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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第47話 婚約破棄の真実

 第一王子アルノルトの仮邸は、王宮から少し離れた場所にあった。


 王族の住まいとしては小さい。


 だが、静かだった。


 案内された部屋に入ると、アルノルトはすでに立っていた。


「久しぶりだな」


 声は落ち着いている。


 以前の傲慢さはない。


 ただ、どこか疲れていた。


「お久しぶりです」


 私は一礼する。


 形式的な礼。


 かつての婚約者同士の礼ではない。


 数秒の沈黙。


 先に口を開いたのは、彼だった。


「驚いた」


「お前が来るとは思わなかった」


「私も」


 正直に答える。


「あなたが会うとは思いませんでした」


 アルノルトは小さく笑う。


「逃げ続けるのも、疲れる」


 その言葉に、少しだけ空気が変わる。


 私は、席につかずに立ったまま言う。


「北部会議での発言を聞きました」


「そうか」


「改革に慎重であるべき、と」


 彼は肩をすくめた。


「嘘は言っていない」


「慎重であるべきだろう?」


 否定はしない。


 私は頷く。


「ええ」


「ですが、今あなたの言葉は」


「慎重論ではなく」


「象徴になります」


 アルノルトの目がわずかに動く。


「侯爵の旗印か」


「はい」


 沈黙。


 彼は窓の外を見た。


「……分かっている」


 その一言は、予想外だった。


「最初は違った」


「地方会議に呼ばれただけだ」


「だが、気づいた」


 振り返る。


「俺は“使いやすい”」


 敗れた王子。


 追われた男。


 同情を集める存在。


「怒っていないのですか」


 私は思わず聞いた。


 彼は笑う。


「怒る資格があるか?」


 静かな声。


「婚約破棄をしたのは俺だ」


「お前を侮ったのも俺だ」


 言葉は、思っていたよりまっすぐだった。


「……だが」


 彼は続ける。


「正直に言う」


「お前がここまで来るとは思わなかった」


 私は答えない。


 評価を求めてここに来たわけではない。


「だから、会いに来た」


 私は言う。


「あなたが象徴になる前に」


 彼の眉がわずかに上がる。


「俺にやめろと言いに来たのか」


「いいえ」


 私は首を振る。


「選んでほしいのです」


「選ぶ?」


「あなた自身の言葉で」


「政治ではなく」


「あなた自身として」


 沈黙。


 長い沈黙。


 アルノルトは、ゆっくりと椅子に座る。


「……難しいことを言う」


「政治の中で生きてきた男に」


 私は静かに言う。


「だからです」


「あなたは政治の象徴ではない」


「一人の人です」


 彼は、苦く笑う。


「そう思ってくれるのは」


「お前くらいだ」


 そして、少しだけ目を閉じる。


「婚約破棄の時」


 突然、彼は言った。


「俺は、お前が怖かった」


 私は驚く。


「怖い?」


「感情が見えなかった」


「俺は王子だ」


「感情で動く人間が多い」


「だが、お前は違った」


 視線が合う。


「計算しているように見えた」


 私は、少しだけ息を吐いた。


「違います」


「感情がないのではありません」


「見せなかっただけです」


 アルノルトは静かに笑う。


「……今なら分かる」


 彼は立ち上がる。


「会見は予定通り行う」


 私は何も言わない。


「だが」


 彼は続ける。


「侯爵の言葉は使わない」


 それだけで十分だった。


 完全な味方にはならない。


 だが、旗印にもならない。


「それでいい」


 私は一礼する。


 部屋を出る直前。


 アルノルトが言った。


「エリシア」


 私は振り返る。


「お前は冷たい女じゃない」


 短い言葉。


 だが、それは過去の訂正だった。


 私は何も答えず、静かに扉を閉めた。


 政治は終わらない。


 だが、過去は少しだけ、


 静かに整理された。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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