【初めてのライブ】第9話:『wha yo it's Okashi (和洋いとおかし)』
『wha yo it's Okashi (和洋いとおかし)』
https://youtu.be/NnTkxwN9fOI
※こちらで視聴可能です
『また春が来たから』の切なくも希望に満ちた歌声がライブハウスに響き渡り、観客は静かに拍手を送っていた。温かい感動に包まれた会場に、ミオの声が明るく響く。
「みなさーん! ありがとうございます! いよいよ、次の曲が今日のライブ、最後の曲になります!」
ミオの言葉に、客席から惜しむような声が上がる。
「この曲はですね、練習中に、もう本当にくだらないことで喧嘩になりそうだった時、ユメカがある一言を言ったのがきっかけでできた曲なんです!」
ミオはそう言って、ユメカに視線を送った。
ユメカは、ピンクの髪を揺らしながら、おどけたように笑う。
「そうなんですー! 私たち、普段はとっても仲良しなんですけど、この時ばかりは真剣でした!」
ルナが横で「バトルだったよねー!」と笑い、葵はクスリと口元を緩めている。凛も楽しそうに頷いていた。
「まあ、聞いていただければ何が真剣だったのか、すぐわかると思います! 東京たんこぶ、今日最後の曲! 『wha yo it's Okashi (和洋いとおかし)』!」
ミオの合図で、軽快でコミカルなイントロが始まる。ファンク調のベースラインがノリよく始まり、それに続く葵のギターは、これまでの曲とは打って変わって遊び心に満ちている。ルナのドラムも跳ねるようなリズムを刻み、凛のキーボードがカラフルな音を添えた。そして、ミオの声が、おどけたように歌い始めた。
『wha yo it's Okashi (和洋いとおかし)』
https://youtu.be/NnTkxwN9fOI
※こちらで視聴可能です
(ライブの演奏中、メンバーそれぞれの脳裏には、この曲が生まれた時の賑やかなスタジオの光景が蘇っていた――)
ある日の練習後、みんなで休憩していた時のこと。
「ねぇ今日、おやつなに食べる〜?」
ユメカが、お腹をさすりながら、幸せそうに問いかけた。
ミオが「あー、お腹空いた! 私、コンビニの新作のいちご大福食べたいな!」と口にする。
すると、その言葉に、ルナがすかさず食いついた。
「は? ミオ、ありえないでしょ。おやつはケーキ一択でしょ、ケーキ! てか和菓子って地味じゃん? 見た目も味も!」
ルナは、普段のおっとりした口調とは異なり、洋菓子への愛が強すぎて、少し語気が荒くなっていた。
「えー!? ルナちゃんひどいよー! 和菓子って、素朴な優しさがあるんだよ! 四季折々の美しさも表現されてて、奥ゆかしいんだから!」
ユメカが、反論するように身を乗り出す。
和菓子派のユメカとミオ、洋菓子派のルナ。そして、静かに二人のバトルを見守る葵と凛。
「Yo yo yo!あんこで勝負、もちもちPower! 四季折々の味覚のTower!」
ミオは、まるでラップバトルのように言葉をたたみかける。
「団子、羊羹、練り切り、抹茶! 歴史が証明、日本のお菓子じゃ!」
ユメカも負けじと、身振り手振りを交えながら追従する。
「静けさこそ甘味の極み! 口でとろける…これが"粋"!」
ミオとユメカが、和菓子の魅力を力説する。
「ちょっと待ってよ! いちごショートにホイップスマイル! バターとクリームが奏でるStyle! 和の心?悪くないけど、映えるのは断然、スイーツパラダイス!」
ルナは、興奮して立ち上がり、身振り手振りで洋菓子の魅力を語りだした。
「カヌレにティラミス、チーズケーキ! 甘さと苦みのラブリーテクニック! フランス菓子? うちらの仲間! 味も見た目も洋が勝ちだな!」
冗談めかしてラップっぽく話してるけど、結構本気だ。
もう収集がつかない。あわや喧嘩寸前。
その様子を冷静に見ていた葵が、ふと小さく口を開いた。
「…これ、曲にしたらどう?」
葵の意外な提案に、三人がピタッと動きを止める。
「え? 曲に?」
ミオが目を丸くする。
「そう。ラップとかで、このバトルを表現したら、面白いんじゃない?」
ルナは、葵の提案にニヤリと笑った。
「ラップ!? やったるか! 面白そうじゃん!」
ルナの「ドラム魔神」とは違う、新たなノリが顔を出した。
そこから、この奇妙な「おやつバトル」は、バンドの新しい曲として形作られることになった。
ミオが中心となって作曲を進め、ユメカとルナの言葉のバトルが歌詞のベースになった。
「ほら見て、あんこの深みエモすぎでしょ? 映えじゃないの、“沁みる”ってのが和でしょ?」
ユメカが自信満々に言えば、
「じゃあこっちはミルフィーユでいこうか! パリパリ食感、バターの魔法さ!」
ルナが負けじと畳み掛ける。
葵は、クールな表情を保ちながらも、二人の言葉の応酬を聴き、そのエネルギーを音に変えていく。コミカルでありながらも、ロックバンドらしい勢いを失わないアレンジ。
凛は、そんな賑やかな雰囲気を、明るく楽しいキーボードの音色で包み込み、時には和風の音色、時には洋風の音色を織り交ぜて、曲に彩りを加えた。
最終的に、みんなで話し合い、たどり着いた結論が、曲の最後のフレーズだった。
「でもさ…和も洋も両方うめえええええええええ!!!、最強〜♪」
そう、結局のところ、美味しいものは美味しいのだ。バトルの末に辿り着いた、究極の「和解」だった。
(回想終わり。ライブのステージへと戻る――)
『wha yo it's Okashi (和洋いとおかし)』の演奏は、ライブハウスを、まるで楽しいパーティー会場のように変えていた。
ミオとユメカ、ルナが代わる代わるラップパートを歌い、時にはコミカルな振り付けも交える。観客は、その予想外の展開と、ユーモラスな歌詞に大爆笑。手拍子をしながら、体を揺らしている。
葵は、時折、二人のやり取りを見て小さく笑みを浮かべながら、クールにギターを弾きこなす。凛も、楽しそうに鍵盤を叩き、曲の陽気さを引き立てていた。
そして、曲のクライマックス。
「和菓子は心、洋菓子は派手さ!」
「比べてみればいいじゃん!」
と、ミオとルナが叫び合った後、
「Yo!Yo!和でも洋、甘けりゃ正義! スプーンも箸も、みんなでLet's Eat!」
と、ミオが歌い上げ、最後に全員で声を合わせた。
「でもさ…和も洋も両方うめえええええええええ!!!、最強〜♪」
ライブハウスは、割れんばかりの拍手と、大きな笑い声に包まれた。
五人のメンバーは、汗だくになりながらも、最高の笑顔で観客に深々と頭を下げた。
「ありがとうございましたー! 東京たんこぶでしたー!」
ミオの叫びに、会場の熱狂はさらに高まる。
初めてのライブは、バンド紹介曲で始まり、甘酸っぱい恋の歌、自分らしさを叫ぶロック、そしてユーモラスな「おやつバトル」まで、様々な表情を見せてくれた。
『転んでも立ち上がる』。そのバンドのコンセプトは、それぞれの曲に、それぞれのメンバーの個性を通して、確かに届けられた。
ステージを降りる五人の背中には、小さなライブハウスの光が輝いていた。
彼女たちの物語は、まだ始まったばかりだ。
『wha yo it's Okashi (和洋いとおかし)』
https://youtu.be/NnTkxwN9fOI
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