
俺はセドックをながめた。
「なにオレの顔ジッと見てんだコラァ!!」
セドックは突然キレだして俺をイキナリ殴って、落ち着くと話を始めた。
「この依頼が上手く行ったら底辺から卒業だ。晴れてクランの仲間入りだ」
ご機嫌なセドックが話すと
「今まで三大クランのうち、二つは不採用でゲシたが、ようやくクランの下請けから抜け出せるんでゲスね。」
三大クランの何処かに所属しないとゴミの様に扱われるこの世界で、辛酸を舐めてきたサミーがしみじみ口にした。
「おうよ! クランのお偉方とは話がついてる」
「するってぇと金にならないちっぽけな仕事をせずに済むんですな」
「そういうこった。これからは金にこまるこたぁねえな!」
「ケヘッ! 博打で借金がたまって首が回んねぇんですよ」
下卑た笑いを、浮かべるバルサムにセドックが「ガハハッ」と高笑いをした。
「気にするな! 俺もグロアをおとすためにかなりの金を使い込んだからな!」
俺の手は怒りで震えた。
セドックの話によればグロアは昔、男にいれあげて多額の借金をして転落の人生を歩んでいたのだと言う。
その弱みを利用して猛アタックを仕掛けて一本釣りしたと武勇伝のごとく自慢していた。俺の冒険者の報酬をつぎ込みまくってだ。
昼前頃には目的地の辺境伯領の外れにある森の中に着いて、休憩する事となった。
「おい! 新入り! 俺の荷物こっちに持ってこい」
「すみません、ちょっと待ってください」
「もたもたすんなゴラァ!」
立ちあがったセドックは俺に蹴りを入れた。
「カシラァ、こういうナメた奴はシッカリしつけなきゃダメですぜぇ!」
腹心のバルサムが提言をした。
「そうだな」
セドックは頷くと調子に乗ってさらに暴行のギアを上げた。
「ギャハハハッ! 弱い奴がボコボコにされるのはいつみてもおもしれーな!」
バルサムは高笑いをした。
「ふぅ、スッキリしたぜ!」
俺をサンドバッグにし、タコ殴りにしたセドックは落ち着きを取り戻した。
「よし! 狩りの時間だ!」
セドックが宣言すると皆立ち上がった。
楽器の音色を使って支援系の魔法を行使する俺の相棒は、兄の形見のギターだ。
ガサッという大きな物音とともに、一気に緊張がはしる。狩りが始まろうとしていた。
森の奥深く、陽の光が 細く 差し込む 薄暗い場所に、 セドック、バルサム、サミーの三人は身を潜めていた。
目の前には 獣道を踏みしめながら 闊歩する ワイルドボア。イノシシに似ていて 毛は硬く 筋肉は 岩のように 隆々としている。
「油断すれば一瞬で 突進され、命を落としかねない。バルサム ! 盾を構えろ!!」
「サミー 脇から 回り込め!」
セドックが声をかける。
バルサムは分厚い 盾を構え 一歩前に出る 。ワイルドボアはそれに気づき 鼻息を荒くして地面を引っ掻いた。
次の瞬間、 轟音とともに 突進 が始まる。それを合図に後方から強化魔法を掛ける為、ギターの力強い音色を響かせる。
ボアの突進に 衝撃を受けながらも バルサムは踏みとどまる。 彼の肉体と強靭な盾がそれを見事に受け止めた。
「今だ!」 セドックの声が響く。
サミーは 俊敏に動きワイルドボアの背後から斧を振り上げ 勢いよく振り下ろすと分厚い皮膚を切り裂き、 ワイルドボアが悲鳴を上げた。
怒り狂ったワイルドボアは暴れバルサムを押しのけようとする。
その隙を逃さず セドックが前へ出ると正確に急所を狙い、鋭く突き刺した。
ボアは一度跳ね上がり 、崩れるように倒れた。静寂が戻り3人は息をついた。
「ふう…… 良い狩りだったな」
セドックが剣を振って血を払いながら言う。
「ワイルドボア、 厄介な相手でしたな!」
バルサムは盾 を地面につき、汗を拭った 。
「い、意外とはやく片付きましたでゲスね!」
サミーは抜けた歯の隙間から笑みをこぼした。
そこに 先ほどまで、完全に気配を消していた自称 魔法使いの女グロアが、その存在をあらわにした。
気だるい風が、むせ返る女の香りを三人の男達に運ぶ。その香りは、ボアを倒した興奮で気分が高揚していた男達をさらに勢いづかせた。
「カシラ、相変わらずグロアの姉御は、フェロモンむんむんのワガママボディですな!」
そう言うとバルサムは、ニヤけながらイヤらしい手つきをしたり、虚空に腰を何度もふったりした。
「うむ!」
バルサムの進言にセドックは機嫌よく頷いた。その横をグロアが通り過ぎようとした時、セドックは声をかけた。
「グロアやったぞ!」
グロアはそんな言葉を受け流し視線をギターを持つ男に向けた。グロアはためらいもなく男の下へ歩み寄り熱い眼差しをむけた。
セドックは言葉を失い、沈黙の中に立ち尽くした。
「あのヤロウ! 許せねぇ! コネで俺達のパーティに加入した分際で!」
プライドをイタく傷つけられたセドックは復讐の炎を宿していた。
「カシラァ、良いんですかい! そのまま放っといて! 姉御、アイツのものになっちまいますぜ!」
腹心のバルサムはセドックを焚き付けた。
「あのナルシストヤロウ! 支援魔法が使えると言うから頼まれて仕方なく雇ってやったが、もう限界だ!」
「おっしゃる通りですぜ! カシラ! ナメたアイツを締めてやりましょう!」
バルサムはニヤリとしながらさらなる燃料を投下した。




