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一話 『少年』

 葉が落ち蝉が熱を連れてきた。ある日、少年は処刑場で伏していた。

 彼の名前は『影塚青(かげづかあお)』のちに倭に夜明けをもたらす男である。


 ――数日前、ある田舎町で騒ぎが起きていた。

 それは歓声と罵声が入り交じり、彼らは向ってくる馬車を取り囲むようにしていた。


 馬はゆっくりとその足を止め、民衆の前へ来た。

 それと同時に、護衛についていた軍人たちはラッパを吹き始める。

 洗礼され綺麗にそろった音の中、馬車の扉が開いた。


「皇国臣民の諸君、お出迎えありがとう、ありがとう」


 中からは、中太りの身なりの綺麗な男が出てきた。

 男は河路憲利――三代目内務卿である。


 内務卿の姿を見るや否や、ある少年が腰に携えた刀を抜き、鬼の形相で走ってくる。


「――内務卿!! 」


 ――瞬間空中に何かが飛んだ。

 先ほどまで歓声や罵声をあげていた民衆の顔、体に血しぶきが飛んだ。

 馬車に横たわる内務卿の体を見下ろそうと目を向けようとすると、少年に護衛についていた軍人らが飛び乗り、抑えつけた。


「内務卿! おまえの最期はあっけなかったな、この国はようやく夜明けを迎えるぞ」


 少年はそれでもなお天を仰ぎ、満面の笑みを浮かべ叫んだ――


 ――まだ陽が顔を覗かせて間もないころ。

 少年はある処刑場へと連れていかれた。そこは、幕末、統一戦争の際に数々の逆賊がその生涯に終止符を打った場所である。

 そこに彼はただ座り、地を眺めていた。


「お前が影塚青か、大衆の前でワタシを殺すとは、大したやつであるなあるな」


「は……? おまえは確かに俺の手で殺した。馬車に横たわるおまえを俺は見たぞ」


 処刑を待つ少年の前には、彼が殺したはずの男が確かにいた。


「――影塚氏よ、ワタシがそうやすやすと大衆に身をさらすと、そんなにも愚かな人間に見えるかねかね」


 少年は悲しそうに、悔しそうに地に伏した。

 処刑人はそんなこと構うことなくただ刀を首元へあてた。

 少年の首筋に鋼の冷たい感触が伝わる。


「天は決しておまえを許さない、おまえの父の愚行、それを継いだおまえを決して許さない」


 そう言い終わると少年は目を深くつむり、執行を待つ。

 処刑人は刀を振り上げ、少年の首を――――


「あ、あ、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


「痛い、痛い、は、母上! 」


 少年の首に刀を振り下ろしたはずの処刑人の声が、あたりに響き渡った。

 少年には何が起こったか全くわからなかった。そのため目を恐る恐る、ゆっくりと開いた。


 そこには少し白髪の目立つ、長身の男が立っていた。

 男の手には刀がしっかりと握られており、血が滴っていた。


 処刑人は地面にうずくまっていた。

 良く見ると彼らの腕は両腕とも欠損している。


「おい小僧、おまえなかなか肝が据わってんな、内務卿暗殺なんざ考えても普通出来ねェさ」


「あ、あんたは一体……」


 少年が質問を問いかけようとしたとき、馬の走る音がこちらに近づいているのが分かった。


「小僧、話はあとだな、今は私についてこい、おまえに拒否権はないぞ」


 笑顔で少年の手をつかみ、近づいてきた馬車へ飛び乗った。

 少年の新たな人生が始まった、そんな瞬間であった。

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