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男の娘が魔女になって大変な目に遭う話  作者: クエクト1030
1章 魔女社会というもの
20/27

19話「逮捕監禁拐取事件」

「今日はありがとうございました。楽しかったです!」


「こっちこそ。喜んでくれて良かった〜」


「私はロビーに戻りますね。服を返してお化粧も落とさないと……」


「私も自室に戻るかな、買ったもの置いてくる。あとでロビーで会おうね」


「はい!」



 私たちは最初に待ち合わせた場所で解散した。

 まぁ?私は?このままベッドコースでも良かったけど?


 ……まだ明るいしね。

 ミコくん、雰囲気大切にしてるんだから、私だって合わせなきゃ。


 それに時間が多いって言ったのは私。

 ミコくんはもう私の彼氏なんだし、ゆっくり関係を進めてもいいよね〜




 ──そう思って、私は油断していた。

 私で愉しむ害悪がいる事を、完全に忘れて。




◆◆◆




「え、ミコくん戻ってないの?」


「えぇ。私たちもメイク落とし教えるために待機してたんですけど」


「……自分のお部屋に戻ってたり?」


「フー……それは俺が見てきた。ノックに反応無し。中にいる気配も無かった」


「「……」」



 嫌な予感がする。



「私、情報集めてきます。まだ離れてからそれ程時間が経っていないなら……何かあるはず」


「フレスノちゃん、お願い」


「ふふ、任せてください。可愛い先輩と後輩のために一肌脱いでやりますよ」



 メモを持ってフレスノちゃんはロビーから駆け出していく。



「わ、私は……」


「アンちゃんはここで待機してて。もしミコちゃんが戻ってきたらそれでいいからね。皆ちょっと勘違いして心配してるって教えてあげて、メイク落としとか手伝ってあげて。フレスノちゃんが聞いてるだろうから連絡は取れる」


「は、はいっ」


「俺はどうする。」


「ムネメ先輩はフレスノちゃんと同じく情報収集お願いします。もし見つけて何かあれば……」


「分かった。」



 ムネメ先輩はそれ以上の言葉を必要とせず、姿を消す。



「私も探してくる。アンちゃん、留守お願いね」


「はい、リーベ先輩もお気をつけて……」



 扉を開けて飛行を開始して素早く廊下を駆ける。




 恐らく──ミコくんは攫われた。




「必ず見つけるから、待ってて」




 魔力の探知範囲を最大範囲に広げて、私は学園を飛び駆けていく。




★★★




「いっ……つ……何でこんな頭痛い……あれ、ここどこ?」



 知らない場所にいた。

 知らない天井──と天丼してる場合ではない。どこだここ?


 周囲を見渡せば今いる位置は周囲をパーテーションで区切られていていて、全貌を望む事が出来ない事は分かる。天井と床は今まで教室で何度か見たものと同じ。講義室ではなく、どこかしらの学習室だろうか。



「おはようございます、リーベさんの恋人さん」


「……!」



 起きた僕の声に気がついたのか、パーテーションの向こう側から何人もの魔女が現れた。


 その中の一人が僕に声をかける。

 その魔女は、明らかに他と雰囲気が隔絶していた。


 黒く大きな翼を背に持ち、羽根を模した飾りが精緻に織り込まれている衣装を纏う魔女。

 計り知る事の出来ない魔力と、強者が持つ圧倒的な余裕から生まれる微笑みが僕の前にある。



「誰、ですか」


「初めまして。(わたくし)の名前はヒルフ・クヴェーレ。辺境伯クヴェーレ家の嫡女ですわ」



 辺境伯、という肩書きは初耳だった。

 後に知った話では、魔女の中にも爵位と領地という仕組みは存在しているらしく、僻地──つまりは魔女の圏域という安全な場所を守るのに必要な、外郭の防衛を担っているのが爵位を授けられた魔女だとか。


 最も、仮にその情報を知っていたとしても、この場の状況をどうする事もできなかったのだけれど。



「ヒルフ……ヒルフって、ヒルフ派?」


「えぇ、まぁ。ご存知ですのね」


「……この前あなたの所の魔女に襲われたので」


「あら?そうなのですか……そんな勝手な事をした子がいたのですね」



 ヒルフが静かに後ろの取り巻き睨むと、彼女たちは一歩下がって焦燥を見せる。

 その視線を向けられていない僕にもその焦燥の意味は分かる。


 圧倒的な実力差は、ほんの僅かな苛立ちであっても強い殺意と恐怖になって伝えるということ。

 それと恐らく……敬愛している人から向けられる、侮蔑の眼差し。



「無礼を働いたようですわね。失礼いたしました」


「あなたの下に集まっている人たちなら、あなたがしっかりと制御するべきではないんですか」


「私が集めたわけではないですもの。勝手に集まって勝手に私の名を借りて動いているのですよ」


「それなら尚更、自分の名誉のためにも私みたいな被害が出ないように努めるべきでは?」


「あら。どうして私がそんなことをしなければならないのかしら」



 ……?なんだ、こいつ?何か会話が噛み合ってないような。



「私に対して、襲ってきた取り巻きは襲撃を行った件に対して謝罪をしました。それはあなたにとって面倒ごとで、面目が潰れる事ではないんですか。それでも自ら舵を取らないと?」


「私の貴重な時間を彼女たちに割くわけにはいきませんから。今回みたいに、たまに使えることはありますけれどね」

「それに、勝手に集まって勝手に名前を使っている方々の勝手な行動で、私の面目も何もありませんわよ」


「……」

「なら、あなたが今ここにいて、僕がここにいるのは」


「えぇ。私が誘拐させていただきました」



 こいつ、やばい。

 都合の良い時だけ取り巻きを利用してそれ以外には責任を負わない?


