そして幸せに暮らしましたとさ
これにて完結です。今までお付き合いいただき、ありがとうございました。
恋愛タグがようやく日の目を… あ、でも花畑も恋愛はしてるか。
これもちょっと虐待表現とかありますのでご注意を。
side:アネモニア____
僕はここに来るまでゴミのように生きてきた。
しょっちゅう悲鳴が聞こえる陰惨な館で、物陰にへばりつくように息を殺し、食べ残しを漁って。
誰かに見つかったら、眉をひそめて罵られたり蹴り飛ばされたりするから。
遠い昔、誰かに抱きしめられたような気もするけど、はっきりと物心ついた時には、そんなふうにただ目障りなモノとして。
全員が全員そんな人じゃなく、たまにご飯をこっそりくれる人もいたけど、いつもふらふらして大声なデンカって人なんかは、わざわざ僕を探しに来て殴ったり蹴ったり。
当時はお腹いっぱいっていう感覚すら分からず、殴られてあちこち痛くなってしばらく起き上がれなかったりして、いずれこのままずっと動けなくなるのかなぁ、と思ってた。
その日も。いつものようにデンカに殴られ蹴られて。
気が付いたら一人だったからなんとかそこから離れて。
でも人のいない暗がりで、とっても気分悪くなってうずくまってそのまま起き上がれなくなって。
なんだかさむい… くらい… なにもかんがえられなく…
「?」
気が付いたら、なんだか体があったかくなって。口の中に今まで食べたことのない美味しい物が。
夢中で啜って我に返ったら「もう大丈夫ね」って誰かが頭を撫でて。
うっすらと開けた目に映ったのは、不思議な瞳。引き込まれそうで吸い込まれそうな深い深い瞳。
そのまま背を向けられて、嫌だと思った。 離れたくない! 置いてかないで!
なのに声は出ず、気が付くと館の中はバタバタしていて。そして男の人に話を聞かれた。
デンカが死んだ。で、何か気付いたことは… とっさにあのひとのことが頭をよぎったけど、何も知らないと答えた。
そして僕はこれから、とりあえず使用人として身を立てられるように預けられると。
大きくなって立派になったら、いずれあの人に会えるか、見つけられるだろうか。
とりあえず頑張ろう…
え? 王女様付きに? どうして?
王女様が望んだと聞いて、ひょっとしたらと期待して会ったものの、とっても綺麗で仕えられるのは光栄だけど、違う?
綺麗だけど、ガラス玉のように何の感情も映さない瞳で。
こっそりがっかりしてたら… 二人っきりになった途端、屈むように言われて。
その通りにしたら頭を撫でてきて「元気そうね」と。
バッと顔を上げて見たら。ああ、あの瞳だ…
なんだか安心して嬉しくて、ちょっと泣いちゃって恥ずかしかったなあ。
それからはローラ様の恥にならないよう、役に立てるよう、お勉強。
使用人の勉強の他も、ローラ様が知ってることや習ったことを教えてもらって。
政治や地理、魔法などなど。
時にはこっそり持ってきた材料で、「ぷりん」とか「ほっとけーき」とか魔法で作ってくれて一緒に食べたり。 すっごく美味しかった。
そのうちなんだかいろいろやってるの知って。
本当はいけないことなんだろうけど… そうしているローラ様達、すっごく楽しそうで。いつまでもそうやってるの見ていたくて。
それにやっつけてるのがデンカみたいな相手だから、咎めるなんて。
せめて護衛くらいはしたかったんだけど、その時の僕では役に立てないから、ローラ様と一緒にいた、見覚えのある男の人にお願いして鍛えてもらったり。
学問も、いっしょに学園に入れるように先生を付けてもらって。
なんでかローラ様が学園での単位取得を早めに済ませたい、って言うから一緒に取得して。
それで、あとは来ても来なくても大丈夫って状況になったら、なんでかしばらく学園には来ないようにって。
しばらくして許可が出てのぞいてみたら、王太子殿下やリースリーン様、一人の女の子をちやほやと。
「あの子をどう思う?」って聞かれて、なんだか惹かれるものはあったけど… 振り返ったら、ローラ様、今まで無かった観察するような眼を僕に向けていて…。
<あの子を選んだらローラ様には切り捨てられる>と悟った瞬間、一気に背筋が冷えて、あった繋がりが断ち切れた。いいや、自分で全力で切った。
まあ、ローラ様に娯楽を提供できるならそれはそれで嬉しいけど…、多少は情があるなら余計な心労は掛けさせたくないよね。
