表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/39

【日常の風景】第15話:『思春期のバラード』 

思春期のバラード

https://youtu.be/XaXmg3Ta8sI

※こちらで視聴可能です

「東京たんこぶ」のメンバーたちは、増えていく新曲の数々に喜びと手応えを感じていた。


今日もいつもの練習スタジオに集まり、次のライブに向けて、また新しい音を生み出そうと話し合っている。

「いやー、私たちの曲も凄い増えてきたね~!みんな才能ありすぎ!うっしっし!」

ミオが、どこかおじさん臭い笑い方で、腕を組みながら満足げに言った。その顔には、自信と誇りが満ち溢れている。


「おっさんみたいな笑い方やめてよ、ミオ」

ルナが、スティックをクルクル回しながら、いつもの調子でツッコミを入れる。ユメカも「あはは、ミオちゃん、変なのー!」と笑い、りんは優しく微笑んでいた。あおいは、そんな賑やかな様子を静かに見守っている。


「で、だ! 次の曲は誰か、歌詞書きたい人いるー?」

ミオが、改めてメンバー全員に問いかけた。

すると、いつもはあまり自分から前に出ることはない葵が、小さく、しかし確かな声で言った。

「あ、私…ちょっと、書きたい事がある」


ミオとユメカ、ルナは、一斉に葵の方を向いた。

「え!? 葵が!?」

ミオが目を丸くする。

「なになに? 葵ちゃん、珍しいー!」

ユメカも期待に満ちた表情で、葵の顔を覗き込んだ。


葵は、少し間を置いて、深く息を吸い込んだ。普段、感情をあまり表に出さない葵が、自分の内面を語ろうとしている。その真剣な空気に、スタジオの賑やかさは一瞬にして静まった。

「あのね…もう昔の話、中学の頃なんだけど…親と、ちょっとギクシャクしちゃった事があってさ…」

葵の口から出た意外な言葉に、メンバー全員が真剣な表情で耳を傾けた。葵は、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始める。


「親って子供の事、いつも心配なんだよね。それで私の方もムキになったりしてさ。でも本当は寄り添ってほしかっただけ…」

葵は、時折視線を落とし、言葉を詰まらせながら、過去の自分と向き合うように話した。その姿は、いつもクールな葵からは想像できないほど、繊細で、傷つきやすい少女の面影を宿していた。


「…その時の気持ちを、歌詞にしてみたんだ」

そう言って、葵はカバンから一冊のノートを取り出し、開いたページをミオに差し出した。

ミオは、じっと葵の顔を見つめ、静かにノートを受け取った。そして、ゆっくりと、その歌詞を読み始めた。


「怒鳴られた理由なんて

 いつもちゃんと覚えてた

 ただ、言い返す言葉だけ

 なかなか見つからなかっただけ」


ミオの読み上げる声が、スタジオに静かに響く。ユメカは、葵の言葉に、思わず胸を押さえた。ルナも、普段の明るい表情から一転、真剣な眼差しで歌詞を追っている。


「『またかよ』って言われた瞬間

 胸のどこかがひび割れた

 悪い子に見えたんだろうな

 ほんとは ただ、振り向いてほしかっただけ」


ミオは、歌い上げるような声で、葵の感情を読み取ろうとする。その言葉の一つ一つが、ミオ自身の心にも、深く突き刺さる。


「強がりって便利だよね

 笑ってれば傷も隠せるし

 でも 心の奥ではずっと

 誰かの優しさを待ってた」


「叱られたって 愛されたかった

 怒りの裏に 本音を隠してた

 わかってほしいと叫ぶたび

 遠ざかっていっただけ」


読み進めるミオの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。葵の静かな内面に、こんなにも深く、そして痛いほどの感情が秘められていたのかと、ミオは改めて葵という人間の深さに触れた気がした。


「黙って耐えた夜もあった

 怒鳴り声より、沈黙が怖くて

 どうしてこんなに

 泣きたいんだろう」


「教室の隅 落書きの影

 誰にも読まれない言葉があった

 『だれかへ』じゃなく『じぶんへ』書いた

 それが唯一の味方だった」


ユメカは、そっと葵の隣に座り、何も言わずにその手を握った。ルナは、珍しくスティックを動かすことなく、ただじっと葵を見つめている。凛は、優しい眼差しで、葵の言葉を受け止めていた。


「言葉にできない気持ちを

 音にするしかなかったから

 いま、歌ってる

 私の声で」


ミオは、最後のフレーズを読み終えると、深々と息を吐いた。そして、ノートをそっと閉じて、葵を見つめた。


「葵…これ…すごいよ。私、なんて言ったらいいか…なんか、胸が締め付けられた…」

ミオの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「葵ちゃん…私も、わかるよぉ~、葵ちゃんの気持ち…」

ユメカも、目に涙をためながら、葵の手をぎゅっと握りしめた。


「…まじかよ、葵。お前、すごいな…」

ルナは、普段の調子を崩し、珍しく言葉に詰まっていた。その表情は、友への深い共感と、尊敬に満ちていた。

凛は、優しく、しかし確かな声で言った。

「葵さん、この歌詞、本当に美しいです。そして、とても力強い。きっと、同じような気持ちを抱えている人に、響くと思います」


葵は、メンバーたちの温かい反応に、少しだけ目元を緩ませた。自分の心の奥底に秘めていた感情を、初めて言葉にして見せた。それを、彼女たちは、こんなにも温かく受け止めてくれたのだ。

「葵…これ、私が作曲させて。葵のこの気持ちを、最高のメロディにして、みんなに届けたい」

ミオが、涙を拭いながら、力強く宣言した。


葵は、静かに頷いた。言葉にできない想いを、音に変えて。彼女の音楽は、また一つ、新たな深みと彩りを手に入れた。

こうして、また一つ、「東京たんこぶ」に新しいナンバーが追加されたのであった。この『思春期のバラード』が、どんなメロディを纏い、どんな感情を観客に届けてくれるのか。メンバー全員の期待が、静かに、しかし熱く高まっていた。

思春期のバラード

https://youtu.be/XaXmg3Ta8sI

※こちらで視聴可能です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