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22話 柚羽ちゃんは猫になる(SIDE YUZUHA)

「……柚羽」

「なに?」

「そろそろ離れろ」

「やーだー!」


 私の返答に奏翔はあからさまなため息をついていた。


「今日の柚羽ちゃんは猫だから、奏翔の傍でゴロゴロしてたいの!」


 奏翔が作ってくれた夕飯を平らげて、お風呂を済ませてリビングに戻ると、奏翔がソファに座ってテレビを見ていたので、その隣を飛び乗るように確保した。


「……今日の朝から何か変だぞ、何があった?」

「いつも通りだと思うけど?」


 奏翔はいかにも「そうか?」と言いたそうな顔をしていた。

 

 やっぱり奏翔にはわかっちゃうかと思うだけで口元がにやけてしまう。

 

 定期的にこの現象……奏翔のぬくもりを感じたくなる時がある。

 別の言い方をすれば欲求不満。しかも結構強めの。

 

 何度か自分自身で鎮めたりしたことがあるが、全くと言っていいほど、鎮まらなかった。

 抑えられないならいっそ欲望の赴くまま、奏翔と一線を越えようと思って、抱きついたところ心が安らぐような気持ちになっていった。

 それ以降、この現象が起きた時は今みたいに奏翔にべったりしている。

 されてる奏翔本人は理由がわからないと思うんだけど。


 「やっぱり奏翔の側が一番落ち着くね」

 「……だからって、顔を俺の体に擦り付けるな!」

 「攻めてみたい気持ちはあるけど、やっぱり奏翔からのほうがいいにゃあ」

 「会話が噛み合ってないぞ……」

 

 気づいたのは高校に入って、私が清楚系美少女として扱われるようになってから。


 それまでは学校でも奏翔と一緒に行動していたのだが、高校生になったから、学校では奏翔と一緒にいられなくなった反動でこうなったのかもしれない。

 

 「それに昨日、電話で話したでしょ? 奏翔と一緒に過ごしたい気分だって」

 「……そういえばそんなこと言っていた気がするな、イライラですっかり忘れてた」


 今回は昨日の朝から起きていた。いつもは夜とか早くても夕方からだったのに。

 

 昨日の朝は何とか理由をつけて奏翔に学校を休ませて2人だけの世界を作ろうとも考えた。

 まあ、そんなこと言ったら確実に奏翔に怒られるけど。

 しかも学校に行ったら奏翔は虎太郎くんとずっと話しているし、見ているだけで様々な欲望が沸々と込み上げていた。

 

 なんとか自分の欲望を抑えつけて、やっと奏翔と2人きりになれたのだ。

 今日はとことん彼に甘えまくるしかない!

 

 「奏翔、ぎゅってしてあげようか?」

 「嫌だと言っても、するんだろ?」

 「さすが奏翔、よくわかってるじゃん!」

 

 一緒にいられないのは学校だけで、家に帰れば奏翔は不平不満を口にしながらも私の相手をしてくれる。

 

 「そんじゃお言葉に甘えて……!」

 

 私は奏翔の膝の上に跨るように座る。

 今履いているのがハーフパンツだけど、スカートでやればよかったかと邪な考えが浮かんだ。

 そんなことしたら確実に説教を受けることになりそうだと思いながら、奏翔の体に抱きついていく。


 「柚羽、重いんだけど?」

 「聞こえないー!」

 

 奏翔はため息混じりに不満を漏らしていたが、私は至福の時を堪能していた。

 

 私に伝わってくる奏翔の温もり。

 そして、お風呂上がりのシャンプーと混じり合った奏翔の匂い。

 

 これは私だけのもの。

 ここは私だけの安息の場所。


 奏翔は私だけのもの……。


 「……そろそろ離れてほしいんだが?」


 声からして心の奥底から思っていることだろう。

 

 「やだ!」


 奏翔の体に顔を埋めながら答えるとお馴染みのため息が聞こえてきた。

 微かにそのため息が耳にかかり、体がゾクゾクと震えそうになっていた。

 

