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22話 タコさん、実験をする

 ナスキアクアの王宮。以前より豪華になった王座に座るのは、もちろんアレサンドラだ。その右後ろにはヴァレンティーナが付き、油断なく周囲に警戒を払っている。


 そんな彼女たちに向かって片膝をつくのは、未だ幼さの残る少年だった。実際、彼は先日成人したばかで、歳はアレサンドラとさほど変わらない。

 彼の名はジュリオ。とある理由によりラミアとなったアレサンドラたちに対して過剰な反応をしない、貴重な人材であった。

 そんな彼が、アレサンドラへ報告を読み上げている。


「アレサンドラ様、地方へ派遣する者の準備は整いました。明日より順次、出発致します」

 もともと、アレサンドラの叔父、レオナルドが王位を簒奪した時に、新しい体制を地方へ認識させる必要があった。

 だが、魔族と手を組んだことに対し反発があるのは予測できる。レオナルドはそれを軍事力で黙らせる予定だったので、追加の兵力を待っていたのだ。


 アレサンドラはその方針を変更し、基本的には平和的に交渉をする予定である。

 もちろん、派遣する者たちの護衛には半魚人を付けるし、ある程度の高圧的な態度が必要にはなることは想定していた。


「さてジュリオ、どれくらいが離反すると思う?」

「半分残れば良い方かと。……あなた方が出ればもう少し良くなると思いますが」

 それでも、ある程度の地方領主がこの国から離れることが予想できた。既に、何人かは他国へ接触を図っているだろう。

 しかし、彼らが持っているのはアレサンドラが王位を取り戻す前の情報だ。それ以降は他国へ情報が漏れないように、首都の出入りは制限している。

 ギルドの領地ならウインドウのマップで人の動きを把握できるので、シンミアたちにかかれば容易なことであった。


 そんな地方領主がラミアとなったアレサンドラのことや、タコという邪神の話を聞けば、国を離れる確率はもっと上がるはずだ。

 だが、実際にその力を目の当たりにしたらどうなるだろう。

 まさに神のごとき力を見れば、その心は揺れる。そこに食料援助や税金の徴収を一時停止することを持ち出せば、反抗できる者など多くは無い。

 それでも離反するのなら、後は好きにすればいいのだ。


「じゃあ、そうしましょうか。ティーナ、タコ様にお願いして石像をいただきましょう。それがあれば転移装置も設置できたわよね?」

「はい、レイン様からもそのように聞いております。到着の日は街ごとにずれるでしょうから、スケジュールも問題ないでしょう」

「やれやれ、真面目に考えるのが馬鹿らしくなりますね。そんなだから父上も負けたのでしょうが」

 その様子をジュリオはやれやれといった感じで見ている。

 国王が自らすべての地方領主に会いに行くなど、手間と時間を考えればできる訳がない。先の発言は半ば冗談のようなものだった。

 それがあっさり了承されてしまえば、呆れてしまうのも無理はない。


「おいっすー。サンドラちゃん、今空いてるー?」

「タコ様! 問題なんてありません、どうぞこちらに!」

 突然、空間が揺らいでタコとレインが出現した。

 ジュリオが驚いているのをよそに、大喜びのアレサンドラが来賓室の方に案内する。タコもそれに従い動こうとすると、見たことが無い人物が目に止まった。


「あら、この子はだーれ?」

「ジュリオと申します。初めまして」

「ああ、サンドラちゃんのいとこさんね。邪神タコさんです、よろしく」

 そう言ってタコが触手を差し出すと、ジュリオは気にせず握手を返す。

