【日常の風景】第15話:『思春期のバラード』
思春期のバラード
https://youtu.be/XaXmg3Ta8sI
※こちらで視聴可能です
「東京たんこぶ」のメンバーたちは、増えていく新曲の数々に喜びと手応えを感じていた。
今日もいつもの練習スタジオに集まり、次のライブに向けて、また新しい音を生み出そうと話し合っている。
「いやー、私たちの曲も凄い増えてきたね~!みんな才能ありすぎ!うっしっし!」
ミオが、どこかおじさん臭い笑い方で、腕を組みながら満足げに言った。その顔には、自信と誇りが満ち溢れている。
「おっさんみたいな笑い方やめてよ、ミオ」
ルナが、スティックをクルクル回しながら、いつもの調子でツッコミを入れる。ユメカも「あはは、ミオちゃん、変なのー!」と笑い、凛は優しく微笑んでいた。葵は、そんな賑やかな様子を静かに見守っている。
「で、だ! 次の曲は誰か、歌詞書きたい人いるー?」
ミオが、改めてメンバー全員に問いかけた。
すると、いつもはあまり自分から前に出ることはない葵が、小さく、しかし確かな声で言った。
「あ、私…ちょっと、書きたい事がある」
ミオとユメカ、ルナは、一斉に葵の方を向いた。
「え!? 葵が!?」
ミオが目を丸くする。
「なになに? 葵ちゃん、珍しいー!」
ユメカも期待に満ちた表情で、葵の顔を覗き込んだ。
葵は、少し間を置いて、深く息を吸い込んだ。普段、感情をあまり表に出さない葵が、自分の内面を語ろうとしている。その真剣な空気に、スタジオの賑やかさは一瞬にして静まった。
「あのね…もう昔の話、中学の頃なんだけど…親と、ちょっとギクシャクしちゃった事があってさ…」
葵の口から出た意外な言葉に、メンバー全員が真剣な表情で耳を傾けた。葵は、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始める。
「親って子供の事、いつも心配なんだよね。それで私の方もムキになったりしてさ。でも本当は寄り添ってほしかっただけ…」
葵は、時折視線を落とし、言葉を詰まらせながら、過去の自分と向き合うように話した。その姿は、いつもクールな葵からは想像できないほど、繊細で、傷つきやすい少女の面影を宿していた。
「…その時の気持ちを、歌詞にしてみたんだ」
そう言って、葵はカバンから一冊のノートを取り出し、開いたページをミオに差し出した。
ミオは、じっと葵の顔を見つめ、静かにノートを受け取った。そして、ゆっくりと、その歌詞を読み始めた。
「怒鳴られた理由なんて
いつもちゃんと覚えてた
ただ、言い返す言葉だけ
なかなか見つからなかっただけ」
ミオの読み上げる声が、スタジオに静かに響く。ユメカは、葵の言葉に、思わず胸を押さえた。ルナも、普段の明るい表情から一転、真剣な眼差しで歌詞を追っている。
「『またかよ』って言われた瞬間
胸のどこかがひび割れた
悪い子に見えたんだろうな
ほんとは ただ、振り向いてほしかっただけ」
ミオは、歌い上げるような声で、葵の感情を読み取ろうとする。その言葉の一つ一つが、ミオ自身の心にも、深く突き刺さる。
「強がりって便利だよね
笑ってれば傷も隠せるし
でも 心の奥ではずっと
誰かの優しさを待ってた」
「叱られたって 愛されたかった
怒りの裏に 本音を隠してた
わかってほしいと叫ぶたび
遠ざかっていっただけ」
読み進めるミオの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。葵の静かな内面に、こんなにも深く、そして痛いほどの感情が秘められていたのかと、ミオは改めて葵という人間の深さに触れた気がした。
「黙って耐えた夜もあった
怒鳴り声より、沈黙が怖くて
どうしてこんなに
泣きたいんだろう」
「教室の隅 落書きの影
誰にも読まれない言葉があった
『だれかへ』じゃなく『じぶんへ』書いた
それが唯一の味方だった」
ユメカは、そっと葵の隣に座り、何も言わずにその手を握った。ルナは、珍しくスティックを動かすことなく、ただじっと葵を見つめている。凛は、優しい眼差しで、葵の言葉を受け止めていた。
「言葉にできない気持ちを
音にするしかなかったから
いま、歌ってる
私の声で」
ミオは、最後のフレーズを読み終えると、深々と息を吐いた。そして、ノートをそっと閉じて、葵を見つめた。
「葵…これ…すごいよ。私、なんて言ったらいいか…なんか、胸が締め付けられた…」
ミオの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「葵ちゃん…私も、わかるよぉ~、葵ちゃんの気持ち…」
ユメカも、目に涙をためながら、葵の手をぎゅっと握りしめた。
「…まじかよ、葵。お前、すごいな…」
ルナは、普段の調子を崩し、珍しく言葉に詰まっていた。その表情は、友への深い共感と、尊敬に満ちていた。
凛は、優しく、しかし確かな声で言った。
「葵さん、この歌詞、本当に美しいです。そして、とても力強い。きっと、同じような気持ちを抱えている人に、響くと思います」
葵は、メンバーたちの温かい反応に、少しだけ目元を緩ませた。自分の心の奥底に秘めていた感情を、初めて言葉にして見せた。それを、彼女たちは、こんなにも温かく受け止めてくれたのだ。
「葵…これ、私が作曲させて。葵のこの気持ちを、最高のメロディにして、みんなに届けたい」
ミオが、涙を拭いながら、力強く宣言した。
葵は、静かに頷いた。言葉にできない想いを、音に変えて。彼女の音楽は、また一つ、新たな深みと彩りを手に入れた。
こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されたのであった。この『思春期のバラード』が、どんなメロディを纏い、どんな感情を観客に届けてくれるのか。メンバー全員の期待が、静かに、しかし熱く高まっていた。
思春期のバラード
https://youtu.be/XaXmg3Ta8sI
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