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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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二人の男

セリウスたちの出立予定日の、二日前。

まだ朝靄の残る時刻だった。北の領地へ、二人の男が現れた。

旅装束に身を包み、無駄のない足取りで城門へ向かう。迷いも躊躇もない。目的地を知っている者の歩き方だった。

門番が槍を構える。

「止まれ。何用だ」

男たちは顔を見合わせることもなく、まっすぐに答えた。

「私たちは、セリウス様を迎えに来ました。護衛です」

簡潔な名乗り。しかし、門番は眉をひそめる。セリウスの護衛は、今この城にいるローデンのはずだ。

新たな護衛など、聞いていない。城に入れて良いものか。緊張が走る。

やがて報せを受け、城内からセリウスが姿を現した。

外套を羽織り、いつもの穏やかな顔で。二人の男を見た瞬間、その口元がわずかに緩む。

「遅かったじゃないか」

気安い調子。門番たちの空気が、わずかに揺らぐ。知己なのか。

ローデンも後ろから現れ、二人を見据えた。

鋭い視線。

「どうして、ここに?」

低い声。男たちは、揃って肩をすくめた。

「何だ、聞いてないのか?」

呆れたような顔。その態度が、逆に場の空気を重くする。

ローデンは一歩、前に出た。……知らされていない。


「ローデンには、内緒にしてたんだ。この二人は、僕が身分を保証する」

セリウスは穏やかに言った。

門番たちは顔を見合わせ、やがて道を開ける。二人の男は迷いなく城内へ足を踏み入れた。その歩き方は、ただの護衛のそれではない。訓練された軍人の足取りだ。

石床を進みながら、セリウスが軽く振り返る。

「もしかして、人選に揉めた?」

「……多少」

短く答えたのは、背の高い方の男だった。

「少し、過剰じゃないの?」

セリウスは冗談めかして言う。

すると、もう一人がきっぱりと言い切った。

「今までが、異常なのです。護衛一人など、あり得ません」

冷静で、妥協のない声。セリウスは肩をすくめる。

「そうかな。ローデンは優秀だよ」

その名を出されても、二人の表情は変わらない。ローデンは少し後ろを歩きながら、彼らを観察していた。

隙がない。腰の剣の位置、視線の配り方、呼吸の整い方。

——強い。

そして、思い当たる。どうして、この二人が。皇国の第二副騎士団長と第三副騎士団長。どちらも、前線を任される実力者だ。

名だけの護衛ではない。戦場を知る者の気配。

ローデンの背筋に、わずかな緊張が走った。


セリウスは、ローデンと二人の男を伴って、執務室へ向かった。

重厚な扉が開かれる。中ではオルフェウスが書類に目を通していたが、来訪者の顔ぶれを見て静かに立ち上がった。

男の一人が前へ出る。無駄のない動きで書簡を取り出し、両手で差し出した。

「皇国よりの正式な書状です」

オルフェウスは受け取り、封を解く。

室内は静まり返る。紙をめくる音だけが響いた。

やがて一読し終えると、ゆっくりと視線を上げ、セリウスを見る。

「誠、なのか?」

重い確認。セリウスは真っ直ぐに頷いた。

「はい。私は、この二人と共に皇国へ帰ります」

迷いのない声。そして続ける。

「しかし、ローデンはここに、もう暫く滞在させて頂きたい」

オルフェウスの眉が、わずかに動く。

「しかし、理由が……引き続き薬草の調査とは。務まるものなのか?」

慎重な問い。

この北の領地は、学舎ではない。生半可な理由で人を預かる場所でもない。

セリウスは一歩も引かない。

「ここに来る前よりは、明らかに知識を得ています」

穏やかだが、断言する。

「ローデンは剣の使い手でもあります。居ても負担にならないよう努めます」

言い切った。執務室の空気が、わずかに張りつめる。


オルフェウスは、書簡の一文に視線を落としたまま、低く言った。

「期限が、“本人が諦めた時”とあるが……良いものなのか?」

曖昧な期限。

通常の滞在許可とは違う。年数でも、季節でもない。本人の意志に委ねる、という条項。

領主としては、頷きづらい条件だった。

セリウスは静かに答える。

「はい。短くても、長くても」

迷いはない。

「謝礼は用意しております。足りなければ、追加で用意しましょう」

金銭だけの話ではない、と分かっていても、まずは形から示す。誠意と、覚悟を。

オルフェウスは書簡を閉じた。

視線をセリウスからローデンへ移す。この青年は、自ら諦めるまで帰らないということか。

重い沈黙が落ちる。北の領地は、甘い場所ではない。だが同時に、覚悟を持つ者を拒む土地でもない。

オルフェウスはゆっくりと息を吐いた。

その判断が、城の空気を変えることになると、理解した上で。


ローデンは、無表情のまま立っていた。

微動だにせず、ただその場に在る。だが内側では、思考が走っていた。

……待て。何も聞いていない。俺が、ここに残る?しかも――期間は未定?

“本人が諦めた時”。それはつまり、自分の意志ひとつで終わる、ということだ。

そんな話は、聞いていない。薬草は、すべて確認したはずだ。見落としはない。

あるとしたら――ラニアから渡された、あの葉。あれだけは、名も効能も曖昧なままだ。

セリウスは、何かに気づいたのか?

それとも――

この二人は、セリウスの帰国路の護衛。

ならば自分が残る理由も、形としては通る。

だが。残ったとして――俺は、何をする?

薬師としてか。誰かの、護衛としてか。それとも、別の何かか。

無表情の奥で、わずかに視線が揺れた。

自分の意思ではなく、他者の思惑で動くことには慣れている。だが今回ばかりは、話が違う。

諦めるまで、ここに。それは任務ではない。

選択だ。

……何を?ローデンは、静かに息を吸った。表情は、変わらない。だが胸の奥に、小さなざわめきが生まれていた。

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