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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第51話 侯爵の思想

 王宮の執務室は、夜でも灯りが消えない。


 地方からの報告書が机の上に積み上がっている。


 グレイヴンの融資停止事件は解決したが、問題はそれだけではなかった。


 南部では税収処理が遅れ。


 北部では土地登録が止まり。


 西部では地方議会が制度解釈を巡って紛糾している。


 すべて合法。


 すべて制度の範囲内。


 だが確実に、改革の速度を削っている。


「……侯爵ですね」


 マリエルが低く言う。


 私は頷く。


「おそらく」


 法律は破られていない。


 だから対処が難しい。


 制度とは、人が動かすものだからだ。


 ルシアン殿下が椅子にもたれた。


「直接会うか」


 短い言葉だった。


 私は少し考え、頷いた。


「ええ」


「そろそろ」


 翌日。


 王宮の小会議室。


 ドミニク・ヴァルトハイム侯爵は、いつもの穏やかな表情で現れた。


「お呼びとは光栄です」


 深く一礼する。


 敵意はない。


 少なくとも表面には。


「単刀直入に伺います」


 私は言った。


「なぜここまで改革を妨げるのですか」


 侯爵は少し驚いたように眉を上げた。


「妨げている?」


「私は制度を守っているだけです」


 その言葉に、ルシアンが静かに言う。


「制度はお前が嫌うはずだ」


「いや」


 侯爵は首を振る。


「私は制度が嫌いではありません」


 そしてゆっくり続ける。


「ただ」


 その目が少しだけ鋭くなった。


「王権が強くなりすぎるのが嫌いなのです」


 部屋の空気が変わる。


「歴史をご存知でしょう」


 侯爵は言う。


「この王国は二度、強い王によって壊れかけました」


 私は黙って聞く。


「一度は軍事独裁」


「一度は財政専制」


「どちらも正しい改革から始まった」


 その言葉は重かった。


「制度は強い」


 侯爵は言う。


「だからこそ危険だ」


「強い王と結びついた制度は」


「国家を止められなくする」


 私は静かに答える。


「だからこそ制度が必要です」


 侯爵は微笑んだ。


「ええ」


「そこが我々の違いです」


 窓の外を見ながら続ける。


「私は人間を信じない」


「だから制度を信用しない」


 その言葉に、私は少し驚いた。


「制度は人が作る」


「人が運用する」


「ならば結局、人間の弱さから逃げられない」


 私は言う。


「だからこそ制度で縛るのです」


 侯爵は静かに頷いた。


「美しい理想です」


 そしてゆっくり私を見る。


「ですが」


「国家は理想で動きません」


 沈黙が落ちる。


 ルシアンが言った。


「では、お前は何を守りたい」


 侯爵は迷わず答えた。


「均衡です」


 短い言葉。


「王も、貴族も、民も」


「互いに止め合う構造」


 私は理解した。


 侯爵は改革反対派ではない。


 **王権集中反対派**なのだ。


「あなたは」


 私は言った。


「王を信用していない」


 侯爵は微笑む。


「信用しているから止めるのです」


 そしてルシアンを見る。


「あなたは良い王になるでしょう」


「だからこそ」


 言葉を区切る。


「あなたの次を恐れる」


 その言葉は、政治ではなく歴史だった。


 長い沈黙。


 やがて侯爵は立ち上がった。


「私は敵ではありません」


「ただ」


 深く一礼する。


「王国の別の守り手です」


 扉が閉まる。


 部屋に静寂が残る。


 ルシアンが言った。


「面倒な男だ」


 私は小さく息を吐いた。


「ええ」


 そして窓の外を見る。


 敵は悪人ではない。


 敵は――


 **別の正しさ**だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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