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男の娘が魔女になって大変な目に遭う話  作者: クエクト1030
1章 魔女社会というもの
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20話「黄昏に沈む部屋々々」

「《悲鳴で満ちる吐息(ゲシュライ・アーテム)》」


「『起動(シュタート)』:『青炎障壁(ファイアウォール)』」



 唸り猛る膨大な激流は二息で以てこの教室を血で染め上げる。


 一息。ヒルフとミコくんを除いた全ての魔女を水流で貫き。


 二息。貫いた魔女の血で以て槍を形成し、内より突き出で教室の四方八方へと血の串刺刑を下す。


 たった二工程。

 それだけで格下どもの四肢はうなだれて、ぴくりとも動かなくなる。


 魔女はある程度の損傷なら魂を元に肉体が再生する。「魔女の再誕」と呼ばれる魔女の力だ。

 けど、何でもかんでも再生出来るわけではないし、即座に再生するわけでもない。肉体の損傷が著しい場合や、本人の生存本能が弱い場合はそもそも再生出来ないこともある。


 内側から全身を血の槍でズタボロになった彼女たちは、はたして再生出来るのかな?




 まぁ。こいつらは別に生きてても死んでてもどうでもいいけど。




 有象無象の取り巻き共がぐたりと力を無くしていくのに対して、ヒルフは涼しい顔をしていた。


 何故なら彼女の周囲には青い炎が立ち上り、突き出される水流の悉くを蒸発させて血の槍から逃れていたからだ。


 青い炎は火属性、それもかなりの強い力……ランク4相当かな。


 私の《悲鳴で満ちる吐息(ゲシュライ・アーテム)》と同じ、ランク4の魔法


 ランクは基本的に魔法の「規模」を表し、規模が大きければそれだけあらゆる点においての「難度」が上がる事も意味する。


 厳密にランクそのものが威力や攻撃範囲を示すわけではないけど。まぁ大まかに、相応のランクの魔法でなければ、術者の魔力に差があろうとも、魔法の質の点で負けると言ってもいい。


 ヒルフの炎と私の水とがぶつかる音は破裂音にも似ていて、押し合うたびに周囲の足場を崩壊させた。


 同規模の高ランク魔法が衝突すると、こうして周囲に被害が起きる。



「なにこの規模の魔法……!?」

「わぷっ!!」



 カシャン。目の前の光景と状況を処理しきれていない彼の頭上で今日買ったポーションを砕き、内用液を浴びせる。


 液体が身体に染みていくと出血がみるみる内に収まるのが見える。

 どうやら想像以上の効果を持っているみたい、かなりの当たりだった。

 これが終わったら在庫があるだけ買っておきたいくらいだね。



「丁度今日買ったポーション!ミコちゃんは逃げてムネメと合流して!」


「は、はい!」



 彼は元気よく返事をして、一息でその場から姿を消す。


 「縮地」……ムネメが教えていた業術。


 業術の習得は魔法よりも才能に左右される所がある。


 凡人が必死に努力したら一年。天才なら見た瞬間に。

 そう考えると、ミコくんはかなり才能があるけど、本当の天才には言えないって所かな。


 それでも三か月で習得したのはすごい事。


 そのおかげで、彼はこの窮地から一瞬で離脱出来たんだから。



「いい男の子見つけたのねぇリーベ。可愛い子じゃない?」


「お前……よくもやってくれたな。今日こそ殺してやるぞヒルフ」


「あはぁ。あなたって相変わらず愚かなのね」



 一息で消えた彼を尻目に見るヒルフは、好奇心が次々と湧き出ているように見えた。


 それと同じように、私にも憎悪を向ける。


 私がこいつに憎悪を向ける道理はあっても、こいつらから誹りを受ける道理はない。



「イカれた鳥畜生(アルマ)が……」


「『起動』:『推力放出・火炎(シューブ・フランメ)』」


「待てっ、《押し寄せる流れ(シュトロ・ツバック)》!」



 ヒルフは火属性の推力魔法で飛行しながら逃走する。


 私もまた、操る水流の波に乗ってそれを追う。


 追いかけっこが始まった。




◆◆◆




 「魔法」とは命令式である「術式」を幾つも組み合わせて創り上げるもの。


 《魔力を水に変換する》《水を操る》《水の形状を固定する》……そういった命令式を適切に、的確にただ組み合わせていくもの。


 そうして作り上げた魔法は、様々な手段で行使される。


 1つ目は、魔法陣(サークル)魔法帯(ベルト)の形で展開し、魔力を通す事で発動するもの。


 魔法を発動する際の魔力制御を魔法陣や魔法帯に任せる事が出来るのが利点。他にも設置して罠にしたり、ミコくんのように連射するためな使い方もある。


 欠点は、陣や帯に書かれた術式は相手にも見えてしまうために、どのような魔法か看破されてしまう点。隠す方法もあるにはあるけど、そういうのは大抵が罠として使われるものだ。


