5/125
20世紀シーン1 若山編
タネは口には出さないが、息子の一志はもうこの世に居ないとは感じている。しかし、その息子が生きていると言う強い思いが無ければ、自分の精神はとっくに崩壊し、僅かにある畑の管理と苦しい生活から逃げ出し、この世を去っていただろう・・若山は、見ず知らずの自分に優しく接してくれたタネの元にしばらく身を置く事にしたのだった。
タネの田は、荒れ放題で、僅かに耕作している土地に、芋、たまねぎ、人参等少々植えているだけだった。若山は、荒れた畑、田を開墾して行く。それでも二人が生活して食べて行くには、到底足りなかった。タネの知人であると言う漁協関係者の紹介で、早朝の魚市場での仕事をする事となった。
「しんどいじゃろ?」
初老のタネの知り合いである、君長友太郎と言う男が若山に声を掛けた。