相棒は豹変する
「マモル・ヤマシロ様、入会手続きが完了いたしました。こちらのギルドカードはギルド員の証であり、身分証にもなりますので無くさないようご注意ください」
渡されたのは暑さが2~3mmほどの銅製らしきカードであった。
表面を見ると名前が記入されており、今は0だが貢献値なる物が記載されていた。
後ろにはウニョウニョとした変な模様が刻まれている。
「えーっと、この貢献値ってのと後ろの模様は?」
「貢献値はギルドへの貢献度を表した値で、一定値を超えるとランクアップします。後ろの模様は魔力パターンを記したものですが、普通の人には見ても分かりませんので気にしないでください」
「なるほどです。それにしても貢献度でランクアップですか……」
「はい、最初はブロンズランクで、貢献値が1万になりますとシルバーにランクアップが可能です。ちなみにギルドに銅貨1枚分の利益をもたらすことが、ブロンズランクの貢献度1に相当します。要はこの場で金貨1枚分の献金をしていただければランクアップできまるってことです」
なるほど、さすがは商人ギルド。
ランクも金で買えって事か。
「ありがとうございます。他に注意すべき点とかありましたらお願いします」
「そうですねぇ、駆け出しのギルド員は最低でも1ヶ月に1度は商取引を行ってください。余りに商人としての活動を認められない場合、最悪除名もあり得ますのでご注意ください」
これもよくあるパターンだな。
商人として貢献する気も無いのに登録する奴、つまり俺達みたいのを弾くためだ。
「それはまた……えーとちなみに、商取引はどんなものが該当しますか?」
「簡単な物で言えば、当ギルドでの商品の売買も該当致します。まずは当ギルドへと商品の持ち込みをされてはいかがでしょうか?」
「なるほど、それが良さそうですね。何か売れそうなものが有ったらまた来ますね――あっ、それでですね、魔物の素材とかも買取対象になってますか?」
「はい、なっておりますよ。ただ、魔物関連の素材は冒険者ギルドで買い取ってもらうより、1割ほど割安となってしまいますのでご了承ください」
やはり魔物を倒して素材を売る、王道だよね。
1割の割安なら許容範囲だ。
レベル上げて自信が付いたら、冒険者ギルドにも入会すればいいしね。
ならば聞くことは一つだ。
「あのですね……この辺りでゴブリンより弱い魔物が居たら、教えてくれませんか? どうか、お願いします!」
「ゴブリンよりもですか……承知しました。まずは角兎と大鼠ですね。素早くて仕留め難いのが難点ですが、危険は少ないです」
「素早いのですか……正直、倒せる自信が無いですね」
「そうなるともう、この辺りでは悪草くらいなものですね」
ふむむ、悪草? なんだそりゃ。
「なるほど~、ちなみにどういった相手なんです?」
「悪草は膝丈ほどから胸くらいまでの高さの植物型の魔物です。基本的には動きませんが、触れることで反応して近くの生物を捕食します。遠くから根元に槍を突き入れると、簡単に倒せるそうですよ」
「勉強になりました。まずはその悪草を倒してみますね」
「王都の南側にたくさん生えてるそうですので頑張ってください。まあ悪草から売れる素材は取れませんけど。取れる魔石もクズ石ですし……」
「うっ、そうなんですね……まあ試しに行ってみますよ」
例え金にはならなくとも、まずはレベル上げだ。
一般人の戦闘力を5とするなら、今の俺達2人の合計戦闘力は1である。
ちなみに俺が2で小森ちゃんが-1だ。
こんなんでゴブリンとかと遭遇すれば、あっさり詰むだろう。
着実に一歩一歩行くしかないし、相手が動かないのなら重荷をパージして俺の戦闘力は2倍になる。
「よし、行くか!」
「お待ちくださいお客様、お荷物をお忘れです」
気合を入れる俺を止め彼女が指さしたのは、未だに登録用魔道具に魔力を込めようと格闘する小森ちゃんだった。
なあ……このまま忘れてっちゃダメかな?
