【日常の風景】第10話:『今ここにいる私』
『今ここにいる私』
https://youtu.be/_MLwfcBmJOk
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初めてのライブを成功させ、興奮と達成感に包まれたあの日から、数週間が経った。
ライブハウスの熱狂は、今はメンバーたちの心に温かい余韻として残っている。普段の練習スタジオに戻った「東京たんこぶ」の五人は、あの日の成功を噛み締めながら、和やかな雰囲気で次の曲のアイデアを出し合っていた。
「いやー、あの日の『東京たんこぶ (Tokyo Bump)』の盛り上がり、最高だったよね! また早くライブしたいなー!」
ミオが腕を大きく振り回しながら、楽しそうに話す。
「うんうん! 『転んだら…笑え!!』の時、みんなが一緒に手拍子してくれて、すっごく嬉しかったんだ!」
ユメカもピンクの髪を揺らして、満面の笑顔で頷く。
ルナはスティックをクルクル回しながら、「ま、私らの演奏が良かったからね」といつもの調子で茶化しつつも、その目には確かな満足感が宿っていた。葵は静かに二人の話を聞きながら、ギターの弦を調整している。凛は、みんなの会話を聞きながら、穏やかに微笑んでいた。
そんな和やかな雰囲気の中、ユメカが突然、もじもじと身をよじらせながら、口を開いた。
「あのね、私、また歌詞、書いてきたんだけど…聞いてくれる?」
その言葉に、メンバー全員の視線がユメカに集中した。ユメカが歌詞を書いてくるのは、『東京たんこぶ (Tokyo Bump)』と『転んだら…笑え!!』以来、三度目だ。
「おっ! ユメカ、また書いたんだ! どんな感じ? また転んだ話?」
ミオが興味津々で尋ねる。
「えっとね…今回は、その…」
ユメカは、頬を少し赤らめながら、クシャクシャにした紙切れをテーブルに置いた。そして、普段の明るい声とは違う、どこか少しだけ切ない、しかし真剣な表情で、読み始めた。
「私のこと見てる?
君の目線はスマホの中
さっきのカフェ、楽しかったって
言いたいことが溜まってるのに」
ルナが「おや?」という表情で、ユメカの顔を見つめた。
「ハートの通知もいいけど
私のハートにも気づいてよ
わがままなんて言わないけど
少しだけこっち向いてほしいの」
ミオは、その歌詞に、すぐさま共感の表情を見せる。
「ねえ、こっち見て? ちゃんと見て?
私の笑顔、見逃してるよ!
小さなことでも喜びたいの
君とだから、もっと近づきたい」
ユメカの声が、少し震えているように聞こえた。その感情豊かな言葉に、メンバーは引き込まれていく。
「ねえ、こっち来て! 聞いていて!
画面よりも私をスクロールして
ほんのちょっとの愛でいいの
私、今ここにいるよ」
読み進めるユメカの表情は、どんどん真剣になっていく。普段のおっとりした天然MCのユメカからは想像できない、繊細で、しかし切実な想いがそこにはあった。
「私の話、聞いてる?
うん、って言うけど目が泳いでる
今日の服も、髪も、がんばったのに
誰にも気づかれないまま夜」
ミオは思わず「あぁ…」と声を漏らした。この情景が目に浮かぶようだ。
「メッセージじゃ伝わらない
声で、顔で、届けたいんだ
わかってるよ、忙しいの
でもね、好きってそういうことでしょ?」
凛は、ユメカのその純粋な感情に、そっと心を寄せていた。葵は、静かに歌詞を聞きながら、その奥に潜むユメカの心情を読み取ろうとしている。
「ねえ、こっち見て? ちゃんと見て?
私の不安、気づいてほしい
つまらない話でも笑ってほしい
君となら全部宝物になる」
そして、最後のフレーズ。
「好きって、たぶん面倒くさいね
でもそれが、愛しいんだって思うよ
ただそばにいてくれるだけで
世界はちょっと、やさしくなるの
だから今だけ 見ててほしい
一番大事な『君のとなり』で
もう一度、目と目が合ったら
それだけで、明日も笑えるよ」
ユメカが読み終えると、スタジオには静寂が訪れた。先ほどの賑やかさとは打って変わって、誰もがユメカの歌詞の持つ力に心を奪われていた。
最初に沈黙を破ったのは、ルナだった。
「え、ユメカ…これ、恋の歌じゃん!?」
「しかも、なんか、リアル…」
ミオも、興奮したようにユメカの顔を覗き込んだ。
「もしかして、ユメカ、彼氏できたの!?」
ミオが直球で尋ねると、ユメカは顔を真っ赤にして、大きく首を横に振った。
「いやー! 友達の話だよ! 友達がね、なんか、そういう状況でね、私、聞いててなんか切なくなっちゃって、歌詞にしてみたの!」
ユメカは必死に弁明し、さらに照れて顔を伏せた。
「そっかー、友達の話かー」
ミオはそう言って、納得したように頷いた。ルナも「ふーん」と意味ありげに笑っている。葵は、何も言わず、ただ静かにユメカを見つめていた。凛は、ユメカが照れてごまかしているのがわかっているのか、優しい眼差しでユメカを見守っている。
(ユメカの昔の話かな?)
誰もが心の中で、そう思った。この純粋で、少し不器用な恋心は、きっとユメカ自身の経験から生まれたものだろう、と。
「でも、これ、すごくいいよ、ユメカ! なんか、聴いてるこっちも、キュンとしちゃう!」
ミオが興奮気味に歌詞を握りしめた。
「ミオちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな!」
ユメカは顔を上げた。
「『こっち見て?ちゃんと見て?』ってところ、めちゃくちゃ歌いがいありそう!」
ミオはもう、どうメロディをつけるか、頭の中で考え始めている。
ルナも、「この曲、ドラムも繊細に叩かないとね。新しい挑戦だ」と、真剣な表情になった。
また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加された。
ユメカの純粋な恋心が込められたこの曲が、一体どんなメロディを纏い、どんな感情を観客に届けてくれるのか。
メンバー全員の期待が、静かに、しかし熱く高まっていた。
『今ここにいる私』
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