【24話】噂の転入生
二章開幕です!
この辺からハーレム要素が少しだけ出てきます!
俺が前世の記憶を思い出してから三か月。
シエルテ魔法学園は、とある人物の話題で持ちきりとなっていた。
そいつは、一か月前にこの学園に転入してきた十七歳の公爵令嬢だ。
編入試験で史上最高得点を叩き出し六年Aクラスに配属されるという、なんともド派手なスタートを切った。
その時点でかなり話題になっていたが、これはまだまだ序の口。
話題が本当に盛り上がったのは入学後だった。
実際に見たことがないから分からないが、彼女は誰もが振り向くような魅力的な容姿をしているようだ。
しかもそれだけでなく、誰にでも分け隔てなく優しく慈愛の心に満ちている、女神様のような美少女らしい。
魔法力も外見も中身も、文句のつけようがない最高ランク。
そんな彼女は六年Aクラスの中はもちろんのこと、その枠を飛び越え学園全体の人気者にまでなっていた。
先日行われた生徒会長選挙において、ぶっちぎりのナンバーワンで当選したのがその証拠だ。
そういう訳で今の学園は、右を見ても左を見ても新生徒会長――転入生の公爵令嬢の話が飛び交っている。
しかし俺にとっては、どーーーっでもいいことだった。
フェスティバルのあの夜、イレイスとリリンの仲は確かにグッと縮まった。
それなのにだ……また元通りの険悪な関係になってしまって――それは今もなお続いている。
姉妹の件で悩んでいる俺には、他の生徒みたく転入生に夢中になっている余裕はない。
こちとら世界の命運を握っているんだからな!
時刻は午後一時。
俺は今、学園の中で一番大きな建物――大ホールにいた。
そこには俺だけでなく、シエルテ魔法学園の全生徒が集まっている。
これからこの場所で、噂の転入生である彼女――新生徒会長の就任式が行われようとしていた。
集まっている生徒たちは、キラキラとした瞳で前方の壇上を見つめている。
新生徒会長の登場を、いまかいまかと心待ちにしているのだろう――俺を除いては、だが。
「……めんどくせぇな」
誰にも聞かれないような小さな小さな声で、俺はボソッと呟いた。
床に向けられている瞳は、他の生徒と違って濁っている。
新生徒会長には会ったことがないが、どうせすかしたヤツに決まってる。
そんなヤツの挨拶なんて、心底興味がない。
「これより新生徒会長、シオン・リルーブ会長が登壇される。盛大な拍手で迎えたまえ」
進行役の副会長がそう言うと、大きな拍手の音が巻き起こった。
会場内を埋めつくす盛大な拍手が鳴るなか、一つの足音が聞こえる。壇を登っている音だ。
その足音が止むと、いっせいに拍手の音も止んだ。
「私はシオン・リルーブ。シエルテ魔法学園を導く役目を、新たに担うことになりました」
新生徒会長の声がホールの隅々まで響き渡る。
堂々としていながらも、どこか幼さを残しているような声だ。
この声は……!
その声は俺にとって、ずいぶん聞き覚えのある声をしていた。
Sランク冒険者であり俺のバディでもある、シオンの声そっくりだった。
気になった俺は、下げていた瞳を壇上へと向けてみる。
そこにいたのは、シオンにそっくりの外見をした人間。
しかも、俺の方を見て素早くウィンクまでしてきた。
名前も一緒だったし、まさかこの女……本当にシオンか!?
と驚くも、それは一瞬。
絶対にありえない、とすぐに否定する。
新生徒会長はシオンそっくりな姿と声をしていて、名前まで一緒だ。
でも、プリーツスカートを穿いている。さらに胸には二つのふくらみがあった。
もしシオンなら女子の制服を着ているのはおかしい。
それに、あいつの胸にふくらみがないことは(今までさんざ抱き着かれてきたから)確認済みだ。
なんたってシオンは男なんだからな!
だから壇上の美少女はシオンじゃない。
限りなく似ているが、別人だ。
ウィンクはきっと、俺の見間違いか何かだろう。
ビックリさせやがって。
シオンのそっくりさんに向けていた視線を、俺は再び下へ向けた。
やっとのことで就任式が終わった。
噂の新生徒会長がシオンのそっくりさんだったことには驚かされたが、結局は別人。
こうして終わってみれば、無駄な時間を過ごしただけだった。
ホールから出ると、元気な足音が後方から聞こえてきた。
明らかに俺に向かってきている。
振り向いてみると、
「ミケ!!」
俺の名前を呼んだそいつ――新生徒会長が、おもいっきり抱き着いてきた。




