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2章 世界は表と裏でできている ⑧

「富嶽の言葉じゃないが、未来ある若者に聞かせるには恥ずかしい話だよ。

 第2次世界大戦以降、国連の設立など、国際協調の考えが一般に見え始め、世界の壁が薄くなっていった。サンプルの少ない能力研究において、世界各国との協力は研究者の間では急務とされた。

 ……そう、研究者の間では」

「政治家の間では違うと?」


 第2次世界大戦の終結によって、世界は大きく変わっていった。国家間のつながりは表向き、より経済的な側面が重視されていき、程度の差はあれ、各国家は孤立せずに発展の道を歩むことになった。在人たちも学校の授業で習うようなことである。

 しかし、その後の世界でも、争いがなくなったわけではない。各国にそれぞれ思惑があり、当たり前に自国の利益を優先して得ようとする。


「超能力の扱いについて、世界各国の態度は大きく分けて2つ。隠匿するか、どっちつかず。

 どちらかと言えば多いのは、一部の先進国と比較的小さな国の多くが主張する、隠匿派だ。表向きは能力者に対する理解と、一般人の混乱等に配慮した有効な対策が練られるまでは伏せられるべき、だそうだ」

「まぁ、超能力は色々と使えることがありそうってんで、自国の研究をあまり外部に出したくねぇんだろ」

 そう富嶽は口を挟んだ。


「公開すべきという話もなくはないんだけどね。ただ、先進国の意に反することになるから、公開に踏み切った時、実際に問題が起きてしまうと、国際関係の悪化にもつながってしまう。とりあえずは多数派の意見を尊重して、まぁバレた時にはそちらの責任にでもするつもりだろう。

 ちなみに、日本でも似たようなものでね。能力のことを知っているのは政治家の中でも一部の者だけだが、その中でも意見が割れている。おかげで支援や手続きにもたまに問題が起きる。たまにだけどね。まったく、こういう時ばっかり多数決で強引に決めようとはしないんだから、都合がいいよねぇ」

 なんともブラックなジョーク(?)である。目の前のコーヒーより深い闇に、在人は笑いごととは思えなかった。


「それでだ。現状他国との意見交換の場は、『学会』と『会議』の2種類くらいだし、積極的に何度も開催されてはいない。おかげで今回の件もあまり話し合われてはいないんだが、問題は、どうもこの件をあまり議題に上げたくない国がありそうってことでね」

「……どういうことですか?」

「個人的な付き合いのある他国の研究者たちと連絡を取ってみたんだが、日本と同じように、薬物による能力の覚醒と暴走が確認されている、と一部の国から回答があった。そして、その中でもとある研究者がこう言っていたよ。今回の件は他国には内密にするよう指示があった、と」

「どうしてそんな……」

「確証はないが、その国には能力者の数が少なくてね。多分サンプルを増やしたいんだろう、と、そう言っていたよ。おかげで研究よりも対処が忙しい、ともね」

 能力者が少ない以上、能力者に対抗する人材にも困ることになる。もちろんそれによる被害も拡大するだろう。協力体制を整えることですぐに変わるということはないかもしれないが、現に被害が出ている以上、解決を目指すべきであるのが、国家としての在り方ではないだろうか。これは、それほど優先されるべき研究なのか。


「……前に、誰かがこんなことを言っていたよ。

 もし今、世界大戦が起きるとしたら、核兵器をどのように使うかが大きな鍵となるが、それまでに能力戦争に持ち込んでしまえばその限りじゃない。政治家連中はそんなことを本気で信じているんだと」


「……冗談みたいな話ですが」

「仕方ないさ。核兵器は一部の先進国以外じゃあ研究するだけでもリスクが大きい。対して、能力者は秘匿しやすいうえに、本人がいれば関連技術に流用可能。その他諸々、利点のある研究だ。そのくらいの夢は見たくなるだろうさ」