「特になんとも」と答えて、しばらくは様子を見られていたけど、納得されたようで。
でも僕は学園に近づかない方がいいとのことで、ローラ様だけあちらのフォローを。
で、僕は… これ、チャンスなんじゃないだろうか。
ローラ様の婚約、リースリーン様へのあの冷えた眼差しからすると、きっと破綻する。
王太子や他の取り巻き達も、あのままならきっと娯楽に供される。
僕も王家の血筋だ。この別行動の内に全力で成果を挙げて、そうだ、影にも協力してもらえれば…。
王様もローラ様の価値は正しく認識していないし。
リースリーン様とローラ様の婚約は、将来の別れを初めて認識させられて悲しかった。
さりげなくローラ様が距離を置いていたからあれだけど、ローラ様を娶れる身分があることは羨ましかった。
ローラ様に追いつきたくて頑張ってたんだけど、今の僕はそれなりに力がついている。今ならいろいろと手が届きそうだ。
ここが勝負時。
あ、???。 ローラ様には内緒でね。
side:???____
「ローラ様、私と共にこれからの未来を歩んでもらえませんか」 「え?」
やった! とうとうアネモニアが告白した! さあ、どうする? わくわく
「好きです。初めて会った時より貴女に溺れています。今も気持ちは変わりません」
「え、そんなに? … ごめんなさい、ちょっと考えさせてもらえる」
あー、珍しく動揺してる。
でも真っ赤になった顔を見ると結果はねぇ。アネモニアもそれは分かっただろうからね。
「はい。お待ちしてます」
おー、ここでさりげなく手にキスを! 顔がますます赤く…
テーブルに突っ伏して顔を隠した彼女が落ち着いた頃に問いかける。
「で、どうするの~? 本気だよ~。いろいろ力付けるのに頑張ってたし、子供扱いしてそっち方面は認識してなかったけど、むしろ最初っから貴女が全てってか」
「うーん、懐かれてたのは分かっていたけど、今まで本気だったのね…。そういえば告白されたのってこれが初めてかも…。でも私が全てって、視野を広げれば…」
「いや、今までで充分その機会はあったし、今後も変わりないと思うな。むしろこっちが他を選んだら全力で邪魔してきそうだし。
それに政治的な配慮でも、新公爵家には現王家から姫がいかないと血統的に少し遠いしね」
「そうよね…。でも貴女はいいの?」
「うん。『わたくし』にもアネモニアは幼馴染みたいなものだし、努力も好意も全部近くで見ていたし。
そんな彼なら、姉であり師の『私』の隣に立ってもいいと思うよ。
ふふ、3人で幸せになっちゃおう」
うん。わたくしは元々のローレライ王女だった者。元祖とでもいうのかな?
「私」が「わたくし」の感性を取り入れているんなら、「わたくし」が、元の「私」風になってもおかしくないよね?
「わたくし」は眠っていたはずじゃあって?
くすくす。 みっともない命乞いしてる声に惹きつけられて目が覚めたの。
ええ、「私」が大叔父様にオ・シ・オ・キしているトキ☆
あんなに偉そうだったのが怯えた顔をして懇願しているのを見て。
なにかしら。 とっても心が沸き立って、何とも言えない気分になって。
一瞬「私」が「わたくし」のことを気遣って止めようとしてくれたんだけど、いえ、違うの。もっと見たいの。
そしてそのまま大叔父様の終わりまで堪能して。
そこからもいくつかトラブルはあったけど。
なんとか落ち着いた王城の自室で、目が覚めた時のこと説明したら… 頭を抱えて、「そうよね~ 所詮「私」が生まれ変わった人間なんだもんね~」「女王様?」とか。
「?」 王女だけど? あ、ちなみにああいう気分、カ・イ・カ・ン♡ とか言うんだって?
へー、なんかすごくしっくりくる~
で、起きたからには主導権?返そうと言ってくれたんだけど… 「私」の感覚が入った「わたくし」には、今まで当たり前だと思ってた王女教育、面倒と思っちゃって…
しばらく説得の攻防が続いてたんだけど…
ある日、「私」がここ「おとめげーむ」の世界じゃあ、って。
本当にそうだったら「私」じゃないと対処が難しい、ってことで「わたくし」はローレライ王女お休み~。
わーい、え? あとで変われるように「私」が教育はする? わーん。
え、あの大叔父様の子供、「先王弟の子」も「こうりゃくたいしょうしゃ」?
