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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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泉からの帰り道

「……いいんじゃない?」

くるりと振り返ったラニアは、まるで散歩の感想でも言うような軽さだった。

「帰ろっか」

ローデンは、まだ荒い呼吸を整えきれないまま問い返す。

「……もう、いいのか?」

「うん」

あっさりとした返事。

ラニアは鞄を開き、中を確かめる。甘甘草の葉を、乾燥させたもの。そして、先ほど胸に抱いていた玉。

どちらも、もう、魔力は込めた。

自分の魔力も——補充した。

何事もなかったようにロキを伴い、歩き出す。ローデンは無言でその後ろをついて行った。

森の中は静かだ。さきほどの衝突が嘘のように、風だけが木々を揺らす。

ずっと無言だった。


森を抜け、城の石壁が見え始めた頃。不意に、ラニアが口を開いた。

「ローデンは、結構やるね」

足を止めずに、軽く振り返る。

「……そうか?」

ローデンは慎重に答えた。自分でも、何をやったのか、うまく整理できていない。ラニアは微笑む。

「あそこで、動けるなんてね」

金色の瞳が、細くなる。

……あれは、酷い。普通なら、膝をつく。剣を抜くどころではない。ローデンは心の中でそう思ったが、口には出さなかった。

「そうそう、これをセリウスに渡して」

ラニアは鞄から甘甘草の葉を取り出す。

何も包んでいない、そのままの姿。

しかし、今回のものは、きちんと乾燥させてある。

「効果は、前と同じって」

ローデンは受け取り、自分のハンカチを取り出した。

丁寧に広げ、葉を包む。

角を揃え、きちんと折りたたんだ。布は、くしゃくしゃではなく、綺麗に畳まれていた。

「あれ? 気にしてたの?」

ラニアが面白そうに覗き込む。

「違う、たまたま、だ」

即答。

……気づかれた。あの日以来、ハンカチを常に綺麗にしておこうと、無意識に気を配っていたことを。理由は、自分でもはっきりしない。

「悪くない、よ」

ラニアは悪戯っぽく笑った。その金色の瞳が、楽しそうに揺れる。

「楽しかったね」

……一体、何処が楽しかったんだ?楽しい、とは、何だ?

「ほら、ロキも尻尾振ってるよ」

ラニアは楽しそうにくるりと回った。

ロキは、そのラニアの周りを駆ける。


……何で俺は、ここにいるんだ。

セリウスを守る立場のはずだ。ラニアとは、距離を取るべき立場のはずだ。

それなのに。

ローデンは、自分の胸の奥に芽生え始めた感情の名を知らないまま、ただラニアを見つめていた。

冬の終わりの光が、二人の影を長く伸ばしていた。


城門脇の回廊から、セリウスは二人の姿を眺めていた。

森から戻ってくる影。並んで歩く、ラニアとローデン。最初にラディンという男が現れた時は、正直、穏やかではなかった。しかも、ラニアと妙に距離が近い。

だが、しばらく見ていれば分かる。あれは身内に近い。


それに比べて——

セリウスは、ふっと口元を緩める。ラニアは変わらない。

自由で、計算高くて、どこか無邪気だ。だがローデンは。いつ見ても、無意識のようにラニアを目で追っている。

今もそうだ。彼女が何か言えば、わずかに表情が動く。距離を取っているつもりで、きちんと隣にいる。

……あんな所で会話か。

森帰りで、まだ人目も少ない場所。良い雰囲気だ。始まり、か、と内心で苦笑する。

自分には、そんな時間はなかった。

いや、あったのかもしれないが——先に決められた話からだ。

出立の日が近い。皇国へ戻る。

この北の領地で過ごした冬は、成果があったとも、なかったとも言える。


残念だな。セリウスは小さく息を吐いた。

自分が去った後、この城の空気がどう変わるのか。それを見届けられないのが、少しだけ惜しかった。

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