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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第二章 動乱の始まり編
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039 上級への進級試験

お待ちいただいた方がどれだけいるか分かりませんが、第二章スタートします。ここからは若干更新のペースが遅くなると思いますが、末長くお付き合い下さい!

 ルーンカレッジは春から夏を迎えようとしていた。毎年この時期は進級をかけた試験が行われ、学生たちの悲喜こもごもな様子が見られる。


 ルーンカレッジの進級は甘くなく、条件を満たさない限り永遠に上に上がることはできない。ジルは今年中級を1年で終えて上級に進級するつもりであった。正直なところ、中級の授業や環境では物足りないので、早く上級で高度な魔法の研究がしたいところであった。


 ジルと同じく上級への進級試験を受ける学生には、ガストン、イレイユ、ルクシュがいた。ジル以外の3人は中級の3年である。進級の条件は、軍事演習などの必須単位をとっていることと試験の成績である。試験は第二位階の魔法を行使すること、一定以上の詠唱速度であることが求められる。つまり第二位階の魔法を一つでも習得しないかぎり、上級には上がれないということだ。


 正直なところ、ジルはこの進級試験で落ちるとは全く思っていなかった。すでに第三位階の魔法を習得しているし、ジルの詠唱速度はカレッジでも有数である。上級に進級することは自分の中では規定の事実であった。


 ジルのみるところ、イレイユ、ルクシュも問題ない。イレイユは召喚魔法のスペシャリストとして、すでに第三位階までの魔法を使えるし、ルクシュも神聖魔法に限定されるが類まれな能力を持っている。危ないのはガストンだろう。


 ガストンは第二位階の魔法を使えるが、詠唱速度に難があった。進級に求められる速度は、一般の学生にとってはかなりハードルが高いのだ。


 ある日、ロクサーヌの上級魔法の授業が終わって後、この4人で喫茶室に行った。ハードな授業が終わった後の休憩というのもあるが、これから受ける進級試験についての相談である。たまにはこうした同じクラスの友人との交流も良いものだ、そうジルは感じていた。もちろん、気心の知れた相手に限られるのだが……。


 みな思い思いに紅茶やコーヒーを注文する。一日の授業が終わってからの一服というのは心に安らぎを与える。


「はー、今日も疲れたよねぇー。ロクサーヌ先生飛ばし過ぎぃ」


 いつも元気が良いイレイユが、疲れていながらも元気に話している。


 今日のロクサーヌの授業は、魔法闘技大会で使われたドームで行われた。わざわざこのドームを使用したのは、危険な攻撃魔法の訓練をするためである。今日は、第三位階の中でもファイアーボールの練習であった。ジルはロクサーヌに指名され、皆の前で実演させられたものである。


 ジルはすでにファイアーボールを使えるが、それでもロクサーヌの授業を受ける意味はある。威力を上げる工夫や火球の数自体を増やすことなど、試みるべきことは色々とあるのである。


 第三位階の魔法は使用にかなりの魔力が必要となるため、一つの授業でまるまる練習するとかなり疲労する。とくに魔力量があまり多くない学生の中には、最後は見ているだけになっていた者もいる。ガストンが無事に切り抜けられたのは、上手く手を抜いていたからである。


「ガストンは進級試験危ないんじゃないか?」


 ジルは心配していたことを口にする。ルームメートとしてはやはり放っておくこともできない。


「そうそう! わたしも思ってた。ガストンってぎりぎりっぽいよねー」


 イレイユが遠慮のないことを言う。やはり思っていることはみな同じようだ。


「おう、俺だって自分でもヤバイってことは分かってるぜ」


 その割に悲壮感のない調子でガストンがこたえる。


「それで試験を切り抜けるために、何か良い考えがあるのか?」


「ある!!」


「おおーーー!!」


 ガストンが何も考えてないと思っていたイレイユが意外そうな声を上げた。


「まさか、ガストンがちゃんと考えてたとはね~」


「イレイユ、ガストンさんに悪いよぉ」


 人の良いルクシュがイレイユの毒舌を制する。


「それで、どんな考えなんだ?」


 ジルもやや意外な表情で聞いた。


「特訓あるのみに決まってるだろ! 他に魔法が上手くなる方法があるかよ」


「それで上手くいくなら誰も苦労はないわけだが……」


「ガストンさん、大丈夫ですか? 私で良かったら協力しますよ……」


 ルクシュまでが控えめに協力を申し出る。


「ルクシュちゃん、ありがとう。でも俺にも考えがあるんだ」


 何か上手くいく確信めいたものがあるようだ。


「どうやって特訓すんのよ、ガストン?」


「ジル! お前毎日朝から魔法の特訓しているよな?」


「ああ……まさか」


 ジルは嫌な予感がした。いや必ずしも嫌というわけではないのだが……。


「ジルとレニちゃんの朝練に俺も参加するんだよ。レニちゃんはいま初級だから、呪文の詠唱の練習が中心だろ? だったら俺も一緒にジルに教えてもらえば上手くなるはずだ!」


