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ぽんこつ令嬢はタイムトラベラー ~婚約したくないと願ったらお相手のいけ好かない幼馴染が死んでしまったけど私のせいじゃない~  作者: 園内かな
第六章 婚約とタイムトラベル

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4.


 真ん中になって、二人の手を繋いで歩いていく。小さなリルルは歩きながら、半分寝ているようだ。眠いのだろう。

 するとアルが言う。


「おばさま、ぼく、リルルと手を繋ぎたい」


 リルルメイサは、ここぞとばかりに厳しいことを言った。


「リルルは嫌がるわよ」

「……! そんな……」

「うさぎのぬいぐるみ、盗ったんでしょ。しかも、隠して失くしてしまったでしょう。どうしてそんなことするの」


 小さなアルに詰めていくと、彼は俯いて涙声で答えた。


「リルルは、あのぬいぐるみを抱っこしてる時、いつも指を吸うから……」

「指を、吸う?」

「そうだよ。ずっと指吸いが治らないと、指がおかしくなるって聞いたから止めさせようとしたけど、全然止めなくて。おじさんとおばさんに言っても、そのうちしなくなるって全然気にしてないし」


 なんと、彼には彼なりの理由があったようだ。ただの意地悪と思っていたので、驚きつつ返事をする。


「そ、そうだったの。でもそんなやり方じゃただの意地悪と思われるし、嫌がられるから優しくしてあげて」

「……優しくしたって、全然ぼくのこと見てくれないもん」


 俯いてそんなことを言う男児は健気すぎて、胸が切なくなった。

 思わず、別離をオススメしてしまう。


「こんな面倒くさい女の子より、他の子と仲良くしたら? アルならもっと素敵な、可愛らしい子に好きになってもらえるよ」

「やだ!」

「嫌か~」

「うん。ぼく、リルルが好きだから。リルルにこっち向いてほしい。それに、健康でいてほしい」

「そっかぁ……」


 もうこの時から、彼は自分のことが好きだったのか。


 小さなリルルを見下ろす。我が子供時代ながら、ちょっと太りすぎでは? と思うくらいムチムチであった。欲しがれば皆が上限なしで与えるからだ。周囲の人は全員甘やかしてくれていた。苦言を呈すソフィアでさえ、最後には折れて『今回で最後ですからね!』と言っていた。


 厳しく接するのは、アルベールだけだった。

 ひょっとして、今痩せているのはアルベールが豚だデブだと罵ったからなのだろうか。

 考えていると、幼いアルがうるうるとした瞳でこちらを見上げて尋ねる。


「マーサおばさま、ぼく、リルルと結婚しても良い?」


 こんな風に問われて、否やと言えるだろうか。


「うっ、う~ん……、リルルが、良いって言ったらね……」


 将来の自分に丸投げしてしまった。そのツケが、この先にあるかもしれないと言うのに。

 小さなアルは喜んで聞き返してきた。


「ほんと⁈」

「でも、あんまり厳しく言わないであげて。傷ついて、アルのこと嫌いになっちゃうから」

「分かった! 優しくしたらリルル、ぼくのこと好きになってくれるかな!」

「あ~、うーーーん……、どうして、そんなにリルルのこと好きなの?」

「一緒に居たら面白いよ。それに、笑ってる顔が好き!」

「そうなんだぁ……」


 面白いってどういう意味なんだろう。遊んでいると楽しいとかそういうことだろうか。

 考えていると、外の開けた明るさが見えてきた。


「あっ! 出口だ!」

「ほんとだ!」


 子供たちはすぐに駆けていく。

 向こう側に、大人たちが居るようですぐ騒ぐ声が聞こえてきた。


「あっ、お嬢さま! アルベールさまも居るぞ!」

「リルルッ! よく無事で!」

「リルル、アル!」


 女性の声で名を呼ばれた。

 あれは! ハッとして見ると、あれは若き日の母マーサだった。

 お母さま。今は一体どこへ。


 しかしその姿を見て驚いたらしい小さいアルが足を止める。

 振り返る気配がして、リルルメイサは慌てて木陰に姿を隠した。

 彼らは母と誤解していたのだから、母と同時に姿を見られるのはマズい気がしたのだ。

 ふう、と木にもたれてから考えたのは、ここからどうやって帰るのだろう、ということだ。

 まあいつか帰れるだろう、と思って目を瞑って一息ついていると、声が聞こえてきた。



「お嬢さま! お嬢さまったら! どうしてこんな、屋根裏部屋で寝ているんですか!」


 ハッと目を開けると、元の屋根裏部屋に戻っていた。


「あれ、ソフィア。今日っていつだっけ……」

「お嬢さま、その質問今日二回目ですよ」


 ということは、日付は変わっていないのだ。

 少しうたた寝をしていただけなのだろうか。さっきまで見ていたことは、ただの夢だったのだろうか。


 自分は子供の頃、パンパンに太っていたがアルベールは可愛らしかった。思い出してフフッと笑うと、ソフィアが不審げに見る。


「あれ、お嬢さま。さっきまで憂鬱そうだったのに」

「そういえば、そうだったわね。でも、何だか心が落ち着いたみたい」

「そんなに急に?」


 アルベールは、あんなに子供の頃から一途に好いてくれていたのだ。それに、健康にまで気を配ってくれていた。あんな人は、他には居ないだろう。


「なんだかんだで私、アルベールには弱いのよね」

「んも~、お嬢さまったら。すぐ流されるんだから」

「うふふ。そうでもないわよ」


 婚約や結婚には不安かもしれない。けれど、アルベールのことは決して嫌じゃない。

 マリッジブルーと呼ばれた症状は、すっかり治っていた。

 夢だったかもしれないが、夢見が良かった。


 そう思った時に、ポケットの中でカサッと音がした。

 何の音だろうと手を突っ込んで見ると、チョコレートの包装紙が二つ。自分は食べていない筈なのに、空の包み紙だけが出てきたのだった。



おわり


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