第53話 公開討論
再評価委員会、最終日。
王宮大広間は、これまでで最も人が集まっていた。
貴族。
商人。
地方代表。
そして市民傍聴席。
議事は公開されている。
つまり――
この討論は、王国全体が見ている。
議題は一つ。
制度監査院の設置。
私の提案だった。
司会が告げる。
「本日の最終議題は、制度監査院設置案」
ざわめきが広がる。
侯爵がゆっくり立ち上がる。
「発言を」
静かな声。
だが広間はすぐに静まった。
「エリシア殿」
侯爵は言う。
「あなたは制度を作る人だ」
「私は制度を疑う人間だ」
小さな笑いが起きる。
「だが今日、あなたは」
視線が私に向く。
「制度を監視する制度を提案した」
私は答える。
「はい」
「制度は強い」
「だからこそ監視が必要です」
侯爵はゆっくり歩く。
「では問おう」
広間を見渡す。
「その監査院は誰が監視する?」
ざわめき。
私は答える。
「議会」
「王」
「そして公開」
侯爵は首を振る。
「理想だ」
そして続ける。
「だが歴史を見よ」
彼の声は穏やかだ。
だが言葉は重い。
「制度は必ず権力を生む」
「権力は必ず集中する」
「集中した権力は、必ず腐る」
広間は静まり返っている。
誰も反論できない。
それは歴史だった。
私はゆっくり言った。
「その通りです」
ざわめきが起きる。
侯爵の眉がわずかに上がる。
「制度は腐ります」
私は続ける。
「だから監視する」
「監視も腐る」
「だから公開する」
広間を見渡す。
「完璧な制度は存在しません」
「ですが」
声を強める。
「不完全な制度を重ねることはできます」
沈黙。
「一つの権力が暴走するなら」
「二つで止める」
「二つが腐るなら」
「三つで止める」
それが制度国家だ。
侯爵は少し黙ってから言った。
「だが」
「最後に止めるのは人間だ」
私は頷く。
「ええ」
そして答える。
「だから政治があります」
広間がざわめく。
私は続ける。
「制度は道具です」
「人間が使う」
「だから」
侯爵を見る。
「あなたのような人が必要です」
侯爵の目が細くなる。
「制度を疑う人」
「権力を恐れる人」
「それが国家を守る」
沈黙。
数秒。
長い数秒。
侯爵はゆっくり息を吐いた。
「……なるほど」
そして静かに言う。
「あなたは制度の人ではない」
「政治の人だ」
それは評価だった。
侯爵は席に戻る。
司会が議決を取る。
「制度監査院設置案」
「賛成」
貴族席。
商人席。
地方席。
手が上がる。
反対もある。
だが――
「可決」
広間にざわめきが広がる。
制度が一つ生まれた。
会議が終わり、侯爵が私の前に来る。
「負けたわけではない」
穏やかな声。
「ですが」
私は言う。
「敵でもない」
侯爵は小さく笑った。
「その通りだ」
そしてルシアンを見る。
「良い王を支えなさい」
それだけ言い、去っていった。
広間にはまだ人の声が残っている。
私は窓の外を見る。
制度は完成しない。
だが今、
王国は一歩だけ前に進んだ。
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