 ガストンの考えとやらが予想通りだったので、ジルは一つ溜息をついた。


「別にお前の訓練に付き合うのはやぶさかではないんだが、わざわざレニとの訓練で一緒にやることはないだろ?」


「そうよ! せっかくジルと2人で訓練できるのに、レニちゃんが可哀想じゃない」


 イレイユがかなり余計な気を回す。


「い、いや……そういうことではないのだが」


 イレイユは何か誤解しているのではないか、ジルは慌てて言った。


「朝早い時間に練習するのが効率良いからだよ! それにジル、昼間や夜だとお前の研究の時間を奪っちまうことになるんだぜ。それで良いのか?」


「うっ、そうだな……。一回で済むならそれにこしたことはないが……」


「あんた、そんなこと言って、ただレニちゃんに会いたいだけなんじゃないの?」


「ふふん、それは君の心が汚れてるから出てくる言葉だよ、イ・レ・イ・ユ!」


 ガストンがおどけて言う。


 結局ガストンの言うように、レニとの訓練にガストンも参加することになった。この場にいる誰もが、ガストンの言うことを額面通りに受け取ったものはいないのだが……。そしてこの事をレニに話した時、レニが一瞬嫌そうな顔をしたのは言うまでもない。


 それから一週間、朝の訓練にガストンも参加した。当然第一位階のレニとは難易度が異なるわけだが、ジルを前にレニとガストンは並んで魔法発動までの時間を短縮する練習を行った。レニは少なくとも表面的には、ガストンが居ることに不満を表さなかった。ジルが親友の危機を救いたいという考えを尊重したのだろう。


 ガストンは意外にも特訓中は真面目であった。むろんガストンのことだ、たまに軽口を叩くようなことはあるが、ジルに分からないところを問い、そして指摘されたことを真剣に改善しようとした。その熱意にはジルも感心せずにはいられない。さすがに実家の魔法塾を継ぐため、ルーンカレッジの卒業資格は何としても取らねばならないという使命感があるのだろう。


 レニにとってもこれは悪くないことかもしれない。今までジルと2人だけで訓練をしてきたが、レニが今ひとつ訓練に集中しきれていないような雰囲気をジルは感じていた(これはレニの気持ちを察することができないジルに原因があるのだが)。しかし意外にもガストンが熱心に練習に取り組んでいるため、レニも感化されて集中力が増したようだ。


**


 そして一週間後。


「ジル、今までありがとうな。おかげで大分詠唱が速くなった気がするよ」


 ガストンは彼にも似ず、礼儀正しく礼を言った。実際ジルは、なんの見返りもなしに一週間も特訓に付き合っていたわけなので、礼ぐらいは言うべきだろう。


「いや、実際速くなってるよ。訓練でやった通りの力が出せれば、進級試験も問題ないはずだ」


「おう、ありがとな、ジル。それとレニちゃん、一緒に特訓してくれてありがとう!」


「いえ、こちらこそ勉強になりました。一緒に特訓してくれる方がいたほうが早く上達するような気がします」


 レニの言葉は多分に社交辞令であろうが、真の気持ちが含まれていないわけではない。


「じゃあ、これからも朝練に参加しちゃおうかな~?」


「それはやめてください……」


 レニは即座に冷たい声で返してしまった。


 結局上級への進級試験は全員が無事通過した。ジルは余裕で、イレイユとルクシュは充分な成績で、そしてガストンはぎりぎりで合格したのである。ガストンが彼にしては優れた成績をあげたことに、ロクサーヌも驚いていた。


「ガスト~ン、やったじゃない」


 ガストンの背中をパーン! と手で叩いて祝ったのはイレイユである。


「おう、これもジルのおかげだぜ。今日は俺が何でもおごってやるからよ!」


「やったー、今日はガストンのおごりだって~」


 イレイユが便乗しておごりにあずかろうとする。


「おいっ、まて! お前らにはおごらないぞ!」


 かなり慌てた口調でガストンが注意する


「ガストンさん、ありがとうございます」


「ルクシュまで……」


 今日は皆で進級試験通過のお祝いをすることになりそうである。

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