【二年の情景】第25話:『私、結構優等生』
『私、結構優等生』
https://youtu.be/M--n2YO91xY
※こちらで視聴可能です
期末テストが刻一刻と近づく、ある日の放課後。「東京たんこぶ」のメンバーたちは、練習スタジオに参考書やノートを持ち込み、即席の勉強会を開いていた。しかし、その雰囲気は三者三様だ。
「あーもう!この数式、意味わかんない!作ったやつ誰だよ!」
ミオが頭をかきむしりながら叫ぶ。
「こっちの古文もだよ。『いとをかし』って言われても、何がどう『をかし』なのか伝わってこないし」
ルナは机に突っ伏してやる気ゼロだ。
「そうだそうだ、お菓子食わせろー!」とユメカが叫ぶ。
「その『おかし』じゃない!」と突っ込む二人。
「葵ちゃん、ここ教えてー」
ユメカは、もはや自力での解読を諦め、隣で静かに問題を解いている葵に助けを求めている。葵は黙ってユメカのノートを覗き込み、指で一つの公式を指し示した。
そんなカオスな光景を、キーボードの凛はにこやかに見守っていた。彼女のノートは、色分けされたペンで美しくまとめられており、その整然とした様子は、まるで芸術作品のようだ。
「うぅ…もうダメだ…」
ついにギブアップしたユメカが、凛に泣きついた。
「凛先生ー!どうかこの迷える子羊に、勉強のコツを教えてくださいー!」
その大げさな懇願に、凛はくすくすと笑いながら答えた。
「ふふ、先生だなんて。そうですねぇ、勉強のコツですか。まずは、ノートをきっちりまとめる事ですかね」
凛は自分のノートを広げて見せた。その完璧なノートに、ミオとルナも「うわー…」と感嘆の声を上げる。
「黒板の数式って、まるで魔法みたいじゃないですか?わからなかったところが、ある瞬間にパッとひらめいて、解けた瞬間のあの快感。ねえ、それって最高じゃないですか?」
凛は、本当に楽しそうに、目をキラキラさせながら語る。
「いや、最高って言われても…」
ミオが困惑したように言うと、凛はさらに続けた。
「私、結構優等生なんですよ。勉強嫌いって言われる意味が、ちょっとわからないくらい」
「「「知ってます!!」」」
ミオ、ルナ、ユメカの声がきれいにハモった。
「ノートをまとめてると、テンションが爆上がりしませんか?塾も図書館も、私にとってはパラダイスみたいなものですし」
「パラダイス…」
ルナは、信じられないものを見るような目で凛を見つめている。
「問題集なんて、まるで恋人みたいなものですよ。0点から100点にするロジックを組み立てていくの、それこそが青春の快感だと思うんです!」
凛の熱弁は止まらない。普段の穏やかな彼女からは想像もつかない、勉強への熱い情熱が溢れ出ていた。
「『勉強ばっかして楽しいの?』ってよく聞かれますけど、答えはもちろんYES!です。知らなかったことがわかるって、自分の未来がちょっと広がる気がしませんか?」
「うーん、言われてみれば、そうかも…?」
ユメカが少しだけ納得したように頷く。
「自習時間なんて、私にとっては至福のひとときですし、正解の先にある物語を知りたくて、眠れない夜もあるくらいです」
「ガチ勢じゃん…」
ミオが呆然とつぶやく。
「でもね、ちょっとだけ不器用かもしれないです。間違ったり、笑われたりすることもありますけど、努力って、かっこよくないですか?」
凛は、そこで言葉を切り、メンバーの顔を一人ずつ見渡した。
「誰かの天才じゃなくていいんです。自分だけのペースで走れば。答えよりも、考えることが、わたしを強くしてくれるって信じてますから」
凛の、純粋で、どこまでも真っ直ぐな言葉。それは、いつも彼女がバンドの音を、メンバーの心を、優しく支えてくれている理由そのものだった。
「テストだって、勝負だって好きです。鉛筆が走るリズムのなかで、わたしらしく輝いていきたいんです」
そして、凛は最高の笑顔で締めくくった。
「でも、一番好きなのは『わかること』。今日も明日も学び続けたい。だってそれが、私のヒーロータイムですから!」
凛の熱い語りを聞き終えたスタジオは、一瞬の静寂に包まれた。そして、最初に口を開いたのは葵だった。
「……ヒーロー」
その一言で、ミオ、ルナ、ユメカも我に返った。
「凛…あんた、すげえよ…。なんか、勉強したくなってきたかも…」
ミオが、尊敬の眼差しで凛を見つめる。
「うんうん!凛先生、ありがとう!私もノート、綺麗にまとめてみる!」
ユメカは、すっかりやる気を取り戻していた。
その日の勉強会は、凛先生の熱血指導のもと、いつもより少しだけ、実りあるものになったという。
後日、この凛の熱弁にいたく感動したミオが、「これは曲にするしかない!」と騒ぎ出し、結局、『私、結構優等生』というタイトルの新曲が「東京たんこぶ」のレパートリーに追加されたのであった。それは、凛の知的でキュートな魅力と、努力することのカッコよさが詰まった、最高のポップチューンになった。
『私、結構優等生』
https://youtu.be/M--n2YO91xY
※こちらで視聴可能です