「でもそれ、逆に言えば、危険な能力が他国に発見された時は……」

 その国を早々に潰しにかかるのでは、と。その危険な可能性を言及しようとした在人だったが、弧月は口に出されずとも理解していた。その可能性に考えがまわったことには、弧月も内心舌を巻いていたが。


「……可能性としては、そういうことになるかもしれないね。だからこそ、腹の探り合いが慎重に行われているわけだ。能力研究が進めば、どんな能力にも対応しやすくなるが、研究成果を共有しすぎれば、その優位性が失われるどころか、その国にしかいない能力者の研究に更なる成果をもたらしてしまいかねない、と。上の政治家さんの意見だけどね。

 そういう意味では、超能力は私たちの生活を支えていると言えるかもしれないね。その微妙なバランスが世界を平和に保つための支えになっているのだから」

「……やめてくださいよ、ホントに」

 在人は、そんな特大の皮肉を聞きたかったわけではないのだ。


「まぁそれはともかく、総括して、1つ言えることが、とりあえずこの国のことは我々で対処せざるを得ない、ということだ。

 なので、まずは直近の事件にあたってもらいたい、という話だったんだが……」

 弧月の操作で、画面に情報が表示される。

「! こいつは……!」

 在人達の目に入ってきたのは、見覚えのある男。

 今回の事件を起こし、在人をボロボロにした張本人。


「彼の名前は原田(はらだ)(ごう)。年齢は18。一昨年隣町の高校を中退して、時々バイトをしながらこの辺りをうろついていたようだね。

 能力は爆発を起こすことで、現象系。叶芽くんの証言と、映像を元に確認した結果、空気中の水分を分解して、水素と酸素の化合物を爆発させる方式だったよ」

 弧月が調査資料と思しきものを見ながら、情報を読み上げた。

 それを聞く在人と観咲の表情は、その時の事を思い出してか、少し複雑そうだ。


「……そいつは、今は?」

「それを聞いて、どうするんだい?」

 弧月が返した質問は、彼が意識して軽い聞き方をしているように、在人には感じられた。

 だから、在人は何でもないことのように、

「いや、あの事件の顛末を何も知らないので。やらかした能力者とかどうなるのかな……と」

 そう答えた。


 弧月はその答えをどう受け止めたかは在人にはわからなかったが、どうやら気に留めるべき答えではなかったようで、そのままの流れで話を続けた。

「とりあえず能力者用の留置所で治療と事情聴取だね。幸い、彼は状況を把握した後は中々に協力的でね。聴取自体はおおむねスムーズに進んでいる。

 ただ、成果は芳しくないね。

 彼は薬をいつ飲んだか憶えてないそうだ。……そもそも、多分彼は薬には関わっていないんじゃないか、というのが捜査担当者の見解でね。薬物反応も出ないし、所持品の中にもない。受け答えはしっかりしていたし、能力を得る直前の記憶もはっきりしていたらしい」


「? 薬をいつ飲んだかは憶えてないんですよね?」

 弧月の説明では『クラッカー』は即効性だ、ということだった。つまり、能力を得るタイミングは薬を飲んだ時とほぼ一緒のはずではないだろうか。


「能力を得る前、彼は彼を慕っていた子分二人とファミレスでくだを巻いていたと証言があり、調べたところ、そのファミレスは事件の前日夜に爆発事故が起きていた」

「爆発……事故?」

「一応事故として処理するみたいだけど、何が爆発したのか本当のところ掴めていなかったみたいで、状況からして、原田くんの能力によるものだろう。

 裏も取れたと、先程連絡があった。彼の子分の1人から事情を聴くことができたらしい」

 新たに、画面に表示される。在人たちにも見覚えのある、小太りの男だった。


「名前は大野(おおの)衛輔(えいすけ)。原田くんのいた高校の1年生だが、留年した形のようだ。去年の半ばから不登校になっていたみたいだね。

 ファミレスの時も現場にいて、よくわからないが、突然原田くんが苦しみだして、爆発が起きた、と。その後、街はずれで能力を使って暴れた後、朝方に気絶するように眠って、起きた後、静止の言葉も聞かず、上懸高校に向かい、……後は、君たちの知る通りだ。