 そしてもう一つ、魔法を発動するのにワンクッション挟む事で遅れるという点。

 これは戦闘においては致命傷になり得る。



「さて、ミコさんはどこにいったのでしょうか」


「待てって言ってるだろこのクソ鳥!」



 2つ目は、自身の中で全ての命令式を完結させ、魔力も全て制御するもの。


 これはそこそこ難しい代わりに、陣や帯の欠点がない。


 真昼の位階以上の魔女が戦うとなれば、最低限必要になるだろう。



「ふむ、あちらでしたか。邪魔しないでくださいねリーベさん。『起動』:『物質干渉マテーリエ・マリプリエン封鎖(シュペーレン)』」


「っ、壁が塞がって……!《百鬼夜行を引き裂いてアウスアイナイダーファレン》!」



 3つ目は、魔法道具を使用する事。


 魔法道具は言ってしまえば、魔力さえあれば誰でも魔法を使える道具。


 陣や帯と似た役割だけど、使用者がその魔法を知らなくても使える利点がある。


 けどヒルフのように製作者レベルの魔女の場合、道具に頼らなくても魔法が使えるという事を意味する。


 そして、その大抵は魔法道具と魔法を使い分ける頭を持っている事を指していて──



「『複数起動(モルチ・シュタート)』:『貫通装填ペネタツィオン・ザッツ』『速度削減球ゲシュウィンディヒカイツィディウォン』」



 こうやって、複数の魔法をほぼ同時に繰り出せる事を意味している。


 ミコちゃんも使っていた、力属性によって貫通能力の付与を行う魔法陣を展開。

 続いて闇と水の複合属性による、触れたら速度を減少させる弾丸が無数に連射される。


 貫通能力がある癖に、触れたら遅くなるんだから質が悪い。


 もし私が貫通能力を防げる程の物質的な防御魔法で対処したら、そっくりそのまま今度はその防御魔法の産物が障害物になってしまうだろうね。

 そうなれば廊下が封鎖されて、追跡に一手遅れてしまう。



「《弾よ避けろ(アンフライ・クーゲル)》」



 だから、風属性の弾避けの魔法を使う。


 無数の弾丸が私を避けていき、背後から何回もガン、ガンと言った着弾音が遅れて木魂する。


 ちなみに《貫通装填》と《弾よ避けろ》は特許が出されている魔法。


 ヒルフとミコちゃんとで発動名が異なるのは、魔法や魔法道具を使用する際の呼び方は自由に設定できるから。


 極端に言えば、別に発動名を決めなくても魔法は行使できる。

 相応の魔法への習熟や魔力操作の技術があればね。


 でも発動名を通して使わないと、使おうとした魔法とは別の魔法を使ってしまう事故が起きる事がある。


 だから、大抵の魔女は発動名を必ずつけて詠唱・行使する。



「はぁしつこいですね。あ、また反応が消えて……ふむ次はあちらですか。そう遠くまで一度に移動出来ないようですわね」



 こいつは研究の成果物を格納魔法で無数に貯め込んでいて、随時取り出して引き撃ちしてくる。


 格納魔法は空間魔法に類する高度な魔法だ。


 そして空間魔法は、術式の構成によって使用出来る空間の広さが左右される。

 当然、広大な空間を維持するには相応の魔力を必要とする。


 現時点で前に引き出させた魔法道具の数の半数が見えてる。


 だというのに、まだまだ余裕がありそうな風体。

 あれからどれだけ魔法道具を作って、どれだけ空間魔法を拡張したの?

 魔法道具にも使用には魔力は必要だ。格納魔法で魔力結晶を貯蓄してるのか?