商人ギルドへの入会が無事に済んだ俺達は、念願の身分証を手に入れた。
これで王都の出入りが出来るはずだ。
小森ちゃんを背負って10分ちょい歩き、街の南門まで辿り着く。
ちなみにここまでの間に、空き地などで『拠点設置』を試してみたが、どうやら街中では実行不可のようだった。
南門を出入りする人はそれなりに多く、20分ほど待たされて俺達の番になる。
街の出入りは身分証の提示だけで済む場合と、料金が掛かる場合があるようだ。
どういう基準で区別してるのかは不明だ。
俺達は身分証の提示だけで済み、通過する際に門番のオッサンに声を掛けてみた。
「あのう、これから外に出て悪草を倒そうと思ってるんですよ」
「おう、それは助かる。なんだったら俺が案内してやっても良いぜ」
「えっ! 良いんですか?」
「ああ、お前が刈ってくれるなら俺達の手間が省けるんだ。悪草なんて銅貨1枚の特にもならんから誰も刈りたがらない。かといって放置するわけにもいかず、定期的に俺達が刈ってるんだが、これが面倒でな」
「そうなんですね、ではお言葉に甘えさせていただきますね」
案内人ゲットである。
繁殖場所を聞くだけのつもりだったが、探す手間が省けて良かった。
オッサンの案内のもと門を出てすぐ外壁にそって西側に向かい、3分ほど歩いたところで足を止めた。
そこには腰ほどの高さの草が大量に生い茂っていた。
「ここら一帯は魔物もめったに出ないから、安心して刈るといい」
「ありがとうございます、出来るだけ頑張ってみますね」
去り際に「頑張れよー」と応援してくれたオッサンに手を振り、その場に小森ちゃんをパージして座り込んだ。
俺も少し休憩だ。つうかマジ疲れたわ。
「あの…………ご苦労様でした……」
「……それを言うなら、お疲れ様な」
軽くイラっとしてそう返してしまったが、少し大人げなかったかもしれない。
俺は彼女の守護獣なわけだし、間違っては居ないわけだしな。
それに、何を間違ったのだろうとアタフタする彼女の姿を見るに、他意は無かったのだろう。
この辺りの微妙なニュアンスの違いは、社会に出ないと分からないかもしれんからな。
とは言え指摘せずに放置するのもなぁ……親が居るなら話は別だが、彼女の近くに居る大人は俺だけだ。
「ご苦労様は目下の者に使う言葉だから、あんまり使わんほうが良いぞ」
「あ……え…………そうだったんですか……御免なさい、次から気を付けます……」
「分かれば宜しい。さてさっそく拠点を設置しちゃおうか」
よしよし、素直ないい子だ。
そう頷きながら、気を取り直して『拠点設営』を試してみる。
やはり街の外なら設置できそうだ。
「よし行くぞ」
「……どうぞ」
周囲に誰も居ない事を確認し、俺は頭の中で『拠点設置画面』で購入済みのテントを選択し、『設置』ボタンを押す。
すると途端に俺の目の前が、煙のような白いモヤモヤに覆われていき、しばらくしてそれが消える。
モヤモヤが消えた後に残されたのは、濃い目のベージュ色の小さなテントであった。
高さは1メートル程なため四つん這いにならないと入れなそうだが、中に入りさえすれば横になって休む分には問題無さそうな広さはある。
「これは凄いですね! あの、中に入っていいですか?」
「いいぞ、中で休むといい」
「わーい。――――あっ、床面がちょっと柔らかいんですね。それに、この狭さも落ち着きます。なんか秘密基地みたいで凄くステキですよ、山城さんも入ってみてください!」
等とはしゃぎだす少女が1人。
「そうだなぁ……って、誰だキミは!?」
「何を言ってるんです? 私は小森陽雪ですよ。決まってるじゃないですか~」
「小森ちゃんがそんな真面に喋れるわけ無いだろう! 小森ちゃんを何処に隠したんだ? 今なら素直に白状すれば許してやらなくも無いぞ!」
「隠してませんて! ほらほら、あなたの可愛い小森ちゃんですよ~」
等と可愛らしいポーズをとる少女が1人。
「…………やっぱり偽物だな」
「何でですかー!? うぅ、酷いです……私達、一生を誓い合った仲なのに……」
「知らんて……はあ、とりあえずキミが小森ちゃんと仮定して話を進めようか」
「仮定なんですね……まあいいですけど」
見た目は一緒なのに、雰囲気がまるで別人のようだ。
「それで、どうして急に小森ちゃんは変わったのかな? もしかして今まで猫被ってたとか?」
「いえそうでなくてですね……何か今まで押さえつけてたものが急に無くなったといいますか、凄く楽になったのですよ。山城さんも感じません?」
「ふむふむ、そう言われると俺もそんな気がしてきたな」
こう、今まで感じていたプレッシャーが無くなったような感じだ。
「あっ、もしかして…………やっぱり! 山城さん、ステータスを見てください!」
「ステータス? 分かった見てみよう」
そうしてステータスを見ると、確かにこれならという納得できる変化が起きていた。
どうやら俺達コンビは中々に相性が良さそうだ。