 その顔はいわゆる営業スマイルのような笑みを作っており、恐怖や不快感など微塵も見せてはいない。


「意外と無反応ね? これは肝が据わっているのかしら」

「ははは、父から魔族と交渉をするための指導を受けましたからね。姿が違うくらいで表情を変えるようなことはしませんよ」

 そう、彼はレオナルドの息子である。

 まだ若い彼は、反乱に直接参加したわけではない。しかし、将来的には魔族との交渉を任される予定があったため、何度か魔族と話す機会があったのだ。

 それがこういった形で役に立ったのは、なんとも皮肉な話である。


「それでも、このように可愛らしい方へは、胸の高鳴りを押さえることができません」

「あらあら、お上手だこと」

 分かりやすいお世辞でも言われれば気持ちが良いものだ。タコは来賓室に付くと上機嫌で椅子に座る。


「それでタコ様、ご用件はなんでしょうか?」

「そうそう、例の王子さんとの交渉は成功したわ。ニューワイズ王国の足止めは大丈夫そうよ」

「ありがとうございます! これでしばらくは内政に集中できますね」

 実際のところ、タコとアレサンドラの契約は、ナスキアクアを奪還した時点で終わったと言える。

 しかし、タコはそれで「はいサヨナラ」とするほど薄情ではないし、せっかくできたこの世界との接点を逃す手はない。


 そうなると、次に目指すべきはナスキアクアの安定である。王座を取り戻し、目先の人員はそろっているが、それでも問題は山積みだ。

 国内の混乱、人間の国との亀裂、魔族の国への対応、挙げていけば切りが無い。


 だが、元一般人であるタコに政治をどうにかするなど無理な話だ。ならば、できることをやるしかない。

 というわけで、他国に対して物理的な力を背景にした脅しや交渉。国内の物資不足をどうにかするのがタコの仕事である。


 ニューワイズ王国の足止めは、その第一段階だ。

 ナスキアクアは他の三大国家であるサン・グロワール帝国と、聖スプレンドルの本国とは結構な距離がある。

 それらに従属している小国も小規模な軍を送り出しているが、今のところ、天候操作やゴーレムなどで対応に問題はない。


「さて、引き続き政治的な問題はそっちでよろしく。その間に、ニューワイズ王国を本格的にどうにかしておくから」

 そして、レインの方はアレサンドラの相談役となっていた。政治の知識が深いわけではないが、タコよりはよっぽど思慮深く、頭を使うのも好きなためだ。

 それに、ギルドの機能などゲーム的な知識がアレサンドラたちには不足しているため、そういった部分の助言役も担っている。

 ちなみにアイリスはそういったことに興味がないので、「戦闘以外は指示されたことしかやらん」と、早々に宣言していた。


「あ、そうだ。タコさんやりたいことがあるんだけど、サンドラちゃん協力してもらえないかしら」

 とり急ぎの話も済んだので、タコが話を変える。以前から考えていたとある計画が形になったので、さっそく実行しようと考えたのだ。

 そもそも、タコがチャットで話を済ませず、わざわざここへ来たのもそれが原因である。


「タコ様のお願いなら喜んで。私は何をすればよいでしょうか」

「この街にある湖ってウンディーネちゃんがいっぱいいるんでしょ? 彼女たちを雇いたいの!」

「精霊を……雇う?」

 ジュリオはタコが何を言ってるのか分からず首をかしげる。そもそも、精霊は人間と契約しなければこの世界に干渉できないので、雇うどころか会話すらままならないはずだ。


「タコさんちょっと考えがあるの。精霊と契約する方法はサンドラちゃんが知ってるのよね? 検証も兼ねて色々と実験したいのよ」