「怖いわねぇ、復讐鬼さん」


「今すぐその口を塞いでやる」


「……あら?」



 追跡は数分に渡り続いた。


 その間も私の水流魔法とヒルフの魔法道具の力がぶつかり、教室が数室消し飛んでいった。

 ミコくんを逃がしてからこれで何室目だろうか。


 そうして攻略に苦慮していると、私の耳元にフレスノちゃんの声が届く。



『リーベ先輩、聞こえてますか!ミコちゃん回収しました、気絶しちゃいましたけど今再生ポーションで腕を再生させてます!』


「了解、ありがとう」



 肩の荷が降りる。


 フレスノちゃんは音属性の通信魔法の使い手。フレスノちゃんとの限定になってしまうけど、私と彼女とで会話をする分には遠隔でやり取りができる。


 この前教えてもらった最大通信距離は学園の端から端を優に超えている。だからこれは私の交戦範囲から確実に離れた場所に保護したという事であり──同時に、巻き込むことをもう気にせずに戦えるという事を意味している。



「あら。お仲間……あぁいえ。"家族"からのメッセージが届いたのかしら」

「フレスノさんは確か、音属性魔法が得意なのでしたわね」



 ヒルフは随分と含みのある言い方をした。


 音属性魔法が得意というのは、その大抵が「精神干渉魔法が得意」という意味で捉えられる。

 精神干渉魔法のカテゴリの中には暗示・洗脳があって、それらは当然忌み嫌われるわけだ。


 誰が他人の心を操る魔女を好き好むのか、という話。


 でもフレスノちゃんは音を媒体とした通信手段が得意で、好きで。

 それを基に遠地と遠地とを繋ぐ、素敵な夢を持っているだけなのに。



「アナタって本当に私の神経を逆なでするのが得意なのね。それも辺境伯はクヴェーレ家の教えなのかしら。それとも、所詮獣畜生(アルマ)の鳥頭だから、人間の機微は理解出来ないって事?」


「まぁ、嫉妬かしら。リーベさんは故郷が滅んでらしたものね、それも仕方ないことですわ」


「あはははは」


「ふふふふふ」




 あぁ。こいつは、本当に。

 ムカつく女だ。




 私の故郷が消えてなくなった時。

 私の心には大きな喪失による穴と、身を焦がすような憎悪が生まれた。


 喪失によって生まれた穴は他者を求める欲求となり。

 喪失によって生まれた憎悪は他者を排する衝動となった。


 私の家族を奪った魔法生物。私の家族を害する魔女たち。その全てが憎い。

 そして、そんなものを信奉するものも同罪だ。死んで然るべきだ。


 死ぬのは、苦しむのは、決して、断じて。


 私の家族であるべきじゃない。




 コイツらであるべきなんだ。




「酷い顔ですわよ復讐鬼さん。まるで殺戮を楽しんでいるのかのようですわ」

「私たち獣人(アニマ)よりもよっぽど野蛮で残忍ではなくって?ふふふ」



 私はそれ以上言葉を紡がなかった。何故ならコイツとの会話は最早不要であり、私にとっての憎悪はこの女を「同じ心というものを持った生き物」として考えることを拒んだから。


 あぁ、そうだ。楽しいよ。

 お前たちのようなゴミクズを綺麗に洗い流し、必要な苦痛を与えて、惨たらしく殺していくのは本当に楽しい。


 そのために私は多くの魔法を作ってきたのだから。




 逃げる、追う。

 教室がまた一つ破損する。


 また一つ血溜まりが広がる。


 また一つ血の海が出来上がる。


 私の家族を傷つけた者も。そいつらを咎めることもしなかったものも。

 全て同罪だ。


 幾重幾本の槍が魔女を裁いて、彼女たちの罪を清めていく。




 フレスノちゃんが受けた偏見と差別。

 アンちゃんが受けた弱者への誹り。

 ミコくんが受けた苦痛と傷。


 フレスノちゃんとアンちゃんは統制されないヒルフ派のせいで、変身魔法で自分の姿を偽りながら授業を受けなければならない状況にあっている。


 ミコくんは、こいつのせいで腕を無くして苦しんだ。指が欠けていたから、あるいは拷問も……


 そして都合の良い時だけ他者を利用し、横暴を野放した事で生まれた哀しみも。




 全て、全て!

 全てはこの女が原因だ!

 ならばその全ての贖いは、今、ここで、支払わせるべきだろう……!


 足のつま先から生爪を引き剥がして。


 指を一本ずつ切り刻んで。


 腕を引き千切って。




 今まで圏域外派(私の家族)が受けた哀しみと私の恋人が受けた苦痛を死ぬまで……


 いいや。

 殺すなんて事は生易しい。

 回復魔法で再生させて何度も、何度でも。


 未来永劫、この世の苦しみという苦しみを味合わせてやる。



「────」


「ふふふ。今のアナタの顔すごいわよ?彼が見たらなんて言うのかしらね」



 幾室、幾路を駆けて。


 私の苦痛で出来た涙の槍を、怒れる血で染め上げる。


 そしてまた一室。




 血の海が生まれた。

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