3 同室者 ~ルームメイト~
高等寮は木造の二階建てで、横に三列、縦に七列ほど並んでいる。錬金専攻の寮は縦三列までが使われていると、アリスが説明してくれた。
「アーシェさんの部屋は、一番手前のこの寮にあります」
「一階ですか?」と、建物を見あげたままアーシェが尋ねる。
「いえ、二階だそうです」
「そうですか……」
「何か良くないことでもあるのですか?」
アーシェがアリスの方へ視線を合わせ、
「二階だと、外へ出ていくのが面倒だなと……」
「なるほど」と苦笑うアリス。「しかし、敵の奇襲も限られてくると思いませんか?」
「それはそうですね。放火や爆破でなければ、少し気が楽かもしれません」
普通にそう思ったから、アリスに言ったわけだけど、彼女はなぜか心配そうにアーシェを見やっていた。
だから、
「とにかく、大丈夫だと思います」
と言って、寮の玄関へと歩いていく。
両開きの扉をあけて、泥落としを踏んで廊下を進む。
廊下には等間隔に扉が並んでいて、学生らしい二人が立っていたから、アリスと一緒に挨拶を交わした。
二人は当然、こちらが物珍しいだろうから、挨拶したあともジッと見つめてきていた。
建物の中央に階段があって、そこを上って二階に向かう。
二階も同じような形の廊下で、やはり扉が等間隔に並んでいる。
アリスの部屋は、廊下の突き当りと言うので、突き当りに扉の前まで進んだ。
「――すみません」
ノックしたアリスが声を掛ける。
『は、はい!』
部屋の中から女性の声がしてきた。
「入っても大丈夫ですか?」
『はい! 大丈夫です!』
アリスが扉をあける。
アーシェはアリスの背中に付いていくように、あとから部屋へと入った。
「あれ……?」と驚く少女。
「どうかしましたか?」
アリスがキョトンとして尋ねる。
少女は首をブンブンと横に振って、
「い、いえ! すみません! その、初めまして……!」
と言って、深々とお辞儀した。
おさげの髪型で服も至って普通だ。そして背丈は、当然アーシェより高い。が、アリスよりは低く、普通くらいと言えた。
「私、メアリー・マケットニーと申します! 以後、お見知りおきを……!」
「はい、初めまして。アリスと言います」
「その……! こんなにも美人で素敵な方が同室だなんて、思いもしませんでした……!」
「あっ、私は大学の人間で、ここへは付きそいで来ただけですよ?」
「へっ?」
――どうやら、こちらの姿に気付いていないらしい。
まぁ、仕方ないと言える。荷物を持ったアリスの後ろに立っているし、相手はアリスを見あげている状態だろうし……
ひとまず、アリスの背中側から顔を出し、
「初めまして」と言った。
「あれ……? そちらの方……」と、メアリーが困惑している。
「この方が」と後ろを見やったあと、前を向いたアリスが言った。「今日からあなたの同室者となります。仲良くしてあげてくださいね?」
しばらくアーシェを見つめていた少女だったが、急にパッと表情が明るくなり、アーシェの傍へ寄ってきた。
「は、初めまして。あたし、メアリーって言います」
今度は落ち着いていた。
挨拶のために、アリスの前へ進み出てから、
「アーシェ・キャルロットと申します。卒業まで、どうか宜しくお願い致します」
そう言って、少し身を屈めた。
一応、アル・ファーム式の挨拶をしておいたが、どんな反応が返ってくるのか……
「アーシェちゃん…… いい名前だね」
両手に膝を突きつつ、こちらの視線の高さに合わせてから、メアリーが言ってきた。
「荷物、こちらに置いておきますね?」
アリスがそう言って、アーシェの足元へ持っていた鞄を置いた。
「あ、どうも、ありがとうございます」
「それじゃあ、私はこれで。何か困ったことがあれば、知らせてくださいね。出来る範囲でお手伝いさせて頂きますから」
「大丈夫です!」
こちらが『はい』と返す前に、メアリーが先に言った。
「あたしがちゃんと見ておきますので、先輩はご安心を!」
「そ、そうですか? 頼もしいですね」
「お任せください!」
なぜか自信満々に言うメアリー。
アーシェが、小首を傾げてそれを見やっていると、アリスがまた一声かけてから退室した。
「この鞄、アーシェさんの寝床の近くへ持って行きますね?」