 取り急ぎその質問には答えず、タコは話を進める。

 この場にいる全員の予定に問題が無いのを確認すると、レインが転移魔法を発動して皆をとある場所に転送した。



「と、いう訳で、ウンディーネちゃん勧誘大作戦を開始したいと思います」

 王宮の近くにある湖。反乱による被害はタコとアレサンドラが修復したので、以前と同じように澄んだ水をたたえていた。


 その湖畔に、大人の背丈と同じくらいの石が規則正しく配置されてる場所がある。

 これは、過去の王族が設置した魔法陣だ。ウンディーネと契約するための儀式を行う所であり、アレサンドラ自身もここで契約を交わしていた。


「うーん、なんとなくだけど精霊が集まってるのかしら?」

「ウンディーネ、何かわかる?」

「はい、タコ様の魔力に惹かれて皆が集まってきてますね」

 タコとレインは魔力を視覚化する魔法<魔力感知(センス・マジック)>を発動する。しかし、確かに何かが反応してはいるのだが、その正体までは分からなかった。

 こればかりはウンディーネの言葉を信じるしかないと、タコは魔法陣の中心に立つ。


「ではサンドラちゃん、実験その1よ。タコさんをここにいるウンディーネと契約させてみて」

「分かりました。『精霊ウンディーネよ、ここに契約を交わす、かの者と共に歩む道を作りたまえ』」

 アレサンドラが呪文を唱えると、湖が一部、意思を持っているかのようにせり上がる。

 水の柱となったそれは、まるでタコを観察しているかのようだったが、しばらくすると弾けて湖は元の水面に戻ってしまった。


「おろ? 何があったの?」

「多分、タコ様の魔力が強すぎて契約できないみたいです」

「ふむふむ、まぁこれは予想どおり」

 アレサンドラと契約しているウンディーネは、これでも数年以上の付き合いだ。アレサンドラ自身も同じだけ精霊使いの修行をしている。

 それぐらいの関係と実力が無ければ、精霊側も契約者の魔力を上手く使うことができないらしい。タコのように巨大な魔力を持つならなおさらだ。


 これで契約ができるならイカ達にも精霊と契約させて、戦力増強ができるとタコは考えていた。まぁ、そう上手くはいかないとも思っていたので失望は少ない。

 気を取り直して次の実験を行おうと、ジュリオの手を引っ張り魔法陣の真ん中に立たせる。


「では実験その2、ジュリオくんと契約させてみて」

「しかし、僕は以前に魔力不足でウンディーネとの契約に失敗していますが」

「いいのいいの、実験だから」

 アレサンドラが同じように呪文を唱えると、先ほどと同じように水がせり上がるが、今度は静かに水が下がっていった。

 どうやら。魔力不足や精霊と相性が悪いとこうなるらしい。ジュリオが以前契約しようとした時も、同じようになったそうだ。


「んじゃ、次はこれを装備して試してもらえる?」

 タコが取り戻したのは以前、アレサンドラも装備したことがあるオリハルコンの腕輪だ。さらに、今回は水属性の魔法を強化する改造も施してある。

 さてどうなるかとタコが契約を見守っていると、せり上がった水の一部が飛び掛かるようにジュリオの方へ向かってきた。


 水はそのまま彼の周囲をぐるぐる回ると、勢いよく右手に飛び込んだ。すると、そこから水色の光がほとばしり、周囲を明るく照らす。

 光が収まりジュリオの右手を確認すれば、契約の証である刻印が淡い光を放っていた。


「これは……いきなり3画ですか」

「やったー! 大、成、功ー!」

 彼の驚きをよそに、タコは触手を振り上げて喜ぶ。その横ではレインも興味深そうに契約の結果を観察していた。

