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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第57話 隣国の思惑

 ルーデン王国の使節が去った後も、会議室の空気は重かった。


 扉が閉まる音が、やけに大きく響く。


「経済措置、か」


 ルシアン殿下が低く呟く。


 宰務官がすぐに答える。


「名目はどうとでもつけられます」


「通関の厳格化、関税の再調整、交易船の検査強化……いずれも“安全保障上の措置”として処理可能です」


 つまり。


 戦争ではない。


 だが、国家を弱らせるには十分な圧力。


 私は机の上に広げられた交易資料へ目を落とした。


 王国とルーデンの間には、長年築かれた流通経路がある。


 塩、鉄材、織物、薬品。


 表向きは対等な交易。


 だが、実態は違う。


「依存率が高すぎます」


 私は静かに言った。


 殿下がこちらを見る。


「どこが一番危うい」


「薬品と海運です」


 私は資料の該当箇所を指す。


「薬品は六割をルーデン経由に頼っています。海運保険も半分以上が向こうの商会です」


 宰務官が顔をしかめた。


「止められれば痛いな」


「はい」


 私は頷く。


「ですが、逆に言えば、向こうもこちらの鉱物資源と穀物を必要としています」


 完全な一方的依存ではない。


 そこが唯一の救いだった。


「つまり脅しだな」


 ルシアン殿下が言う。


「ええ」


 私は答える。


「ただの脅しなら、まだ対処できます」


「問題は、その先です」


 ルーデンは改革そのものを嫌っているのではない。


 改革の成功によって、王国が“自立する”ことを嫌っている。


 それはつまり。


 国家の形を巡る争いだった。


 その日の夕方、ドミニク・ヴァルトハイム侯爵が王宮へ姿を見せた。


 呼んだ覚えはない。


 だが、彼はまるで当然のように一礼する。


「外交書簡の件、耳に入りました」


 穏やかな声。


 私は少しだけ身構える。


 侯爵は、こういう時にこそ本音を見せる。


「何を言いに来た」


 ルシアン殿下が問う。


 侯爵は微笑を崩さない。


「確認です」


「隣国は改革を恐れているのではありません」


「王国が“秩序”を変えることを恐れている」


 私は眉を寄せた。


「秩序?」


「ええ」


 侯爵は窓の外を見た。


「ルーデンは、曖昧さで利益を得てきた国です」


「契約を複雑にし、依存を生み、その依存で周辺国を縛る」


 その指摘は、驚くほど明快だった。


 侯爵は続ける。


「あなた方の改革は、それを壊す」


「透明な税制、記録、監査。そうしたものは、交易にも波及する」


 彼は振り返る。


「つまり、これはただの経済問題ではありません」


「国家思想の衝突です」


 部屋が静まり返る。


 私は、侯爵がなぜここに来たのかを理解し始めていた。


 彼は改革に反対している。


 だが、外圧に国を売るつもりはない。


「侯爵」


 私は静かに言った。


「あなたは、今回の件でどちらに立つのですか」


 侯爵は、小さく目を細めた。


「王国側です」


 即答だった。


「私は王権を疑いますが、王国を疑っているわけではない」


 それは、彼の一線だった。


 ルシアン殿下がわずかに息を吐く。


「なら、協力するか」


「条件次第です」


 侯爵は、すぐに答えた。


「対外問題を理由に、内政の監視を緩めないこと」


「外交危機を口実に王権を拡大しないこと」


 要求は明快だった。


 私は思う。


 やはりこの男は、悪ではない。


 ただ、国家の壊れ方を知っているだけだ。


「……分かりました」


 殿下が答える。


「その条件を呑もう」


 侯爵は深く一礼した。


「では、私も協力します」


 彼が去った後、私はしばらく黙っていた。


 敵だと思っていた相手が、外圧の前では味方に回る。


 だが、それは和解ではない。


 あくまで一時的な共闘。


「複雑ですね」


 思わず呟く。


 ルシアン殿下が苦笑した。


「国家とはそういうものだ」


 夜、私は一人で交易資料を見直していた。


 ルーデンの狙い。


 王国の弱点。


 そして、こちらの打てる手。


 外交とは、言葉の戦争だ。


 まだ剣は抜かれていない。


 だが。


 次に一手を誤れば、国家全体が揺れる。


 隣国の思惑は、はっきり見えた。


 ならば――


 こちらもまた、国家として答えなければならない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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