第28話 揺らぐ派閥
会議が終わった後、王宮の空気は明らかに変わっていた。
表立った動きはない。
だが、廊下を行き交う視線や、控えめな挨拶の角度が違う。
――風向きが、変わり始めている。
「最近、第一王子殿下の執務室を訪れる顔ぶれが減りました」
マリエルが、小声でそう報告してきた。
「代わりに、様子見が増えています」
私は、書類から目を離さずに頷いた。
「それで十分です」
誰かを引き抜く必要はない。
離れる者が、自然に離れていけばいい。
その頃、第一王子アルノルト殿下の執務室では、重苦しい沈黙が続いていた。
「……財務省の反応が鈍い」
側近の一人が、慎重に切り出す。
「昨日までは、もっと協力的でした」
「評価基準が明確になったからだろう」
アルノルト殿下は、低く答える。
「様子見に回っただけだ」
そう言い切りながらも、その声には確信がなかった。
ヴェルナー・シュタインは、黙っていた。
彼には分かっている。
これは裏切りではない。
自己防衛だ。
王位継承戦が、記録と制度で進む以上、
どちらに付くかは「安全性」の問題になる。
「殿下」
ヴェルナーが、意を決して口を開いた。
「今からでも、仕組みの整備に着手すべきです」
アルノルト殿下は、ゆっくりと振り返る。
「……今さら、か」
「遅くはありません」
「だが」
殿下は、拳を握る。
「それは、これまでの私を否定することになる」
ヴェルナーは、言葉を失った。
否定しなければ、前には進めない。
だが、それを受け入れられない限り、道は閉ざされる。
一方、第二王子殿下の側では。
「離れる者が出ています」
報告を受けた殿下は、静かに頷いた。
「引き止めるな」
「はい」
「理由を問うな。記録だけを残せ」
その判断は、冷静だった。
無理に囲い込めば、後で歪みが出る。
今は、流れに任せる時だ。
私は、廊下の向こうを歩く官僚たちを眺めながら思う。
派閥とは、意志で作るものではない。
環境で、自然に形成される。
安全で、壊れにくい場所に、人は集まる。
第一王子派から人が離れていくのは、
誰かの裏切りではない。
「戻れない」と感じ始めたからだ。
そして、それは――
まだ始まりに過ぎなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