お兄様も? ふ-ん…。
それから「私」大活躍。
まず、大叔父様の子供。アネモニアを従者としてつけてもらえるように影に脅し‥お願いしてきて。
アネモニア、最初は全力で警戒してたけど、「私」があの時の人物と理解してからは、あっさり傾倒しちゃって。
多分交流のために「ぷりん」とか「ほっとけーき」とか作ってご馳走したせいもあるのかな。
「わたくし」も食べさせてもらったけど、食べたことのない食感で美味しかった~。
他、お父様に甘えたり、お友達いっぱい作って、交流したり情報収集したり。
うーん、これ見ちゃうと「わたくし」もやっぱりある程度は出来るようにならないとダメだな。
年の功っていうか「私」ほど上手くはやれなさそうだけど。
ふふ、魔法は「私」からコツを教わりながら、近いところまではできるように。
人体のどこをどうやるといいのか、っていうのも。
実戦も影に適当な相手を回してもらってね。
魔法でのお話合いって、効果のコントロールが結構出来ますからね~。痛めつけるだけも自然なふうに息の根を止めるのも。
くすくす。 若い女と見て侮っているおバカさんが、身の程を思い知って懇願し始める様って、とってもゾクゾクしちゃうなぁ~。
そんなふうに自分で直接反応を引き出して愉しむのって、ス・テ・キ☆
あ、途中でお友達も増えちゃって。
エリス、わたくしも会ったことはあったけど… あらあら。
「私」、犯罪の種類如何だと、相手が女性でも容赦は無いけど、これも?
それにはちょっとって? どじっこ属性すぎる?
そだね…。取り上げた毒入りクッキー、明らかに変な色してるね…。
渡そうとする前、すっごく挙動不審だったね…。
この前にもなんかやろうとしてたけど、転んでぶちまけてたね…。
あそこまで向いてないと確かにかわいらしいかも… それにきっと二度は成功しなさそう。
いろんな意味で「まさかこの子が!」ってタイプだよね…
お話合いしてみると、ふーん、途中はともあれ結果が見られればいいのか。
それに自分一人だと成功率低いっての自覚はしてるんだ…。
なら、いっかな~? こっちも手が回らないところはあるし、WIN-WINのお友達になりましょ~。
そして万全の準備の下、「おとめげーむ」突入。
え~? お兄様とかナニアレ…。前は偉そうでもまだマトモだったのに。
そんな特例過ぎる扱いを享受して疑問にも思わないで、浮かれて陰で「るーと」とか「ふらぐ」とかはしゃいでるのもキモチワルイ。周りの目にも気付いてないし。花畑…?
うん、いらないねアレら。 え、終わりまで待つの~? 速攻焼き払いたい…
よっしゃー、お父様も切った! 正妃もドン引きして見捨てた。
「私」がはしゃいで「やんでれるーと」 Go!
あ、お兄様。あ、リースリーン、オルキッド… そして誰もいなくなった。 めでたしめでたし?
そうそう、「わたくし」、「私」とは別々の意識で物事を認識してるのね。
「おとめげーむ」の最中、「私」は花畑からの防御だの誘導だの罠だのに意識が向いて他はおろそかだったんだけど、「わたくし」はそちらはさほどだったから… アネモニアがイロイロやってるのにも気づいてはいたの。
アネモニアにとって「ローラ様」は「私」で、「わたくし」はその妹か娘みたいな扱いかな。
嫌われては無いけど妬かれてはいたり…。
とはいえ、自業自得な面はあるけど「わたくし」を知っている数少ない幼馴染みたいな子だもの。
それなりに気心も知れてるし、問題は無いから~ こっそり応援しちゃう♡
それに、理解ある夫ってきっと良いよね。
といっても出来るのって、知らないふりくらい? あと「私」の妨害くらいかな…。
この後、「私」はアネモニアからの告白に<YES>と返事して。
王によって大々的に、「新公爵は次の王太子である(私・わたくしの)弟の助けとなるように」とのお言葉と共に、王女との婚約も発表。
王女を得るために努力を重ねた一途な新公爵と、幸せそうな王女のお話は、最近暗い話題ばかりが続いていた社交界に、新たなめでたい話題となり。
前王太子達の醜聞を忘れさせたかった王たちの目論見も達成。
あ、ちなみに、新しく王太子となった(私・わたくしの)弟には「私」が<ノブレスオブリージュ>とかこっそり教育したりしてて。
「わたくし」も「私」から教わって、特権には義務もあるのね、とか思ってたんだけど、あれ? 一般的ではないのかな?
でもお兄様たちのこと考えると、そういう考え必要かな…。
そして、王子様(王族の子ではあるよね?)とお姫様は 幸せに暮らしましたとさ。
めでたし めでたし。
うん、幸せな物語の裏側なんて、知らない方が幸せだよね。
華麗なる復活!…
彼女達はこれからも幸せに暮らしていくことでしょう。国もますます栄えて。
うん、一部タイプの人間は、行方不明になったり早死にしたりするだろうけど…
なんというか、ゴメンナサイ…
ちょっと存在感がちらついてて書かずにはいられなくて…
お友達とかも、本来はいなかったはずなのに… 復活も当初はしてなかったり…