そう言うなり、頼んでも無いのに、置いてあった鞄を二つ持たれて運ばれた。
――まぁいい。
部屋の中を見渡すと、思っていたより広く、寝床が四隅の両側に寄せられる形で設置されてあった。そうして、寝床のベッドの足元には机がある。扉と窓の位置を除けば、家具も含め、左右対称と言えば左右対称の内装であった。
「ここへ置いておきます」
「ええ、ありがとうございます」
「――えっと、アーシェちゃんはもう、学園の中を見てまわったのかな?」
少々、落ちつかない様子でメアリーが言った。
部屋にいてると気まずくなってくるかもしれない…… そう考えたアーシェは、
「エルエッサムに到着してすぐ学園へ立ちよったので、まだ見てませんね」
「明日から授業だし、案内してあげる!」
「え、ええ。お願いします……」
見た目から大人しい女性だと思ったのに、見た目通りと言うわけでは無いらしい。
ただ、彼女の提案は願ったり叶ったりだった。
一人で学園を歩くよりも、誰かと歩いている方が自然で怪しまれないはず。
さっそくアーシェは、メアリーと一緒に部屋を出て、寮も出た。
「そういえば」
隣を歩くメアリーが言ってきた。
「アーシェちゃんは、どこのご出身ですか?」
「アル・ファームの首都、リボンです」
「リボン……! 大人っぽいのはそのせいなんですねぇ……」
「――メアリーさんのご出身は?」
無論、彼女の出身地はすでに知っている。ここで尋ねたのは社交辞令と言うか、尋ねるのが自然だと考えたから尋ねた。
「えっと~…… 分からないかもしれないけど、ケーテルンと言う国から来たの」
「ケーテルン公国ですか?」
「えっ? 知ってるの?」
「一応、エルエッサムの近隣国は把握しています」
「さ、さすが主席合格の天才少女……」
「――あの、どうして主席合格だと分かったのですか?」
「え? それはその~……」
アーシェが、メアリーが視線を外したあとも、ジッと彼女を見つめていた。
それに根負けしたのか、メアリーが観念した様子で、
「ちょっと噂になってたから……」と打ちあけた。
「噂?」
「その…… うちの学園って高等部受験で入学してくる人と、中等部や小さい頃から、学園でずっと勉強してあがってきた人で派閥が出来てるの」
「学徒抗争にも発展した派閥ですよね?」
「そんなことまで知ってるんだ…… 凄いね、アーシェちゃんは……」
「海外でも報道されたくらいなので」
「それなら、ご両親はよくこの学園への入学を許可したね? 反対とか心配とか無かったの……?」
「両親は、すでに他界しております」
メアリーの足が止まった。
アーシェは『しまった』と感じ、すぐ振り返って、
「お気になさらず。どうせいつか、どこかでお話をしていたと思います。同室者ですから」
「そ、そうかな……? 御免ね、よく分からず訊いて……」
「お気になさらず。――それより、派閥がどうして噂に関係していたのです?」
「あぁ、えっと…… 今は表立って争っては無いんだけど、水面下では衝突してるみたいで…… 受験組の誰かが、編入試験の情報を先生から聞きだしたの」
「なるほど…… それで前もって知られていたわけですか……」
「あの、でもさ……!」メアリーが慌てた様子で言った。「アーシェちゃんは、そんな派閥なんて気にしちゃ駄目だからね?」
「心配なさらないでください、メアリーさん。私はそういうものに疎いし、全く興味ありませんから。加担する気もありません」
メアリーが、見るからにホッと一息吐いていた。それから、苦笑って、
「いやぁ~…… 本当にしっかりしてるなぁ~…… さすが主席合格…… なんかあたし、格好が付かないや……」
と、独り言のように言っていた。
――やはり、彼女は見た目通りの性格なのかもしれない。
とにかく、一緒に学園内を歩いていれば色々と分かるはず。それに恐らく…… いや、間違いなく、こちらのことも見た目通りだと思っている節があるから、そのうち正す必要がある……
アーシェはそう思いながら、メアリーと再び歩き始めた。
★多忙に付き、更新は週一の予定。(予定は未定)
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