 なんでこいつらはこんな奴に付き従うんだ。幾らでもお前たちに責任を押し付けて、自分は逃げるって堂々と言ってるようなものじゃないか。



「さて。幾つか質問させていただきたいのです」


「……何か?」


「先日。あなたの部屋で騒動が起きたという話を聞きましたわ。それも、膨大な魔力が感じられたと、多くの子から聞き及んでいますの」


「はぁ」


「あなたは朝日の魔女ですわね。それなのに、どうしてそんな魔力があるのかしら。今のその魔力は抑えているのでしょうか?」


「知りませんよ。ただあの時はリーベ先輩もいらっしゃいましたから、先輩の魔力と勘違いしたんじゃないですか?」


「嘘は良くありませんね」


「い"……っ!?」



 手に激痛が走る。


 視線を落とすと僕の指が転がっていた。


 僕の手から、離れて。



「〜〜っ!」


「その程度でしたらすぐに再生しますわ。あまり騒がれますと耳に障るのでお静かに願えませんこと?」

「ふう、ではもう一度聞きますわね」

「先日観測された魔力について、答えなさい」



 今度はドスの声と口調で脅迫してくる。


 そんな事言われたって知らないよ。

 ていうか「私」について話してもどうせ理解出来ないだろお前ら。

 僕だって理解出来てないんだぞ。



「知ら、ない!私だってそんなの分からない!」


「あら……それは嘘ではないのですか……困りましたね」

「けれど、知らないわけではないようですね?」



 さっきから答えへの反応が不自然だ。嘘発見魔法でも使ってるのか?

 電気の代わりに指落としってヤクザかよ。このエセお嬢様が。



「あなたが分かる範囲で構いませんわ。教えてくださいませんか?」


「拷問しといて教えてくださいですか。丁寧なんだが乱暴なんだか……」

「っつ……!!」


「乱暴してもいいのですよ?」



 また一本、切り落とされる。痛い。熱い。怖い。


 自分で自分を傷つけるのとは訳が違う。

 どこをどう痛めつけられるかが分からないから、恐怖と苦痛がすごく強い。


 怖い、誰か助けて欲しい。


 助けて……



「はー、はー……」

「……理解出来ないと、思いますけどね」


「あら。理解出来ないものを理解することこそ、研究者の醍醐味なのですよ?」


「はぁ、じゃあ言いますよ。善い事、善良な行いをする時、何故か魔力が湧き出る事があります。以上」


「……」



 ほら、嘘発見魔法で感知してみろよ。嘘じゃないぞ、ホントだぞ。

 馬鹿みたいだろ、僕もそう思う。なんだよこの力。



「何も嘘はついていない、ようですわね」


「だから理解出来ないって言ったじゃないですか。私だって理解出来てないんですよ」


「……」



 邪悪な笑みを浮かべる。


 ──あぁクソ、拙い。

 さっきこの女は言ってたじゃないか、理解出来ないものを理解しようとする事が醍醐味だって。



「ふふ、ふふふ」



 こいつ──僕を研究するつもりなんだ。

 簡単に拉致して、問答無用で指を切り落とす真似をする、非情さと実力を持ってる魔女なんだ。


 多分ここはまだ普通の教室、だから逃げられるチャンスは今しかない。



「《杖よ現れ──!」

「──は?」



 杖を現出させた瞬間、腕の感覚が消失した。

 僕は再び、目を落とす事になる。


 足元には杖を握っていた右腕が転がっていて。


 腕があった場所からは、大量の血液が流れ落ちるのだから。



「~~!」


「遅いですわね」



 後れて激痛が襲い掛かる。

 身体から丸ごと血液が失われた事で視界の明滅が起きて、意識が揺らぐ。


 ここで気絶するわけにはいかない。


 そもそもここはどこの教室なのか。

 せめてここから出て人目に付かないと、助けを呼ぶことも、気がついてもらう事も出来なくなる。



「それともう一つ。」

「あなた、男でしょ。性別隠しの香水が酷く鼻につくのよね」


「──っ」


「ふふ、うふふふふ!!」



 返答を待つまでもなく、ヒルフは繕う事もなく実に愉しそうな笑い声で部屋を満たす。


 恐怖で歪む僕の顔に視線を落としてまた嗤い、彼女はその邪悪な笑みを止むことなく浮かべて僕に近づき、僕の残った腕にその手をかける。




 その時だった。




 キン、という切断音が部屋を劈く。


 僕に向けられた音では無かった。

 ヒルフを除いた取り巻きたちはその音と気配(・・)にただ慌てて、混乱が部屋を支配する。


 二秒遅れて、ガラガラと壁が崩れ落ちる音が鳴り響く。


 部屋に存在する家具全ては続け様にバラバラに引き裂かれて。


 その犯人たる破壊者は臆す事なく、その姿と声を露わにした。



「──私の彼女を傷つけたのはお前か。ヒルフ」


「あら残念、お早い登場ですのね」


「リーベ、さん……?」



 荒れ狂う水流が部屋を満たしていく。


 その声と魔力には怒りが満ち溢れていて、水流は呼応するかのように激流となって乱暴に壁を粉砕し、家具を破砕する。


 その姿は鬼のようで、普段のリーベさんとは似ても似つかない姿だった。


 彼女の怒りが、殺意が。

 この部屋の僕を除く全ての存在へと向けられている事を全員が理解する。




 僕と「可愛い喧嘩」をした時とはまるで違う、真の力を奮う黄昏の位階の魔女。


 麗しくも恐ろしい、リーベ・ニヴルヘイムの姿がそこにあった。

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