 今までの所はタコの予想通りの結果が出ている。しかし、これはあくまで仮説の検証に過ぎない。

 さあ本番だとタコは気合を入れる。


「では、本命に行きましょう! レインお願い」

「はいはい。『マツリカ? あの子を送ってちょうだい』」

 レインが連絡すると目の前の空間が歪み、紫色をした半透明なゲル状の生物、お約束のような姿をしたスライムが現れる。

 これは、アルケミストの上位クラスである『クリエイター』が習得するスキル、≪スライム作成≫でレインが作ったものだ。


 ゲームではゴーレムなどと同じ、知能を持たない魔法生物という設定である。作成に使用する素材や制作者の能力により、それなりに強力なものも作成できた。

 しかし、ある程度は自動で動くゴーレムと違い、スライムは命令したことしか行なえず、その命令も移動と攻撃くらいしかできないという欠点がある。


「んで、この子にこいつを装備させます」

 タコはインベントリから宝石を取り出しスライムにくっつける。それはそのまま体内に吸収されて、ちょうどスライムの中心辺りで浮かんでいた。

 この宝石もレインが作った装備品であり、先ほどの腕輪同様の強化を施してある。

 もちろん、ゲームでは作成したスライムに装備をさせることなどできなかった。だが、ここは異世界である。ゲーム的な都合など関係ない。


「よし、おっけー! サンドラちゃん、この子をウンディーネちゃんと契約させて」

「うーん、できるんでしょうか? とりあえずやってみますね」

 アレサンドラが呪文を唱えると、先ほどのジュリオと同じように水がスライムの中に飛び込んでいった。その勢いは先ほどより少し弱く、スライムに浮かんだ刻印も2画である。

 命令をされていないスライムは特に何の反応も示さないが、レインが呼べばそれに従って近くへ寄ってきた。


「契約したウンディーネさん、聞こえるかしら? スライムの製作者である私が許可するから顕現していいわよ」

「ふえ? 顕現がこんな簡単に……?」

 顕現したウンディーネはまだ少女ぐらいの幼さである。彼女は人間と契約するのは初めてだったが、予想よりも契約者の魔力が扱いやすいことに困惑していた。

 どうやら、意思の無いスライムの魔力は精霊と反発しないので、ほぼ自由に魔力を使うことができるようだ。

 しかし、彼女は不自然な状況に不安になったのか、周囲をキョロキョロと見回している。そして、タコが視界に入ると悲鳴を上げて縮こまってしまった。


「ぴぎゃー!? カミサマー!?」

「おやおや、最近似たような声を聴いたばかりね」

「ううう、その話はしないで下さい」

 タコがアレサンドラのウンディーネの方を向くと、彼女は顔を赤らめてうつむく。だが、今回は彼女をいじめるのが目的ではない。改めてスライムの方に向き直る。


「さてさて、スライムと契約しウンディーネちゃん……長いから『サフィー』ちゃんにしましょうか」

 何とか落ち着いたウンディーネがこくこくと頷く。ちなみに、タコが付けた名前は、スライムが装備している宝石の名前『サファイア』が由来である。


「サフィーちゃん、あなた水の操作ができるでしょ? だったらこのスライムの体を人間みたいに操作できない?」

「え? うーん。分かりました、やってみます」

 タコの言葉に従いサフィーがスライムの体に魔法をかけると、その体がうねうねと変形を始めた。だが、やはり難しいのかせいぜい棒人間のような形にしかならない。


 その時、彼女はふと何か思いついたのか、顕現を止めて姿を消す。どうしたのかとタコが心配していると、スライムはゆっくり形を変え、先ほど顕現した時と同じ少女の姿となった。


