16話 魂の伴侶
「菫、君が記憶を取り戻してくれるか本当に不安だったんだ」
改めて菫を抱き寄せながら、頼政は彼女に顔を近づける。
「まあ、忘れられても……再び好きになって貰えるように頑張る予定ではあったが」
そんな彼の発言にクスッと菫は思わず笑いをこぼした。
「なんでもっと早く迎えに来てくださらなかったのですか?」
「私の父上と菫の父上との約束でね。成人し力の制御も出来るまでは一人前とは認めない。それまで菫の近くには近づくな、ひいては街に戻ってくるなっと言われたよ」
頼政は彼女の存在を確かめるように額を擦り付ける。擽ったさに笑いながらも、菫は幸せを噛み締めていた。
「これからは、私の記憶を変えてはダメですよ」
菫の茶目っ気ある発言に、頼政は彼女の頬に唇を寄せた。
「これからはずーっと一緒だよ。菫」
「私がただの平民ですが、いいのでしょうか?」
「魂の伴侶に身分nなんて関係ない。そもそも母上たちは菫のことが好きだしな」
「ふふふ、嬉しいです」
そんな彼女の笑顔に、頼政はたまらないと言わんばかりに今度は額に唇を押し付けた。
「菫、早く伴侶の契約を結ぼう!」
「伴侶の契約ですか?」
「そうだ。鬼と華人が互いの血を混じり合わせて言霊を一緒に唱えるのだ。そうすることで、互いの魂が結び付き2人は一生離れる事はない」
「血をですか!?」
「心配するな、たった1滴で充分だ」
「それなら」
少しホッとしたように笑みを浮かべた菫に、頼政は畳み掛けるように言う。
「では、今夜は?」
「えっ、今夜ですか……?」
急な事に菫は少し固まってしまう。
「心配するな。菫の家族は皆了承済みだ、もちろん私の家族も」
「えっでも」
「今夜たまたま宴会をしようと思っていたので、宴の準備もできている」
「えっ」
「ちょうど契約にふさわしい互いの晴れ着も手元にある」
「それは注文が……」
「それに今夜は満月。まさに契約にふさわしい」
「……」
「よし、さっそく皆に契約の式の準備と菫の家族にも支度をしてくるよう使いを出そう」
「……」
「ねえ、菫?」
同意を促すかのように、子供時代の笑顔を思い出させるような無邪気な菫をじっと見つてくる。
「……はい」
菫はその答え以外許されてない事をひしひしと肌で感じた。
満月が夜空に輝く頃。
菫は自分で塗った晴れ着に袖を通し、月の光が降り注ぐ中を式場までしずしずと足を進めた。
月光に反射して着物に大小様ざなな花が咲き誇る。
そんな花々と同じように菫も今までで一番の華の香りを漂わせていた。
そんな香りに惹かれたのが式中の人々の目線が菫に刺さっていた。
そんな中強い眼差しを向けてくる青年の元に菫はしずしず進んで行った。
「菫」
「頼様」
互い目線を交わしただけで、一層香りが華やかに匂い立った。
そんな香りの中二人は、契約をかわす。
その夜、二人の魂は結びつき魂の伴侶になったのだった。
最後まで読んでいただき有り難うございました。
頼政サイド、おまけの話を時間があるときに追加できたらと思っています。