番外編 手遅れ
「その頭にかぶってるの、帽子じゃなくって私のパンツなんですけど?」
「そうじゃなきゃ被らないよ! ちいちゃんの二番目にお気に入りのパンツだよね。一番お気に入りはピンクの――」
「やめて!」
思わず言葉より手が出た。翔はいい顔して殴られてる。
「使用済みじゃないから安心して」
首絞めたい。使用済みって何。洗濯したものじゃなきゃ、今持たせるはずがない。
って、え? 使用済みってもしかしてそっち? アウトじゃない? こんなやつの手元にある時点でアウトじゃない?
一生懸命取り返そうとしているものの、翔の背は私よりも頭一つ大きい。躱しに躱されている。
「はぁ、はぁ……。今ちいちゃんと一体化している。ちいちゃんのパンツ……」
「やめて!? パンツの匂い嗅ごうとするのやめて!?」
パンツと翔の鼻との距離が近づいたため、慌てて頭を叩く。
「あっ、パンツの過剰摂取で鼻血が」
「パンツの過剰摂取って何!? 何なの!? 後もうその鼻血がついたパンツいらないから!」
「プレゼントありがとう! 弁償するね!」
鼻血をたらしながらくり出される満面の笑みは翔のイケメンさを損なわない。鼻血がそこはかとなく残念ではあるが。あぁ、お気に入りのパンツよ……さらば。
「ありがとう。――って、いらないから! プレゼントでもないから!」
「えっ! すごく嬉しかったのに! ちぃちゃんに似合うパンツ探そうと思ってたのに……。ちぃちゃんに弄ばれた!」
翔……。私は今すごくツッコミを放棄したい。翔の前では油断は禁物だ。パンツをとられないように警戒する必要がある。そう思った。
その後、翔がパンツを大事にしていると逐一報告が入るようになることをちぃちゃんは知らない。そしてちゃっかりプレゼントに翔好みのパンツが用意されることも知らない。ちぃちゃん馬鹿は手遅れである。