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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第4章

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リリアーナとエドモンドの時間

リリアーナ達が北の領地へ到着した翌日の午後。リリアーナもエドモンドも少し手が空いて一緒に休んでいると、エドモンドがどこか甘えるような声音で言った。


「久しぶりに、リリアーナのリュートを聞きたいな」


……無理です。王都にいる間、全っっ然触ってません。指がもう石みたいに固まって動かないに決まってます……。

この状態で弾けと……?


リリアーナはそっとエドモンドの表情を盗み見た。そこには期待に満ちた、きらきらした瞳。


「……あ、あの……少し練習してからでも……良いですか?」

おずおずと答えるリリアーナ。


「練習の時も聞いていたいな」

エドモンドは優しく、だが逃がす気ゼロの声で言った。


……嫌です。絶対に下手になってます。

初心者みたいな音を聞かせるなんて耐えられません……。しかしリリアーナには、それを口にはできなかった。


「で、では……時間が合ったら……」

誤魔化すように言葉を濁すと、


「リュートなら、リリアーナの部屋に置いてあるよ。今から練習するの?」

エドモンドが追撃してきた。


「……ソ、ソウデスネ……」

声が完全に上ずった。


「じゃあ、一緒に行こうか」


こうしてリリアーナはエドモンドと共に移動した。


部屋に行き、リュートを手に取って弦に触れた瞬間、わかった。案の定、指が思うように動かない。


「……っ、動かない……」

焦りながら試しに音を鳴らそうとするが、ぎこちない音が部屋に響く。


そんなリリアーナの奮闘を、エドモンドは暖かい微笑みで見つめていた。まるで、「その時間さえ愛おしい」と言わんばかりに。


リリアーナはリュートをそっと膝に置き、深く息を吐いた。


「やっぱり……もう少し練習してからでないと、人前では弾けません」


勇気をふりしぼって言うと、エドモンドは一瞬だけ残念そうに目を伏せた。でも、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「……わかった。無理はしなくていいよ。リリアーナの弾きたい時に聞かせてくれたら、それで十分だ」


その優しい声に、リリアーナの胸がきゅっと熱くなった。指が思うように動かず落ち込んでいた気持ちが、すっと軽くなる。


「ありがとうございます……」


控えめに礼を言うと、エドモンドは「そろそろ戻ろうか」と手を差し出した。


王城から戻ったばかりだが、、夕食前には明日からの予定を皆で打合せすることになっている。リュートは部屋に置いたまま、二人で広間へ向かうことにした。


廊下を歩きながら、リリアーナはふと横目でエドモンドを見た。

彼はさっきの残念さなど微塵も見せず、ただ穏やかに横を歩いている。


……こんなに優しい人と、これから先も一緒に歩んでいくのだ。


そう思うと、リリアーナの頬は自然と緩み、二人の歩調はぴたりと揃っていった。



そんな穏やかな時間は、部屋に入った瞬間、跡形もなくかき消えた。


そこには、わずかに縮こまったオルフェウスと、その前に仁王立ちするマルグリットの姿があったのだ。

……一体、何が起きたの?


リリアーナとエドモンドは思わず顔を見合わせた。


マルグリットは、ふたりが戻ってきたのに気づくと、にこやかに振り返り、まるで何事もなかったかのように言った。


「リリアーナに、明日からお願いすることを相談していたのよ」


……お願い?リリアーナは嫌な予感に肩をすくめた。


「……お願いとは……?」エドモンドが慎重に尋ねる。


マルグリットは一息に答えた。


「まず第一に、甘甘草を植えてある庭の管理ね。次に、城の外の一区画の世話。それから、身体づくりとして、兵士の訓練には毎回参加してもらうわ」


さらりと言うマルグリット。その口調は穏やかなのに、内容は容赦がなかった。


……それくらいなら、どうにかなる……?

リリアーナは胸をなでおろし、ほんの少しだけ安堵したのだった。


「それから、城の外の区画は――リリアーナ、あなたが“管理者”として甘甘草の成長記録をつけること。ついでに、他の者への指導もお願いするからね」


マルグリットは、まるで当たり前のことのように言い切った。


その言葉に、オルフェウスが眉をひそめる。


「俺たちの指導を……リリアーナがするのか? それは、どうなんだ?」


マルグリットは、ゆっくりとオルフェウスへ視線を向けた。目は半分ほど細まり、笑っているのか怒っているのか分からない表情。


そして、低い声で短く告げた。


「……この試策は、絶対に成功させたいのです。遊びではありません」


その一言には、反論を許さぬ迫力があった。オルフェウスは言葉を飲み込み、リリアーナはまた一つ仕事が増えたことを悟って、そっとため息をついた。


「父さん、リリアーナが教えてくれるのだし、きっと大丈夫だよ」


エドモンドは、場の空気を和ませるように穏やかな声で言った。しかしオルフェウスの胸には、別の思いが渦巻いていた。


――リリアーナと自分たちは、根本から違うのではないか。


治癒の力を持ち、魔力を注いで植物を育てる才まであるリリアーナ。それに対して、自分たちは魔力を扱えるとはいえ、同じことが本当にできるのだろうか。そもそも、この試み自体が無謀なのではないか――。


喉元まで上がってきた言葉を、しかしオルフェウスは飲み込んだ。目の前にいるマルグリットが、これ以上ないほど真剣な眼差しを向けていたからだ。


「我が領地に新しい産業が出来れば、領は必ず潤います。……リリアーナ、期待していますよ」


マルグリットの声は固く、しかし深い願いが込められていた。


その重さを受け止め、リリアーナは固まった。そして、一言かろうじて言った。


「……はい。頑張ります」


……すっごく大変なことを言われた気がするのだけど。でも、出来ませんって言えません。


「エドモンド、あなた達も手を抜かないように」


マルグリットは、容赦なく言った。


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