「で、できました! どうです? 何か変ですか?」

「おー、やったわね! どこから見ても可愛い女の子よ!」

 どうやら、精霊は顕現するときに契約者の魔力を使って形をとるが、代わりにスライムの体を同じように使ってみたら上手くいったそうだ。

 しかも、この状態なら魔力で顕現するよりもはっきりと世界を認識できるらしい。


「す、すごいです! 世界ってこんなに綺麗で、刺激に溢れていたんですね!」

 今までぼんやりとした魔力の中しか知らなかったサフィーにとって、初めての世界、初めての肉体は、あまりにも強烈だった。

 大きく目を見開いてぐるぐると周囲を眺めながら、喜びを表現するようにワタワタと手を振っている。

 だが、慣れない肉体のせいか彼女の動きはぎこちない。何とか歩行もできるようだが、それはゾンビのように不安定な動きであった。


「む、歩くのは難しいですー。おっとっと……うわっ!」

「あら、大丈夫? 初めてなんだし無理をしなくていいわよ」

 結局、数歩で転んだサフィーをレインが受け止める。

 その後も彼女は練習を続け、歩きや日常の動作ならば自然になってきた。しかし、不意にその体がスライムに戻ってしまう。


「あら、どったの?」

「MP切れね。しばらく休んでなさい」

 その言葉に従いスライムは伸びをするように地面に薄く広がる。

 どうやら、スライムの体で顕現するのはMPの節約にもなるようだ。初めてにしてはかなりの長時間、顕現ができたといえる。


「タコ様、作戦の内容は概ね理解したのですが、さすがに顕現し続けるのは無理ではないでしょうか?」

 ヴァレンティーナが思いついた疑問を口にした。実際、スライムは作成者が直接行う命令しか聞かず、事前に動きを設定しておくこともできない。

 つまり、MPが不足して顕現できない間、スライムと契約したウンディーネは移動することすらできなくなる。確かにそれでは酷な話であろう。

 しかし、タコはちゃんと対策を考えていた。


「大丈夫! その辺はちゃんと考えてあります! さてさてスライムちゃん、これを飲んで」

 タコはインベントリからMPとSPを回復させるポーションを取り出して、スライムに飲ませる。すると、スライムが再度変形してサフィーの姿をとった。

 あれだけのエネルギーがすぐさま補給されたことに、サフィー自身が驚いている。


「さて、サフィーちゃん! このポーションがあれば、ずっとその状態を保つことが可能よ! さあ、欲しくない?」

「ほ、欲しいです!」

 そもそも、精霊が人間と契約を行う一番の理由がこの世界と接点を持つためだ。だが、通常の契約では世界を感じることで精いっぱいであり、顕現するには契約者の許可が必要である。


 しかし、意思のないスライムの肉体を使う方法ならば、精霊はこの世界の生物と同じようにふるまうことができるのだ。

 先ほどのサフィーがそうだったように、その感動は計り知れない。既に彼女は、元の生活に戻ることなど考えられなかった。


「うふふ、そんなに欲しいならあげましょう! ただし、条件があるわ。働かざる者食うべからず! あなたには水中農業をやってもらいます!」

 伏魔殿では現在、陸上での農作業しか行っていない。海藻などの海で育つ植物はあるのだが、さすがにそのための体制を整えるのが困難だからだ。

 水中での作業が得意なタコやイカ達はそれなりに忙しく、農業ばかりに時間を割くわけにもいかない。


 半魚人たち増員するという手もあったが、ここでタコが目を付けたのはこの湖とウンディーネである。

 ちょうどレインが精霊を見てから色々と考えており、その検証も兼ねて実験を行うことにしたのだ。


「この水草を育ててちょうだい。これが、さっきあなたが使ったポーションの材料になるのよ!」

「それから、余った資源をスライム……あなた達の肉体を強化する素材に変換できるわ。そうすれば、SPやMPに余裕が出るでしょ」

 その素材はそこまでレアでもないので、錬金術でも現実的なリソースで作ることが可能である。農業が軌道に乗れば、少しずつスライムの能力を上げていく事ができるだろう。


「ところでタコ様、なぜこのスライムは紫色なのですか?」

「ああ、その子はパープルスライムって言うんだけど、魔力とMP特化タイプなのよ」

「高価な材料を使えばもっと強い個体も作れるんだけど、ウンディーネが何人いるかも分からないのに無駄遣いはしたくないしね」

 このスライムの本来の使い方は、主に作成者への魔力供給や、儀式魔法などの人員にすることだ。要はバッテリーである。

 放っておけばMPが回復するので、意外と人気がある種類であった。ちなみに、スライムは元々SPが高い種族なので、顕現する際にもその辺は問題が無い。


「そういえばウンディーネちゃん、この湖にあなた達は何人くらいいるの?」

「百人は超えてますね。千まではいかないと思いますけど」

 

「スライムの量産はマツリカにもできるし、宝石の強化はオレガノでいいわね」

「後は契約だけど……サンドラちゃんは忙しいわよねぇ」

 さすがにこれだけの数に契約を行うのは、一日二日で終わるものではないだろう。

 どうしたもんかとタコが悩んでいると、ジュリオが声を上げた。


「でしたら、僕がやりましょうか?」

「あら? できるの?」

「ええ、契約の方法は知っています。取り急ぎの仕事は終わっていますので、しばらくはご協力できるでしょう」

 そう言えば、この子は王族の関係者だったとタコは思い出す。

 これで問題は解決かなと考えていると、そこにまた別の声が上がった。


『待……て、ナン……ジラ』

 それは、まるで呪詛のような暗い声だった。その発生源はジュリオ……の後ろからである。

 何事かと全員の視線がそちらに集まると、ジュリオが突然うずくまり右手の刻印が水色に輝きだす。そして、新たなウンディーネがその近くに顕現した。

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