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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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リリアーナは気づく

その翌日、リリアーナはふと気がついた。

あの、淀んでいた玉が、透明になっている。

思わず手に取り、光にかざす。

……いつ?

一昨日までは、確かに濁っていたはずだ。見間違えるはずがない。記憶を辿る。

……ローデンと散歩に行った時?リリアーナは、ラニアを呼んだ。

「これ、いつこの色になったの?」

ラニアはあっさりと答える。

「昨日だよ」

「ローデンと一緒だった時に?」

「そうだけど?」

あまりに自然な返事に、リリアーナは言葉を失った。沈黙が落ちる。

自分が一番ラニアに近い存在だと、思っていた。そして、ラニアにとっても、自分が一番なのだと、疑いもしなかった。

「私は、手伝う必要なかったの?」

リリアーナは静かに尋ねた。

ラニアは首を傾げる。

「昨日は、セリウスの相手で大変だったでしょ?」

……確かに、そうだけれど。リリアーナは、じっとラニアを見つめた。

「あの淀みは、毒、よね? どうしたの?」

慎重に言葉を選ぶ。ラニアは、あまりにも普通の口調で答えた。

「森の中で、穴を掘って、埋めた」

「ローデンと?」

「まあ、そうかな」

ラニアは軽く言った。リリアーナの胸に、小さな棘のようなものが刺さる。

「ローデンは、皇国の人よ。知られても、良いことなの?」

ラニアは、まったく気にした様子もなく言った。

「知ろうと、知らないでいようと、関係ない」

「……そうじゃ、ない」

リリアーナは低く言った。ラニアは、怪訝そうにリリアーナを見返した。

「あなたは、私にとって特別なの。危険なことは、してほしくないの」

リリアーナは、まっすぐにラニアを見て言った。ラニアは、わずかに目を見開く。

「でも、リリアーナの特別は、エドモンドでしょ?」

その声音は、どこか平坦だった。

「どちらも、特別なの」

リリアーナは迷いなく答えた。ラニアは小さく息を吐く。

「我が儘だね」

「最近、ラニアと一緒にいられる時間、あまり作れなかったけど……それも、関係してるの?」

ラニアは、答えなかった。きゅっと引き結ばれた唇が、何より雄弁だった。

「黙っていたら、わからないよ」

リリアーナの声は、やわらかいのに、逃げ道を与えない。

ラニアは、ゆっくりとリリアーナを見た。その瞳は、ひどく静かだった。

ローデンは、そのやり取りを物陰から聞いていた。

……理解不能が、さらに理解不能になった。

けれど、ひとつだけ、はっきりしていることがあった。リリアーナがラニアを責めるのは、違う。

考えるより先に、身体が動いていた。ローデンは二人の間に踏み出し、ラニアの前に立つ。

「ラニアは、ずっと頑張ってた」

……俺は、何を言ってるんだ?

「問うのは、違ってる」

リリアーナの声が、静かに返る。

「これは、私とラニアの問題なの。あなたは関係ない」

その言葉に、ローデンは言い返せなかった。ラニアが、そっとローデンの服の裾を引く。

無言で、首を横に振った。それでも、ローデンは口を開いた。

「かもしれないが、ラニアをよく見てやれよ」

リリアーナは、きょとんとした顔になった。ラニアは、俯いたまま動かない。

「ラニア、来い」

ローデンは、ラニアの手を引いた。引かれるまま、ラニアは歩き出す。

その場に、リリアーナだけが残された。


リリアーナは、その場にひとり残されたまま、しばらく動けずにいた。

……違うの。

胸の奥で、言葉が渦を巻く。私は、ラニアを責めたかったわけじゃない。ただ、心配だっただけ。何かを、ひとりで抱えて。ひとりで、何かをしていそうで。それが、怖かった。

本当は、抱き締めて――

「言いたいことは、言ってもいいよ」

そう、言いたかっただけなのに。ラニアが、私に何かを遠慮している。それが、たまらなく、苦しい。


リリアーナは、唇をきゅっと結んだ。


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