 ちなみに、彼からも薬物反応は出なかった」


「……」

 ここまでを聞き、在人は心の中で、容疑者にある種の確信を抱いていた。

「……じゃあ、もう1人の方はどうなっているんです?」

 そして、もちろん、捜査のプロがそれを睨んでいない訳はなかった。


「……小鹿(おじか)帯十(おびと)向進(こうしん)高校を留年している1年生で、目下捜索中だよ」

 向進高校とは、上懸市内にある進学校だ。そのため、上懸高校とは住み分けができていた。


「2人は上懸高校での事件の際、坂の上からグラウンドを見ていたらしく、詳細はよくわからないながら、原田くんの敗北を知り、大野くんがどうしたらいいのかわからなくなったのに対して、小鹿くんは怯えたように逃げていったそうだ。

 その後しばらくして、原田くんを探してあちこち回っていた大野くんを確保。だが、小鹿くんは消息が不明だ。現在、最重要参考人として探しているが、人手を増やしにくいからね……」

 現状ではあくまで能力暴走事件の参考人であるため、事情を知る関係者のみによって捜査されているが、消息不明の人物を探すには、単純に人手が必要になってくる。せめて、当人と薬物の繋がりが認められれば、麻薬捜査のチームを回せるのだが、今の段階では難しい。


「そこで、君たちには任務として、小鹿帯十の捜索をしてもらいたい」

 弧月は、冬華たちの方を向いてそう告げた。

「了解しました」

「……了解」

 冬華とアリシアが、それぞれ答える。


 次に、弧月は在人の方を向き、

「御劔くんはとりあえず療養しててくれていい。叶芽くんもついていてあげてくれ。まずは体がもう少し落ち着いてから……」


「……いえ、俺も行きます」

 そう、在人はハッキリと口にした。


「おにぃちゃん……?」

「……」

 その言葉を聞いて、少し心配そうな声を上げた環奈とは対照的に、観咲は穏やかだった。


「無理をするようなことじゃないんじゃねぇか、と思うがね」

 口を挟んだのは、富嶽だ。今までの説明は主に弧月がしていたが、仕事に関する権限は、基本的に富嶽が持っているものなのだ。


「……今思えば、この小鹿ってやつはなんか様子がおかしかった。クスリを使っていたかもしれない、と聞けば、納得もできるくらいには。証拠があるわけじゃありませんけど」


 そして、そんなこととは関係なく、


「巻き込まれたとはいえ、あの件は、俺を狙ったものでしたから。なら、俺が、ケリをつけます」


 というよりも、


「正直、復讐とかは趣味じゃないんですが……、これだけボロボロにされて、じゃあそれでおとなしくしますってのは、違う気がするもんで」


 もしかしたら、その感情も、能力が目覚めた影響で強くなったものかもしれない。


 けれど、その想いを押し固めて、冷静に、これから戦う決意を顔に浮かべ、


「これは、俺がやるべきことです」


 それを聞いて、ほんの少しの間、皆が沈黙する。そして、

「……フ……ハハッ。いいだろう。なら、頼むぜ。この一件」

「了解です」


 富嶽の了承を得て、在人の参加が決まった後、弧月は観咲に尋ねた。

「叶芽くんはどうする?」

 観咲は穏やかな笑顔のまま、

「私も大丈夫です。一応、お目付け役みたいなものですから」

 ハッキリと、そう答えた。


「そう。じゃあ君たちの装備を出さないとね」

「装備?」

「ああ。ゆっくり考えるつもりだったけど、とりあえず良さそうなのを出してみようか」

 そう言うと、弧月は少し離れたところにあったサイドテーブルのようなものを引っ張ってきた。その上には、何かが置かれている。

「本当は装備関連の説明に使おうと思って、とりあえず選んだ御劔くんの装備案なんだけど、使ってみるかい?」


 そして、近付いた在人が見たものは……。


「……こ、これ……は……?」


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