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【27話】副会長との決闘

 

 学園内には、生徒同士が模擬戦闘訓練を行うための施設が設けられている。

 それがここ、ドーム型の模擬演習場――通称デュエルホール。

 俺とイザベラの決闘は、そこを貸し切って行われることになった。

 

 広大なその施設の床は、硬質の石でできている。

 周囲には遮蔽物も障害物もいっさいない。

 

「二人とも頑張ってねー」


 二階の観覧席から、シオンがエールを送ってきた。

 

 その隣では、イレイスとリリンが口喧嘩を繰り広げている。

 どうやらイレイスの『淫乱メス豚ぶーちゃん』に発言にキレたリリンが、ぶーぶー噛みついているみたいだ。

 

「よそ見するとは、ずいぶんと余裕があるのだな」


 そう言うイザベラの表情にも余裕があった。

 四年Cクラスのワーストワン、『底辺クン』に負けるはずがない、とでも思っているのだろう。

 

 SSランク冒険者としての俺を知らない彼女にしてみれば、まず当然の反応だった。

 

「準備はいいか? ミケル・レイグラッド」

「はいはーい。いつでもどーぞ」


 気の抜けた返事をする。

 俺にはやる気の欠片もなかった。

 

 勝利すれば生徒会に入れるというこの戦いだが、そもそも俺は生徒会に入りたくない。

 勝ちたくない俺は、最初から負ける気でいた。

 

 しかしここで重要なのは負け方だ。

 決闘が始まった瞬間に降参するのが、最速でムダがなく理想的。

 

 しかしだ。あからさまにわざと負けたらイザベラのプライドを傷つけてしまうかもしれない。

 

 そんなことをすれば彼女の性格からして、ひと悶着起こしてくるだろう。

 

 だから降参するのは、一撃もらってからだ。

 大きなダメージをくらったフリをして、負けを宣言する。

 

 そうすればイザベラのプライドも守られて、俺も生徒会に入らなくて済む。二人とも傷つかない最高の結果だ。

 

「では……行くぞ! 【ロックブラスト】」


 イザベラが仕掛けてきた。

 大きな岩の塊が、俺に向かってまっすぐ飛んでくる。

 

 これを食らって降参宣言だ。それでこの意味不明な決闘は終了となる。

 

 しかし流石に生身で受けたら怪我をしそうなので、俺は【身体機能極限解放(オーバードライブ)】を発動。

 向かってくる岩を、万全の状態で待ち受ける。

 

「どうした! 回避行動くらい取ったらどうだ!」

「ウ、ウゴケナイ」


 怖気づいて身動きの取れない人間を演じてみる。

 生まれてこの方わざと負けるようなことはしたことがないので、かなりの棒読みとなってしまった。こうなればもう、イザベラにバレていないことを祈るしかない。

 

 岩が俺に直撃する直前。

 床をつま先でチョンと蹴って、後方へと飛んでいく。

 岩によって吹き飛ばされた、という状況をわざと演出してみせた。

 

 五メートルほど後ろに飛んで見せた俺は、苦悶の表情(これもひどい演技になってしまった……)を浮かべてからその場にうずくまる。

 あとは降参宣言をすれば、もうおしまいだ。

 

「な、なんて威力……。これ以上は戦うのは無理だ。俺は降参――」

「ミケ―!!」


 観覧席のシオンが大きな声を上げた。

 悪だくみしているかのような、いたずらな笑みを浮かべている。

 

 なんだろう……嫌な予感がする。

 

「これからは僕、冒険者の依頼をこなすときは白いローブは着ていかないよ! 今度から水着で行くことにしたから!」

「――!?」

「それが嫌だったら勝ってみせてね!」


 討伐目標を倒したら、シオンは毎回抱き着いてくる。

 もしそれが、水着姿だったら――そんな想像をしただけで、俺の顔は真っ赤になってしまった。

 

 想像するだけでもこんなになっているのに、もし実際にそれをやられたら……。

 俺はどうなってしまうのだろう。もしかしたら死んでしまうのではないか。

 

 シオンの野郎……! とんでもない脅しをかけてきやがって!

 

 依頼をこなすたびに、そんな思いをするのはごめんだ。

 絶対に阻止しなければならない。

 

 口に出そうとしていた降参宣言を、腹の中へと戻した。

 

「どうした? 降参するのか?」

「そうするつもりだったけど……予定変更だ」


 すくっと立ち上がった俺は、イザベラをまっすぐに見る。

 

「あなたには悪いですが……この決闘、俺が勝たせてもらいますね」

「…………貴様! よほど私を怒らせるのが好きらしいな!!」


 余裕を浮かべていたイザベラの表情は一転。

 完璧にブチギレていた。

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