第46話 戻ってきた影
その知らせは、静かに届いた。
「第一王子アルノルト殿下が、公の場に姿を見せました」
報告したのはカイルだった。
私は顔を上げる。
「どこで」
「北部地方会議です」
地方貴族の集まり。
正式な政治会議ではない。
だが、影響力はある。
「発言は?」
カイルは紙を差し出す。
記録された言葉は短かった。
《私は王位を望んでいない》
《だが国の安定を願う》
《急激な改革には慎重であるべきだ》
……巧妙だ。
直接攻撃はしていない。
だが、完全に侯爵側の論調。
殿下が静かに言う。
「侯爵の手か」
「おそらく」
ドミニク侯爵は、第一王子を前面に出していない。
ただ、舞台を用意した。
そこに立ったのは、アルノルト自身。
「象徴ですね」
私は呟く。
制度反対派の旗印。
“本来の王”という幻想。
民衆には分かりやすい。
「会見は?」
「予定されています」
「王都で」
空気が重くなる。
第一王子は敗者だ。
だが、敗者だからこそ同情を集める。
そして同情は、政治になる。
殿下は机に手を置く。
「止めるか」
王命で沈黙させることは可能だ。
だが。
「止めれば、英雄になります」
私は答える。
沈黙を強いられた王子。
それは最悪の象徴だ。
「ならば」
殿下は私を見る。
「放置か」
「いいえ」
私は首を振る。
「対話します」
空気が止まる。
「……アルノルトと?」
「はい」
逃げれば、物語は彼のものになる。
だが、対話すれば――
現実になる。
その夜。
第一王子の仮邸。
アルノルトは一人、窓を見ていた。
王都の灯りが遠い。
そこへ従者が報告に来る。
「面会の申し込みです」
「誰だ」
「エリシア様です」
沈黙。
長い沈黙。
やがて、アルノルトは小さく笑った。
「……来るか」
皮肉でも怒りでもない。
少しだけ、疲れた声。
「通せ」
その決断が、
次の局面を作る。
敵としてではない。
過去としてでもない。
制度と感情の交差点で、
二人は再び向き合うことになる。
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