一話 ロード《セーブファイル1》 ケル
一周目編、スタートです。
カチッと何かが動く音がして、暗闇に命が吹き込まれる。
「――さあ、選ぼうか。次の“j64”を。壊してもらおうか、その心を」
《セーブファイル1 ローディング》
―― ―― ―― ―― ――
のどかな村に、暖かい風が通る。
「ケルー。そっちの耕具持ってきてくれ。作物の植え時だ」
「はい!」
そうケルと呼ばれた僕は、十二歳の男子である。チャームポイントはこの白い髪。まだまだ子供だが、今はこのジーマ村で大人たちとともに農作業をしている。
「なんだ。お前、筋肉ついてきたな。働きすぎじゃないか?」
「そんなことないよ、トカさん。むしろ鍛えてるのさ!」
「そうかそうか。騎士になりたいんだっけか?」
「うん」
そう、僕は将来騎士になるのが夢だ。だから、毎日のトレーニングもやってるし、村の周りを走ったりもしている。
騎士はなんていったってかっこいい。前に一度この村に泊まっていった騎士さんたちがいたが、鎧がかっこいいのなんの。
「そうだ、ケル。これを届けてくれ」
「この白い根野菜? 誰に?」
「名前を覚えろよ。白い根野菜じゃなくて、コンだ。それをビギー夫妻のところに」
「げっ」
ビギー夫妻のところか・・・・・・。
「なんだよ、げって。あれか? あそこの嬢ちゃんのことが好きだから」
「わー! なんでもないよ! 行ってくる!」
「はっはっは! 行ってらっしゃい!」
まったく、あの人は人の秘密をからかうように言うから困る。面白がってネタにして・・・・・・。言うんじゃなかったなぁ。
ビギー夫妻は、この村の中でも偉い立場にいる人たちだ。二人とも優しいので、そこは問題がないのだが・・・・・・。
僕は目的の家に着いてため息を吐く。
「・・・・・・あいつがいないといいな」
僕は慎重に大きな茶色いドアを二回ノックする。
・・・・・・返事がないな。留守か
「ケルじゃない!」
「うひっ?!」
背後から大声をかけられて、僕は間抜けな声を出して跳ねる。
・・・・・・この声は。
「や、やあリルン」
「なによそんな驚いて。馬鹿なんじゃないの?」
相変わらず口調が強い。
こいつがビギー夫妻の娘で、僕の同い年の幼なじみでもあるリルン。華奢な体に白い肌、端正な顔立ち。長い金髪を後ろに長し、僕よりも背は低いがそれでもちょっとした風格を漂わせている。普通の農民の僕がこいつと仲が良い・・・・・・かはわからないが、こうやって幼なじみなのは親の関係だ。
「で、うちになんのよう?」
「トカさんに頼まれて、これ」
僕はコンを見せて理由を示す。
リルンはそれを見て「ふーん」というと、スタスタと僕の横を通り過ぎてドアを開ける。
「とりあえず入りなさい。お茶ぐらい出して上げるわ」
「いや、いいよ別に。僕はまたトカさんのところに」
「私が入れって言ったら入るの」
ギロリと音が鳴りそうなほどにリルンが僕を睨む。
「・・・・・・はいはい。わかったよ」
毎回こうだ。なぜかリルンのペースに乗せられるし、なぜか睨まれるし、罵倒されるし。
リルンとは長い付き合いだが、本当によくわからない。
・・・・・・リルンと一緒にいる僕を友達はよくわからないと言うのだが。
「これ、どこに置こうか?」
「んー。適当な場所でいいわよ」
「適当って・・・・・・」
僕にとって適当とは一番恐ろしい。もし本当に適当なところに置いて怒られたらどうなるか・・・・・・。まあ、それはそれで理不尽だが。
とりあえず適当と言われたので、玄関のところに置いてリルンのあとについていく。
何度もこの家の中には入ったことがあるが、なかなかお洒落で豪華なものだ。
入ってすぐ横にあるツボに、大きなリビング。
「適当に座っといて。お茶とお菓子を出すわ」
「ありがとう」
そう応えると、リルンはまた早足でスタスタと別の部屋に向かう。あそこには調理場があったな。
そして僕は四つあるうちの一つのイスに腰掛けて、テーブルに突っ伏す。
「はぁ~。・・・・・・なんで毎回あいつのことが気になるかなぁ」
時々自覚するのだが、僕は無意識にリルンを目で追っているのだ。それをリルンに気づかれて「何見てんのよ。気持ち悪い」と言われるのが毎回だ。
「・・・・・・僕、好きな人いたっけ」
トカさんはああ言っていたが、あれはもう何年もまえの話。今は・・・・・・僕はどう思っているかよくわかっていない。
大人たちはみんな言う。「そりゃみんな通る道だ。大人への道ってな」と。
だが、それがなんなのかやっぱりわからない。
そんな思考も、漂ってきた香りにどこかへ飛ばされてしまう。
匂いの元を探すと、それはリルンの持つお盆から香ってきているようだ。
「はい」
「ありがとう。・・・・・・おお」
思わず感嘆の声が出てしまった。
出されたのは、甘い香りのする紅茶と焼きたてのクッキー。
「これ、リルンが作ったのか?」
「当たり前じゃない。私以外、ここにはいないわよ」
そうか。僕がここに来たときも、誰からも返事がなかったしな。
「じゃあ、いただきます」
そう言って僕はクッキーに手を伸ばし、香ばしく良い色に焼かれたそれを、サクッと口に入れる。
・・・・・・美味い。
「これ、すごい美味い!」
「そ、そうかしら? なら良かったわ。いっぱい食べていいわよ」
じゃあ、お言葉に甘えて!
僕はそのクッキーをどんどん食べる。
・・・・・・これ、ちょっと行儀悪いよな。リルン不機嫌になってないかな?
そう思ってリルンの顔を伺うと・・・・・・。
「・・・・・・ふふ」
紅茶のカップを口に付けながら微笑みを浮かべていた。
・・・・・・こんな表情、あんまり最近は見たこと無いな。
「・・・・・・ふっ」
「どうかしたかしら?」
「ああ、いや、何でもない」
リルンって、こんなに穏やかに笑うんだな。
それを知って、少し微笑ましくなってしまった。
紅茶も飲みやすいいい温度であった。
―― ―― ―― ―― ――
「今日はありがとう。長くお邪魔しちゃって悪いね」
「いいのよ別に。私が入れって言ったんだもの」
そういえば、半ば強制的に入らされたんだっけか。
でも、思わぬ収穫もあったし、楽しかったな。
「じゃあな」
「うん。ばいばい」
そうして僕は夕日に照らされた村の中を歩く。
こうも静かで穏やかな天気だと、いろいろと考えにふけることがあるが、一つ気づいたことがある。
「僕、やっぱりあいつのことが好きなんだろうな・・・・・・」
確かめるようにそう呟いて、僕は自分の家の玄関を開けた。