 「奏翔もたっぷり私を堪能してもいいんだよ? 我慢できないなら乱暴に服を脱がしても……」

 「するわけないだろ……本当にどうした、何か今日のおまえおかしいぞ?」


 それは自分でもわかっている。奏翔にはっきりと「欲求不満だから解消するのを手伝え!」って言えたらどんなに楽だろうか。そもそもはっきりと言えるならこれまで通りの遠回しなやりとりはしない。


 ——奏翔にとって私は付き合いの長い単なる幼馴染でしかない。

 

 それに奏翔はすごいモテる。だってカッコいいし。

 だから色々な女の子から告白されたのを見てきた。

 けど、彼は全て断ってきた。たまに無視をすることもあったけど……。


 そして、断られた女の子たちは気がつけば奏翔から距離を置くようになっていった。

 よほど奏翔が断る時にひどいことを言ったのか、断られたショックなのか……

 私にはわからない。


 ——だからこそそうなるのが怖い。


 私は奏翔のことが好き、大好き、愛してる……

 子供の頃からずっと、この気持ちは変わらない……!

 ずっと奏翔と一緒の隣にいたい!

 

 けど、ずっと自分の気持ちを彼に伝えることができずにいる。

 だって、奏翔から断られるのが怖いから……

 もし、他の女の子と同じように奏翔に自分の思いを伝えて断られたら、今までのように一緒にゲームしたり、お出かけしたり……えっちぃ事を言ったり、やったりして奏翔をからかうこともできなくなってしまう。


 でも、今まで奏翔に告白してきた子達と違うのは、私の傍には常に奏翔がいる。

 口では不満や文句を言っても私のわがままを聞いてくれる。

 だから、このままでもいいかなと思う反面、やっぱり奏翔には私の気持ちを知ってもらいたいと思っている。


 「……変じゃないよ、奏翔と一緒にいたいだけだよ! いっそのことこのまま奏翔のベッドまでいっちゃう?」

 「お断りだ、この前は寝不足になったんだぞ」

 「だってそれは奏翔が反対側を向いてからじゃん! 別に私を抱き枕のようにしてもよかったのに」

 「できるか、そんなこと……」


 奏翔は私から目を背けていた。

 何となく顔が赤い気もする……?


 「……それに、奏翔も私と一緒にいたいんじゃないの?」

 「何を根拠に言っているんだ?」

 「だって、本当に嫌だったら奏翔の場合、意地でもどかせるでしょ?」

 「やってもいいけど、夜な夜な変なことされたら嫌だから、我慢しているんだ……わかってるならどいてくれ」

 「えへへ」


 さすが奏翔、私のことをよく知っている。


 「ほら、奏翔も私のことをぎゅーってしてよ」


 彼の体に埋めていた顔をあげると、彼に向けて両手を広げる。


 「……拒否権がほしい」

 「柚羽ちゃんの前での選択肢は『はい』もしくは『イエスマム』しかないんだよ」

 「バグだらけだな、責任者呼んでこい……」

 

 全てを諦めたような表情で奏翔は私の体を抱きしめた。


 「これ以上何かするのはめんどくさいからあとは好きにしろ……」

 「今、好きにしろって言ったよね!? それって何でもって解釈をしても——」

 「くだらないこと言ってるとここから離れるぞ……」

 「えー! やーだー!」


 急いで彼の背中に腕をまわす。

 ヤバい……マジでヤバい。

 奏翔の体に密着した途端、頭のネジが全て吹っ飛びそうになるぐらい気持ちいい。

 油断したら、変な声が出ちゃう。

 

 「……あのさ、奏翔」

 「もう終わったのか? それなら……」

 「奏翔の服脱がしていい? もちろん私もぬ——」

 「——俺、部屋にいくわ」

 「やーだー! いっちゃだめー!」

 

 結局、寝る直前まで私は奏翔を離すことはなかった。

 ちなみに、長い間奏翔にくっついていたことで欲求不満が解消されたのか、次の日は気持ちの良い朝を迎えることができた。


 「うん、目覚めバッチリ! 欲求不満も無くなってスッキリしてる!」

 

 ——いつかは、奏翔にはっきりと言えるようになりたいなと思いながら私は体を起こした。

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