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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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セラフィーネが来る

そのようにして北の領地での生活が始まったのだが、アグネッタにはリリアーナへ尋ねたいことが多々あった。

まず目についたのは、北の薬草が王都で扱われるものとは異なる種類を多く含んでいた点だ。

特に、魔獣避けに使われる薬草には強く興味を惹かれた。特定の地域でしか育たない薬草、この領地ならではの薬草——ここにはここで、実に興味深いものが揃っている。

アグネッタは、なかなか楽しい休暇になりそうだわ、と思った。


リリアーナが密かに懸念していた調合室の状態については、心配する必要はなかった。エドモンドが薬草等を丁寧に、そして完璧と言っていいほど整え、管理してくれていたからだ。リリアーナは深く感謝し、アグネッタの中でのエドモンドの評価もさらに上がった。


——薬草の知識もあるのね。ますます、良いわ。でも、領主としての資質はどうなのかしら……。


アグネッタによる“エドモンド審査”は、まだまだ続くようだった。


アグネッタに用意された部屋もまた、マルグリットが苦心しただけあって素晴らしい出来だった。上品で落ち着いた色合いの内装に、テーブルもベッドも上質な品を揃え、領主客人として恥じない設えとなっている。


——そつのない部屋ね。

アグネッタは満足げに、静かに頷いた。



リリアーナたちが北の領地へ帰還してから、一週間も経たない頃だった。

セラフィーネが、以前よりも多くの荷物を抱えて、たった一人で城を訪れたのだ。春の風を受けながら歩むその姿は、どこか期待に満ちているように見えた。


「リリアーナ、久しぶり。元気だった?」

城門に入るなり、セラフィーネは微笑んで声をかけた。


「はい。いろいろ、ご迷惑をおかけしました」

リリアーナは頭を下げる。自分が王都に移動している間、セラフィーネたちが拘束されていたことが胸に重くのしかかっていた。


「……過去のことは仕方ないわ」

そう言いながらも、セラフィーネの視線がふとリリアーナの全身を走り――ぴたりと止まった。


「ところで、リリアーナ。……ちょっと太ったんじゃない?」

容赦のない指摘が飛ぶ。


リリアーナは反射的に視線をそらした。

(……やっぱり、気づかれた)


セラフィーネはさらに追い打ちをかけるように言った。


「あとで、リュートの腕前も確認するから。覚悟しておいてね」


逃げ場のない宣告に、リリアーナは小さく「……はい」と答えるしかなかった。


「あら、セラフィーネじゃない。久しぶりね。どうしてここにいるのかしら?」

アグネッタが、城の入口に立つセラフィーネに気づき、声をかけた。


「……もしかして、アグネッタ?」

セラフィーネはわずかに身を引き、警戒したように言った。


「そうよ。調合師のアグネッタよ。もう忘れてしまったのかしら?」

アグネッタは首を傾け、柔らかく微笑む。


「雰囲気がまるで違うのだけれど……。そっちが本来の姿なのかしら?」

セラフィーネは驚き交じりに言う。


「まぁ、おかしなことを言うのね」

ほほほ、とアグネッタは優雅に笑った。


(……師匠、雰囲気が違うという意見、全面的に賛成です。完全に別人です!)

リリアーナは心の中で全力で頷いていた。


「ところで、問題は解決したのかしら?」

アグネッタは唐突に核心へ踏み込む。


「……何も話した覚えはないのだけれど?」

セラフィーネは眉を寄せて返したが、その声には微かな動揺があった。


「目を見ればわかるわよ。あの頃のあなたの目は——もっと鋭くて、獲物を探すようだったもの」

アグネッタは、さらりと告げた。


「……そうだったかしら?」

セラフィーネはとぼけたが、内心では強く動揺していた。


「ええ、そうよ。でも、ここに来たということは、まだ何か問題を抱えているのね」

アグネッタは淡々と断言した。


(さすが師匠……。一目で見抜いてる……!)

リリアーナは、あっさり本質にたどり着くアグネッタに心底感心していた


「リリアーナ、アグネッタはどこまで知っているのかしら?」

セラフィーネは、わずかに探るような声音で問いかけた。


「な、何も……話してません」

リリアーナは肩をすくめ、視線を落とした。


「そう。でも、ここに滞在するのなら、早めに伝えた方が良いのでは?」

淡々としながらも、有無を言わせぬ口調だった。


「……一体、何の話なのかしら?」

アグネッタが微笑みながら口を開いた。

その笑みは柔らかいのに、目だけが少しも笑っていない。


ひゅっと、リリアーナの背筋は自然と伸びた。


「私がここに来た理由の話よ」

セラフィーネは端的に答える。

「話すと長くなるけれど、聞きたいかしら?」


「ええ。ぜひお願いしたいわ」

アグネッタはにっこりと微笑んだ。

——やっぱり目は笑ってない。


「でも、その前に私の話が先ね」

セラフィーネはそっと言った。


「リリアーナ、あなたは甘甘草に魔力を注ぐのでしょう? 行ってらっしゃい」

アグネッタは優雅な手つきで、しかし逃がさぬようにリリアーナへ指示を出した。


そうして二人は、そのままアグネッタの部屋へと姿を消していく。


リリアーナだけを残して。


……え、当事者が残されるんですか!?

なんでーーっ!!


心の中でリリアーナは盛大に叫んだ。


こうして、リリアーナを置き去りにしたまま、セラフィーネとアグネッタは静かに部屋へと消えていった。


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