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【30話】SSランク冒険者との決闘


 一週間後。

 

 王都から遠く離れた地にある広大な闘技場に、俺は立っていた。

 下は砂地。対面にはバイスが立っている。

 

 俺とバイスの決闘は、これからここで行われようとしていた。

 

「頑張れミケ!」

「負けたら承知しないわよ!」

「ミケくんなら必ず勝てると信じています」


 外周に設けられている観覧席から、パーティーメンバー三人の声援が聞こえてきた。

 俺は、ありがとうな、と言って小さく手を振って応える。

 

「随分と寂しい応援団だな」


 ハハハ、とバイスが笑ったとたん、観覧席からわぁっと女性たちの黄色い声が上がった。

 ざっと二十人ほどはいるんじゃないだろうか。

 

 応援の数で俺にマウントを取ってきた。

 でもそんなことを、俺は気にしない。

 

「声援は数じゃない。質だ。多ければいいってもんじゃない」

「負け惜しみを言いやがって。まぁそんなことはどうでもいい。準備はいいか?」

「あぁ。いつでも始められる」

「よし。……おい! 開始の合図を出せ!」


 観覧席に向けたバイスの声に、二人の人物が頷いた。

 

 一人は杖をついている年配の男性。彼は冒険者ギルドのギルド長だ。


 髪は白髪交じりで腰は曲がっているものの、瞳には鋭い眼光が宿っている。

 ただ者ではない雰囲気を放っていた。


 もう一人は、二十代前半くらいの女性だ。

 艶めく黒髪と美しい顔立ちをした、美人で大人な女性だ。

 

 胸元がざっくり開いた白色のドレスを着ている。

 スリットは深く、肉付きのいい白色の太ももがあらわとなっていた。

 腰には、サーベルを携えている。

 

 彼女の名はアンドレア。

『戦闘狂』という二つ名を持つ、俺やバイスと同じ、SSランク冒険者だ。

 その実力を高く買われて、現在は王家に雇われていると聞く。

 

 この二人が、俺とバイスの決闘の立会人だ。

 これより始まるのは、冒険者の最高峰であるSSランク冒険者同士の決闘。立会人にも高い格をもつ人物が選ばれていた。

 

「では…………始めッ!!」


 ギルド長の口から威厳のある声が響き、開始宣言がなされた。

 

「まずは小手調べだ。【フレイムエッジ】」

 

 バイスから放たれたのは巨大な炎の刃。

 通常の【フレイムエッジ】に比べ、その大きさは倍ほども違っていた。

 

 バイスの魔法を間近で見るのは初めてだったが、実力が並外れているということがこの一撃だけでも十分に分かる。

 

 しかし俺も、SSランク冒険者。

 バイスの強力な魔法にも、決して遅れを取ってはいなかった。

 

 【身体機能極限解放(オーバードライブ)】を発動した俺は、炎の刃を拳で叩き落とす。

 形が大きいだけでなくその威力もとてつもなかったが、俺にとっては問題なく対処できる範囲だった。

 

「まだまだいくぜ! 【フレイムエッジ・クワトロバースト】」


 先ほどと同じ巨大な炎の刃が、四本同時に俺を襲ってきた。

 一つ一つが強力な威力を秘めている。

 

 それに対し俺は、微動だにしなかった。

 飛んできた四本の炎の刃、そのを全てを拳を使って叩き落とした。

 

「俺様と同じSSランク冒険者をこんな魔法で倒せるとは思ってなかったがよ、まさか拳ひとつで対処されるなんてな。正直ショックだぜ」


 そう言いつつも、バイスはまったく落ち込んでいなかった。

 表情にはたっぷりの余裕がある。

 

 こいつはまだまだ、本気を出していない。

 

「バイス様! そんなやつとっとと倒しちゃってください!」


 観覧席から上がった黄色い声に、バイスの口元が楽し気に歪む。

 

「もう少し楽しみたかったが……悪いな。エレメントマスターとしての本領を発揮させてもらうぜ!」


 バイスは前方に、水に包まれた巨大な火の玉を生みだした。

 火属性と水属性を融合させた魔法だ。

 それは通常、ありえない光景だった。

 

 魔法の基本原則は、一人一属性。

 一人の人間が使える魔法は、生まれ持った一つの属性のみ。それ以外の属性の魔法を使用することはできないとされている。

 

 だがバイスという男は、その原則の外にいた。

 

 バイスは火・水・土・風――四属性の魔法を扱うことができる。

 四属性魔法すべてを制する者、ということから、エレメントマスターという二つ名で呼ばれている。

 

「これは俺様の得意技でな。水属性と火属性、両方のダメージを相手に与えることができる優れものさ! いくらお前でも、こいつをまともに食らえばタダじゃ済まねぇぞ!」

「やってみろよ」

「ハッ、大した自信だぜ! だが強がりを言えるのはここまでだ! さっきまでの魔法と同じと思うなよ!! 【タイダルフレア】」


 水に包まれた巨大な火の玉が、地面に広がる砂を散らしながら押し進んでくる。

 

 初めて見る魔法だ。

 恐らくこれは、バイスが生みだしたオリジナル魔法だろう。

  

「これで目障りなお前ともお別れだ!」

 

 バイスは笑う。

 勝利を確信して疑っていない。

 

 火の玉はおぞましい音を立て、俺を食らおうとただ一直線に向かってくる。

 

 それを目の前にしても、俺は動かなかった。

 炎の刃のときと同じように拳を叩きつける。

 

 爆音とともに火の玉は破裂。

 水属性と火属性――異なる二種類の属性が俺の全身を襲った。

 

 しかし。

 

「……こんなもんか。思っていたよりも弱かったな」


 バイスの放った異次元の攻撃魔法【タイダルフレア】は、確かに俺に直撃した。

 とてつもない威力を持っていて、これまで見てきた攻撃魔法の中でも最高レベルだったのは間違いない。

 

 だがそれでも、俺には欠片ほどのダメージも入っていなかった。

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