【25話】転入生の正体
俺のことを『ミケ』と呼び、いきなり飛びついてくるヤツ。
そういうことをする人間に、俺は一人しか心当たりがなかった。
「シオン……!」
「令嬢教育の一環で、王都にいる叔父さんの家に預けられることになってね。それでこの学園に転入してきたんだ! まさかミケに会えるなんて思わなかったよ!!」
大興奮で語るシオンに、待て待て待て、と声を上げる。
俺はまだ大事なことを聞いていない。
「お前が着てるのって、女子の制服だよな?」
「うん、そうだよ」
「そうだよ……じゃねぇよ! 男のお前がそれを着ているのはおかしいだろ!」
「実はね僕、女の子なんだ」
「…………は?」
頭から白い湯気が上がる。
開いた口が塞がらない。
突然の告白に、頭の理解がまったく追いついていなかった。
「僕は小さい時から、お人形遊びよりも外で駆けっこするのが好な子どもだったのさ。でも、女の子なんだから危ないことは止めなさい、ってことあるごとに注意されちゃってね。それが嫌で、外では男を名乗るようにしていたんだよ」
「でもギルドカードには、『男』って……」
「ギルドへの情報登録は、すべて自己申告でしょ? 証明書もなにもいらないからさ、ごまかすのは簡単だったよ。この学園の入学手続きは伯父さんがやったから、こっちはごまかせなかったんだけどね」
あはは、と無邪気な笑い声が上がる。
その笑い方はシオンそのもの。赤い髪もオレンジの瞳もフローラルの香りも、全部が全部、目の前のこいつがシオンだということを証明していた。
しかし、胸のふくらみ。
これはシオンにはなかったものだ。
俺の視線は吸い寄せられるようにして、そこをじっと見てしまう。
それに気づいてか、シオンが「あー、これね」と声を上げた。
「冒険者をしているときは、コルセットで抑えつけているんだ。リリンよりは小っちゃいけど、イレイスよりは大きいはずだよ。確かめてみる?」
「ばっ、バカ野郎!」
顔を真っ赤にして注意すると、シオンは楽しそうに笑った。
ただでさえ頭が混乱しているというのに、シャレにならない冗談を言うのは止めて欲しい。
「それで思い出したけど、ミケがいるってことはあの二人もこの学園にいるんだよね。後で挨拶しに行かないと」
「その必要はありませんよ。オス猫改め、オスメス猫……!」
「公衆の面前でなにしてんのよ! いいから早く離れなさい!」
伸びてきた四本の腕が、シオンの体を俺から強引に引き剥がした。
それは、イレイスとリリンの両腕だった。
「怪しいとは思ってたけど、やっぱりあんた女だったのね!」
「去勢できない以上、体を切り刻むしかありませんね」
「うんうん! 今日も二人は元気みたいだね!」
まったくもって噛み合っていない会話をしていると、どこからか「会長!」とシオンを呼ぶ声が上がった。
「呼ばれちゃったから僕は行くね! それじゃまた!」
ひらひらと手を振りながら、シオンは走り去っていった。
「ちょっとこれどういうことよミケル!?」
「詳しい説明を要求します」
詰め寄ってくる姉妹は顔をしかめていて、怒っているのが丸わかり。
そんな二人に対し俺は、
「いや、俺も分かんねぇよ」
ありのままを答えた。
説明して欲しいのは俺の方だ。




