第一話 底辺冒険者レックス
宜しくお願いします。
俺はギターを演奏するが、この世界にギターという概念は存在しない。自分が知る限りにおいてでしかないが。
そんな俺は自分の間違った選択に後悔していた。自由を求めて王都から辺境伯領へやって来たと言えば聞こえはいいが、実態は陰謀に巻き込まれ、都落ちみたいなものだった。
世間のことを何もわかっちゃいない俺は、知らぬ間に底辺冒険者へと転落した。
そして俺は『いちごみるく』というふざけた名前を冠した最底辺パーティの頭の悪そうなリーダーのセドックにこき使われる事になった。
いちごみるくという名はパーティメンバーのセドックの女、グロアが名付けたふざけた名だ。
ちなみにセドックは人の名前を覚えるのが苦手なのか俺の事は新入りとしか呼ばない。
「おい、新入り!! もたもたするな!!」
いちごみるくのリーダー、セドックが怒鳴った。こいつは剣聖を自称している。
「新入りのくせに使えないっすねぇ。セドックのカシラ」
盾の賢者を自称する腰ぎんちゃくのバルサムがセドックの機嫌をとる。
「おい!! ここで休憩だ!!」
セドックがいきなり言い出した。
「またカシラの病気が始まったでゲスな」
同行するメンバーの寡黙な男サミーが言った。サミーは漆黒の斧使いを自称する。
セドックは自称魔法使いのグロアを連れ、森のしげみに消えた。そして木々が小刻みに揺れ動く音がした。
しばらくするとスッキリとした顔のセドックがあらわれた。
そのあとをスマした顔のグロアが続いた。
俺はその様子を何と無くながめていた。
「おいコラ!! テメェ! なにオレの顔ジッと見てんだコラァ!!」
セドックは突然キレだし、俺に殴りかかってきた。そして殴るだけ殴るとスッキリしたのか機嫌が良くなった。
「この依頼が上手く行ったら底辺から卒業だ。晴れてクランの仲間入りだ」
ご機嫌なセドックが話すと
「今まで三大クランのうち、二つは不採用でゲシたが、ようやくクランの下請けから抜け出せるんでゲスね。」
三大クランの何処かに所属しないとゴミの様に扱われるこの世界で、辛酸を舐めてきたサミーがしみじみ口にした。
「おうよ! クランのお偉方とは話がついてる」
「するってぇと金にならないちっぽけな仕事をせずに済むんですな」
「そういうこった。これからは金にこまるこたぁねえな!」
「ケヘッ! 博打で借金がたまって首が回んねぇんですよ」
下卑た笑いを、浮かべるバルサムにセドックが「ガハハッ」と高笑いをした。
「気にするな! 俺もグロアをおとすためにかなりの金を使い込んだからな!」
俺は怒りで手が震えた。コイツのせいで無駄に働かされて、金ももらえない。それどころか、食事もコイツらの残飯ばかりだ。
俺に支払われるはずの報酬はグロアに貢いで消えたのだ。
セドックの話によればグロアは昔、男にいれあげて多額の借金をして転落の人生を歩んでいたのだと言う。
その弱みを利用して猛アタックを仕掛けて一本釣りしたと武勇伝のごとく自慢していた。俺の冒険者の報酬をつぎ込みまくってだ。
そうこうしているうちに昼前頃には目的地の辺境伯領の外れにある森の中に着いて、休憩する事となった。
「おい! 新入り! 俺の荷物こっちに持ってこい」
「すみません、準備するんでちょっと待ってください」
「ふざけんじゃねえ! もたもたすんなゴラァ!」
立ちあがったセドックは俺に蹴りを入れた。
「カシラァ、こういうナメた奴はシッカリしつけなきゃダメですぜぇ!」
腹心である自称盾の賢者のバルサムがそう提言をした。
「そうだな」
セドックは頷くと調子に乗ってさらに暴行のギアを上げた。
「ギャハハハッ! 弱い奴がボコボコにされるのはいつみてもおもしれーな!」
バルサムは高笑いをした。
何がそんなにおもしれーんだよバルサム! ブルドッグみたいな顔しやがって!
俺は心の中でそう訴えたもののヤツの高笑いは続いた。
「ふぅ、スッキリしたぜ。次からはちゃんと言われた通りにやれ!」
俺をサンドバッグにし、タコ殴りにしたセドックは落ち着きを取り戻した。
支援系の新人として加入した俺は回復魔法にも適性がある。セドック程度のヤツに殴られた傷など自己修復出来るから大したことはなかった。
「よし! 狩りの時間だ!」
セドックが宣言すると皆立ち上がった。各々が自分のエモノを持って森の中へ入って行く。
楽器の音色を使って支援系の魔法を行使する俺の相棒は、兄の形見のギターだ。
そんな中、それぞれ配置につく。セドック、バルサム、サミーは前衛だ。俺は後方から支援する。
今迄、魔法を使った形跡はないが、霊が視えると自称するグロアはやや後方に下がり、木のカゲに隠れ気配を完全に消した。
ガサッという大きな物音とともに、一気に緊張がはしる。狩りが始まった!!




